第44話:巨龍決戦!

頂点巨神エイペックスタイタンカイザーアトラス……すごいですわね!!」


「ちょっと乗ってみたいとこありますよね!」


「ですのですの!」


 アウローラから話を聞いて、遠くの方で戦う黄金の巨神を眺めて。

 ヴァネッサとエルクはきゃっきゃとはしゃぐ。

 古代の浪漫と、人間では考えもしなかった超兵器。

 エルフと鬼の技術の結晶が、眩しく映った。


「って、操縦に五人……タルヴォさんとテンキさんはともかく、あと三人必要ですの?」


「え、あの二人がいるんですか?」


 ヴァネッサの疑問に今度はアウローラが聞き返して、彼女は素直に答えた。

 すると虹龍はなんだか遠い目で、小さく。生きてて良かった、と呟いた。


「ともかく、フォティアの翼は折りましたから、暫くは飛べないはずですし。私も……ぐっ」


 そしてもう一度、ドラゴンの姿で攻撃してやると言おうとして、頭を抑えた。

 ぱきぱきと擬態の肌にヒビが入り、背中には大きな光の筋が浮かび。


「アウローラ!? エルク!! 一旦降りて!!」


「大丈夫ですか!? アウローラさん!!」


 慌てて背中を叩かれたエルクは、遺跡の近くにグリちゃんを降ろした。

 アウローラを地面にそっと寝かせると、どんどん息が荒くなって、呼吸の度にピシピシと入る亀裂が痛々しく。

 ヴァネッサがおろおろと心配する中、三銃士が叫んだ。


「脱皮!!」「アウローラ!!」「はなれて!!」


「脱皮って……」


「成体になるって……ことですの?」


「とにかくはなれて!」「ぼくたちでみるから!」「つぶされちゃう!」


 その尋常ではない様子に、二人は急いでグリちゃんの背に乗って飛び上がる。

 少しして後ろを振り返ろうとして、ものすごい風に押し出され。


「グリちゃん……!! がんばって下さい!!」


”む、むり……!”


 エルクと巨獣とで必死に姿勢を戻そうとしたが、それは叶わずに。

 目の前に黄金の壁が見え、思わず目をつぶった二人と一匹は。


――


「よぉぉぉぉぉし!! 最後の乗組員が来たな!!! 待っていたぞヴァネッサ!!」


「しょ、少年、交代しろ……朕はもう限界だ……がくっ」


「調子に乗って連射するからだぞアルゲニブ。エルク、そこの魔法陣を代わってやってくれ」


「あーふたりとも。状況がよくわからないと思うが、とりあえず位置についてくれ」


 四人の男たちに迎え入れられて、目を覚ました。

 とりあえず言われるがままに位置について、エルクは簡単な操作方法を教わる。

 その間にもぐわんぐわんと揺れるドームの中で、ヴァネッサはぽつりと呟いた。


「何してますのこれ?」


「戦ってるんだ。あのグリフォンは無事に降ろしたから心配しなくていいぞ」


 その問いかけにテンキが答えて、彼女に何か兜のようなものを被せた。

 すると外の景色が見えて、思わず叫ぶ。


「こ、これ、巨神タイタンですの!?」


「あぁ、その操縦室だな。ヴァネッサの役目は魔力供給……ちょっと地味だが、大事な役割だ。あいつを倒したらすぐ使役テイムに行ってもらうが、それまで頼む」


「わ、わかりましたわ!!」


 剣を振るう巨神タイタンから見える景色。

 オイドマ・フォティアの熱線を弾き返し、火球を切り裂き。


「エルク! 氷だ!」


「はい殿下! マカハドマ!」


 なんだかノリノリで声を掛け合う二人の声を聞きながら。

 ヴァネッサはなんかこう、思ってたのと違うと。

 手持ち無沙汰に兜を外した。


「あの……テンキさん」


「なんだ? ちょっと今ダメージコントロールに……ヘクトル、タルヴォ。右足が限界だ」


「ふはは、ヘクトルよ! 五秒で修復する!」


「頼むぞ、タルヴォ殿!」


義父ちちと呼んでもいいぞ、娘たちが気に入っているからな! さあ修理完了だ!」


 あ、忙しそう……。と伸ばした手を引っ込めて。

 ぎゅんぎゅんと魔力を吸収されている事に気づかない彼女は、実に暇して座っていた。


(……なんかやることないですわね……)


 子供のごっこ遊びと言っては流石に失礼だが、男たちが実に楽しそうに掛け合う声を聞いて。

 外から聞こえる爆音と轟音と、下の方から聞こえる連合軍の戦う音が響いて。

 自分も当事者なのに、どうして蚊帳の外に……と悲しくなってきた頃、彼女は目の前の魔法陣の色が変わったことにふと気付いた。


「て、テンキさん? なんかこの魔法陣が光ってるのですが……」


「魔導砲充填完了……来たか、タルヴォ。アレを使うぞ」


 それを報告すると、テンキは真剣な顔でうなずき、親友の顔を見つめて。

 満足そうに笑い返したタルヴォは、自らが立つ魔法陣を踏みしめ叫んだ。


「ヘクトル、エルク! 古炎龍の動きを止めろ!」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


「凍りやがれえええええええええあああああああああ!!!!」


”なっ!! ぐあああああああああああああ!!!”


 戦う二人が吠え、オイドマ・フォティアの四肢が凍りつく。

 動きを止めた巨龍が氷を解かそうと、真紅の鱗に炎を宿らせた時。


「テンキ! ヘクトル! エルク! ヴァネッサ! 皆の心を一つに!!」


「おう!」「ああ!」「はい!」


 タルヴォが叫び、三人はそれに応えて腕を振り上げて。


「え、えぇ……」


 ヴァネッサもなんとなく、小さく手を上げた。


「カイザァァァァァァァ!! フォォォォォォォォォォォォス!!」


 はちみつ色の髪から汗を散らし、五百年分の想いを乗せて。

 エルフが叫び、人間二人はどこから聞いたのかわからないかっこいいポーズを取り。

 オーガはコソコソと、ヴァネッサに耳打ちした。


(そこの魔法陣押してくれ)


(は、はい)


 彼女はぽちっと文字を押して。

 とりあえず兜をかぶって外を見てみると。

 オリハルコンの巨神タイタンの胸に、輝く紋章が浮かび上がり。

 まばゆいばかりの光の柱が、ちゅどぉぉぉぉぉぉん!! と音を立て、オイドマ・フォティアを貫いた。


「やったか!?」


「着弾確認、……直撃だ」


「私達の勝利だ……!!」


 エルフとオーガの二人は感慨深そうにハイタッチ。

 ああ、五百年もののリベンジだしなぁ。なんてしみじみとしたヴァネッサだったが。

 自分がやったのはぽちっと押しただけだしと、苦笑いをこぼす。


「……これ、わたくし要りましたの?」


「お前の魔力があったからだ!! 使役テイムに行くんだヴァネッサ!! 俺たちの、世界の想いを乗せて!!」


 そのつぶやきを否定したタルヴォは、まっすぐ前を指さして叫ぶ。

 そっちの方を見た彼女だったが、こんな高いところから急に行けと言われてもと首を傾げて。


「行くって?」


「テンキ、射出だ!!」


「あぁ。行ってこい」


 あまりにも不穏な言葉に、愕然と口を開けた。


「は?」


 すると彼女の前の魔法陣が激しく点滅し、急に押し出されるような感覚がして。

 操縦室の壁が急に開くと、思い切り撃ち出された。


「ああああああああああ!!! どうしてこんなのばっかりいいいいいいい!!」


 一日に何回吹っ飛ばされるのか。確かに贅沢三昧の人生だったけれど、こんなにひどい目に遭うほど悪いことなんかしていないはずだと、流れていく走馬灯に自分の人生を振り返っていると。


”ぐぶぶぶぶぶ……まだ……まだ我は……!!”


「うげぇ!? 生きてたんですの!?」


 貫かれた腹から炎を流し、執念深く戦いを続けようとするオイドマ・フォティアに鷲掴みにされた。


”その……笛さえ……なければ……我はまた……戦える……!!”


 途切れ途切れの思念の合間に炎が輝き、キラキラと身体が復活していく。

 炎の中から蘇り続けたからこそ、何度負けようと最後に勝ってきた古炎龍は、その真紅の瞳をヴァネッサに向けて。


”食わせてもらうぞ、ソルスキアの娘!!”


 はっきりと叫ぶと、大きく口を開いた。


「た、助けてエルク……では、ありませんわね! いっそ道連れにしてやりますの!」


 今回は確実に死んだ。けれど、ついに自分のやるべき時が来た。と、震える手で支配の笛ドミナートルを両手で握り。

 確かこいつには五百年分の、ご先祖様たちの魔力が入っている。

 せめて、せめて自爆してやる。へし折って暴走でも何でもさせてやる。

 覚悟を決め、自らを奮い立たせて叫び、思い切り力を込めると。


”ヴァネッサ!! 今助けます!!”


 頭が揺さぶられるように、強烈な思念に打ち据えられて。

 蛇のように細長く、尻尾の先は地平線の果てまで続くような。

 全身が美しい虹色に輝く一条のドラゴンが、古炎龍に激突した。

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