破産令嬢は追放される~お父様のせいで公爵家は潰れ、婚約破棄された上に奴隷になりましたが、愛してくれるご主人様の為にモンスターテイマーになりますわ~
雪原てんこ
第一章:破産と追放
第1話:最後の賭け
大歓声の鳴り響く闘技場の中心で、二人の男が剣を交わす。
一人は黒髪の生意気そうな少年で、もう一人は筋骨隆々の大男。
少年の手のひらから放たれた吹雪と、大男が吹き出す炎が衝突し。
キラキラと虹が掛かり、観客はより一層の声援を飛ばす。
「きえええ!!! エルク!!! 負けたらどうなるか分かってるんでしょうねええええ!!!」
そんな幻想的な盛り上がりを。
この王国武闘会という年に一度の大舞台をひときわ高い席で眺める、身なりの良い一人の少女。
整った顔立ちに不釣り合いな、血走った真っ赤な目をして、ボサボサな金髪を振り乱し。
咥えた煙管に煙をくゆらせ、必死の形相で叫ぶ。
やがて眼下に立つ、黒髪の少年が膝を付き。
「……っ! ヴァネッサお嬢様……すみません……」
悔しさに歯噛みし、そう言い残して崩れ落ちると。
「は、破産ですわああああああああああああああああああああ!!!!」
叫ぶ少女の手にした、エルクと名前の書かれた紙片が宙に舞った。
――数日後
王宮の玉座の間に、うつろな目をした少女が跪く。
彼女を見下ろす国王は、心から悲しんだ目で。
信じられないと震える声で、言葉を絞り出した。
「……ヴァネッサ・ソルスキア暫定公爵。貴殿は……こう……なんというか……」
「はい」
生気のない相槌。
国王は何度かため息を付き、彼女の罪状を繰り返し読み直し。
「令嬢の身でありながらソルスキア公爵家を破産させた罪、領地を外国に無断で売った罪で、取り潰しと……それと……」
父のせいで可哀想に。とは言葉に出さずとも、国王は同情的な視線を向けて。
しかし、家を継いだ以上は彼女の責任になるなと何度もため息をつく。
ふと横の王子……彼女の婚約者であったヘクトル第二王子を見ると。
炎のように燃える真紅の髪と瞳の彼は、筋肉の鎧に覆われた身体を震わせ、国王の代わりとばかりに叫んだ。
「俺との婚約破棄でしょうが父上!! どうやって、たった二年でソルスキア家の財産全部食いつぶすんだよこの馬鹿女は!! だいたい父上も!! こんな馬鹿と結婚させるつもりだったとか人を見る目が無さ過ぎるにも程があるだろ!!」
ヘクトルは誤解しているのだが、ヴァネッサが全財産を食いつぶした訳ではない。
むしろ遊び呆けたのは父で、彼女はその債務だけを負った。
ただ、家の責任は全て当主の責任だと。
それを理解している彼女は黙って断罪されていた。
「ヘクトル、ま、まぁいいじゃないか。結婚前なんだから……」
どうどうとなだめる国王に、彼は更に怒りをつのらせて。
「良くないわ!! 婚約の発表しちゃっただろ!? 俺がソルスキア公爵継ぐ事になってただろ!? 破棄するのは当然として、国民にどう説明すんだよ!!」
「……どうしようか……」
頭を抱えて縮こまる父の薄い頭に唾を飛ばす。
そして王子はしばらく顎に手を当てると、心底幻滅した瞳で彼女の前に歩み寄り。
「婚約者であり、幼なじみでもあるが擁護はできん。見損なったぞ」
「……」
「最後の情けをくれてやる。死んだことにしろ。借金はチャラにしてやるから……この国から失せろ!!」
「……はい」
「父上! これでいいですね!! もうあんたの持ってくる縁談には乗らないからな!!」
静かに項垂れるヴァネッサの前に唾を吐き、背を向けて。
頭を抱える国王と、三指を突いて床に額を擦り付け土下座する彼女を残して去っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます