俺の妹が前世の恋人で前前世の姉で前前前世の嫁だった。
隣のカキ
第1話 前世の記憶
俺は渡辺
俺と妹はごく普通の兄妹だ。俺達はそこそこ仲が良く、二人で出かけたりする事も多い。
そんな仲の良い兄妹としてはごく一般的な関係性を築いていたと……そう思っていた………。
前世とか前前世とか前前前世の記憶を取り戻すまでは……。
「お兄ちゃん。」
俺の部屋にノックも無しに入って来るのは我が妹——前田
「どうした?」
怜は非常に言い辛そうに言葉を詰まらせている。
「………あのね。前世ってあると思う?」
随分唐突な質問だ。
「前世? まあ……実際どうかは知らんけど、あっても変じゃないと思う。」
「そっか……。」
どうにも普段とは違う様子である。いつもの元気はどこへやら……。
何かあったのだろうか?
「私ね、前世はお兄ちゃんの恋人だったの……って言えば信じる?」
今日はそうきたか……。
「勿論信じるぞ。」
怜は時々変な設定を作っては、それがさも真実であるかのように話し出す事がある。中二病というやつなのだろう。以前、魔法が使えると深刻な顔で冗談を言ってマグカップを浮かせて見せた。
何度探っても種や仕掛けは見つけられなかったが……。
(あの時はどんなトリックを使ったのやら。)
「前世の記憶を取り戻す魔法を使ったら思い出しちゃったの……。」
成る程。そういう設定なのか。可愛い。
「それなら俺にもその魔法を使ってみてくれよ。そしたら手っ取り早いだろ?」
妹の中二病に付き合う俺って兄の鏡じゃね?
それに……どうせ魔法とか使える訳ないしな。
「やってみるね。」
そう言って俺に手をかざすと、彼女の手は淡く優しい光に包まれる。
(今日のはどんなトリックを使ってんだ?)
俺がトリックのタネを気にしていると……
(——君。好きだよ
俺も……ずっと好きだった。
嬉しい。それじゃあ私達、今日から恋人だね。
——君。ずっとこうして居たいね。
ああ…ずっと……
——君。私の事忘れないでね。
忘れない……けどさ。どうしても行かなきゃダメか?
ごめんね。親の方針で留学は決まってたから……。)
「この記憶は……。」
怜を見れば、走馬灯のように思い起こされる記憶の中の人物と重なる。
容姿は似ていないのに、何故か彼女が記憶の中の人物とかつて同じ存在だったのだと本能的に悟ってしまった。
前世で彼女は恋人だった。留学した後音信不通になってしまい、なんとか連絡をつけられないか相手の親にお願いしに行ったら……銃撃事件に巻き込まれ命を落としたのだと知らされた。
(怜がトリックを使ったタイミングで思い出すなんて、まるで本当の魔法みたいだな……。)
まあ、魔法なんてあるわけないが。きっと何かの偶然でタイミングが重なったのだろう。
「思い出せた? ——君。ずっと会いたかった……。」
涙ぐむ怜……前世の恋人である彼女を見て、俺も涙を抑える事が出来ない。
彼女が俺との距離を詰め、徐々に唇が近付いていき……
「ちょっと待った!」
なんで? 彼女の表情がそう言っている。
「俺は兄。お前妹。チューするの良くない。」
「お兄ちゃんは前世の恋人。今まで何回もした。」
「それ前の話。今は兄妹。」
「常識に捉われ過ぎ。兄妹でチューは普通。」
普通じゃねえよ。いったいどこの国の話してんだよ。
「あんなに好きだって言ったくせに……。」
怜はむくれている。可愛い。
「そうは言ってもな……。」
「やっぱり兄妹だから?」
今の俺にはかつて恋人としての関係を築いていた記憶と同時に、兄妹としての記憶もあるのだ。
いきなりチューされそうになっても、ハイそうですかと納得は出来ない。
「当たり前だろ、それに……大好きな妹である事に変わりはないさ。」
彼女はうんうんと涙を流し、今のセリフに感激しているようだ。
「ちょっと待っててね。」
急に部屋を出ようとする妹を引き止める。
何だか嫌な予感がするのだ。
「どこへ行くんだ?」
「ちょっとコンドーさん買ってくる。」
「……一応聞くが、何故?」
「一緒に使うからだけど?」
何言ってるの。困った人ね……
そう言いたげな表情だ。
困った人はお前だよ!
「いやいやいや! 俺達血は繋がってるし。」
「え? 何の問題もないよ?」
何を……
そう言いかけた俺を遮り、彼女は……
「血の繋がった妹なんかこの世にいるわけない……って言葉知らないの?」
「はい?」
変なのー! と言って笑っている。
俺か? 俺がオカシイのか?
ここで説明しておくと、怜とは腹違いの兄妹なのだ。
父は二人の女性と結婚した。日本の法律上は重婚なんて認められていないが、本人同士が良いのであれば事実婚のような事は出来る。
一人と籍を入れ、もう一人は籍を入れず同居する。
俺は渡辺
「お兄ちゃんには血の繋がった妹は戸籍上いませーん!」
「どういう事?」
話によれば……父が認知しようとするも、怜の母には事情があってそれを拒んだそうだ。
つまり、戸籍上は俺に血縁の妹なんて存在しない事になっている。
「お兄ちゃんには妹なんて居ない。オーケー?」
「でもお前は妹だ。オーケー?」
「ノォォォォ゛ー!!」
吠えるような声で否定する怜。
それJKが出しちゃダメな声だろ……。
「私たちの恋はなんだったの?」
再び涙を見せる怜。
それを言われると辛い……。
でも、だ。
「半分血が繋がっているだろ?」
「バファリンだって半分は優しさだよ?」
?
「それ……今の話とどう関係があるんだ?」
「バファリンの半分は優しさで出来ていてそれを服用すると言う事は、優しさを胃の中でドロドロに溶かしきってしまう事と同義であり、そんな倫理的にどうかと思うような行為自体、半分血が繋がっているのにコンドーさんを必要とする事と正に数学的に言うところの相似関係にあると言えると思うの。加えて言えば半分血が繋がっていると言う事は、半分は他人なのだからそれこそ大した問題ではないし、世間には腹違い種違いの兄妹と姉弟の組み合わせで知らずに結婚してる人も実は一定数存在していると考えられ、私達は戸籍上も問題無い点から……」
「待て待て待てっ! 怖い怖い。」
俺の可愛い妹が、途端にスッと表情を無くして一気に語り始めたのだ。
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