第3話 お兄ちゃんはビョーキ

 俺だ。渡辺楠だ。皆、耳の穴かっぽじって聞いてくれ。


 可愛いJKと一つ屋根の下。相手はいつでもカモンベイビーな状況さ。


 しかも今日は親が帰ってこないなんて言うんだぜ?


 これがどういう意味かは紳士淑女の君なら分かるよな?




 だがな……最大の障害がある。相手は妹なんだ。半分血の繋がっている……な。


 何? そんなもん気にするなだと? 気にするだろ普通!


 え? シスコンだろって? 


 ああ。俺は確かにシスターコンプレックスという名の重度の病気を患っている。


 姉妹に対して過度な愛情を抱くというアレだ。治療方法は未だ確立されていない不治の病。


 だがな……シスコンにだってシスコンなりのルールはある。簡単な事さ……。手を出してはいけない。たったそれだけの簡単なルールだ。


 これ世間のジョーシキよ?



「さっきから何ぶつぶつ言ってるの?」


「……何でもない。」


 俺ともあろう者が余計な事を考え込んでしまっていたようだ。


「私達、出会ってからもう16年になるんだね……。そろそろ次のステップに進んでみたいと思わない?」


 まるで友達期間が長かった恋人みたいな言い方だ。


 そりゃあそうさ。怜が生まれた時からの付き合いになるんだから。


 兄妹としてだがな……。


「兄妹に次のステップとかは無いんじゃないか?」


「ええ? おっくれってるぅぅぅ!」


 大袈裟に両手をバンザイして騒ぎ立てる怜。可愛い。


「遅れてる?」


 何が?


「恋人のような兄妹関係は全然アリだよ? 私の知り合いにもいるし!」


 聞いた事ないんだけど?


「本当にいる? 俺は知らないけど……。」


 いたとしたら、なんてうらやま……けしからん奴らだ。


「いるよー。例えば、友達の兄の彼女の浮気相手の弟が飼っている犬の奥さんの飼い主の旦那の従妹がね。」


 突然の情報量の多さに頭がついていかない。


 つーか全くの他人じゃねぇか! しかも浮気相手ってなんだよ!? 


 そしてお前はいったいどこからそんな情報を仕入れて来るんだ?


「赤の他人じゃん。友達の兄の彼女の……何だっけ?」


「他人じゃないよ? 仕方ないからもう一回言うね? 友達の兄の彼女の浮気相手の弟が飼っている犬の奥さんの飼い主の旦那の従妹だよ。」


 よく噛まずに言えるなコイツ……。それはそうと……


「その人は怜にとってどんな関係なんだ?」


「一言で言うなら……友達かな。」


「……。」


 最初からそう言えよ! さっきのくだり必要なかっただろ。


「その友達が……恋人のような兄妹関係なの?」


「うん。親の再婚相手の連れ子が元々彼ピだったんだって。」


 ……。


 あのなぁ……。


「それって再婚した時点で既に恋人だっただけだよな?」


「そういう説を提唱する学者もいるね。」


「仮説じゃなくてただの真実じゃん。」


「……。」


 急に黙ってどうした?


「でも恋人のような兄妹関係だよ?」


「ようなじゃなくて、それは正真正銘血縁のない恋人だろ。環境が特殊なだけで。」


「私達も正真正銘血縁のない恋人になれるよ?」


 それはあくまで書類上の話。実際は血縁関係だろうに。


「正真正銘の使い方間違ってんぞ。」


「まぁ、それは置いといて。」


 置いとくなよ……。


 仕方ない。一度落ち着かせよう。


「DNA鑑定してみる?」


「だ、だめ! そんな意味ない事したらお金勿体ないよ!」


 急に焦りだした怜は全力で否定する。可愛い。


「何をそんなに焦ってるんだ?」


「あのね……今ちょっと、DNAが出掛けててさ。10年後の八月には出会えると思うんだけど……。」


 怜は伏し目がちに答える。


 そんなDNA聞いた事も無いんですけど? 咄嗟に出てきた嘘がそれかよ……。


 とんでもない嘘つき妹だな。


「そういけずな事ばかり言わずに一回試してみて下さいよ~。お客さんきっと気に入りますよ?」


 エセ商人再び。怜は揉み手をしながらすり寄ってくる。


 まあ、少しくらいは付き合ってやるか。


「でも。お高いんでしょう?」


「そんな事はありません! おにいちゃ……じゃなかった。お客さんにだけの特別価格でご奉仕させて頂きます!」


「うそー!? 信じられなーい!」


「いえいえ、嘘じゃぁありませんとも! 今ならなんと、お客さんが選んだ下着を穿いてお見せします。」


 うん。下着ね。


 こんなに言うんだし、下着見るだけなら良いんじゃないか?


 あ、変な意味じゃなくてね?


 よくよく考えてみれば、半分血が繋がっているという事は半分血が繋がっていないという事だ。だったら下着穿いて見せてもらうくらい良くね?


「うーん……。それなら、穿いたところを先に見せてくれ。」


「お試しですかお客さん? 少々お待ちください。」


 怜はそう言って、いっひっひと笑いながらスカートに手を掛ける。


 なんか不気味だからその笑い方はやめて欲しい。


「待った。一回部屋出るから。」


「そう? 別に良いんだけど。」


 お前は良いかもしれんが俺が良くない。いや、俺も良いんだけど良くない。


「それはダメだ。一回出るから。」


「はーい。」


 俺が部屋を出る際——おかたいんだから。かたいのは股間だけにしとけよ。——ぶつぶつと呟く声が耳に入る。


 全部聞こえてっからな。


 そうして怜の独り言をBGMに俺は一旦部屋を後にする。



 うん! 我慢出来ないかもしんなーい!(笑)


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