第130話 迷宮戦闘とグループ分け
☆
(魔術での近距離戦闘?!)
目の前で繰り広げられた一瞬の攻防に、私は目を見張った。
魔導剣での剣戟ならともかく、詠唱に時間がかかる魔法では近距離戦闘はまず無理だ。
短詠唱、かつ効果範囲を瞬間的に絞れる魔術ならではの戦い方かもしれない。
杖から伸びる氷の槍に貫かれた水棲ゴブリンは、サラサラと砂になって崩れ落ちる。
その砂の中に、赤く光る魔石が光っていた。
「すごい……。これが、魔術!!」
思わず声が出てしまう。
その声に、イキり先輩が不敵に笑った。
「どーよ?」
「驚きました」
「だろ?」
「ほら、次だ!」
ドヤ顔する先輩を、その右側に立つもう一人の先輩が盾でどやす。
「おうっ」
再び盾と杖を構える前衛の二人。
探知役の先輩が叫んだ。
「次、三体来ます!」
そうして十字路から姿を現したのは、子供の背丈ほどの高さはあろうかという巨大な爬虫類だった。
「チッ、泥トカゲが三体かよ」
舌打ちするイキり先輩。
恐竜のようなそれは、モソモソとこちらに向かって来る。
そして、三体は大きな口を開け––––
「魔力反応増大!」
ガァアアッ!!
魔物の口内に青白い光がちらつき、次の瞬間、大量の石つぶてが放たれた。
「『バリエス』!!」
ババババババッ!!
間一髪。
右の先輩が発動した巨大な土壁が無数の小石を受け止め、消える。
「はあっ、はあっ––––」
全力の防御壁展開が負担だったのだろう。
右の先輩が息を切らす。
直後、こちらの中衛が先ほどと同じ、雷撃と火球の魔術を放った。
バリバリッ
ボンッ!
それぞれ左右の敵に直撃してその動きを止め、
「『ペントスカーレ』!」
リズ先輩が放った見えない刃が、真ん中の個体を真っ二つに切り裂いた。
そこに、イキり先輩が突っ込んでゆく。
「うらぁあああっ!!」
未だ燃えながらのたうち回っている一体を氷の槍で串刺しにして、戦闘が終わったのだった。
☆
その後も地上に戻るまでに何度か魔物たちと遭遇したけれど、先輩たちはあっさりとこれを退け、迷宮見学は順調に進んだ。
ゴールに着いた時点で獲得していた魔石は、十二個。
どうやら最初に遭遇した六体というのは、通路に現れる敵としては特に数が多い方だったらしい。
その後の戦闘では、一〜三体の群れとしか遭遇しなかった。
「多分、水ゴブリンの群れと泥トカゲの群れが、たまたま近くにいたのね」
というのがリズ先輩の見解。
そうして無事青空の下に戻ってきたところで、見学グループは解散となった。
「さて。これで今日の見学は終わりね。ケガ人が出なくて本当に良かったわ。次に会うのは、あなた達が基礎修練を終了した後になるでしょう」
「またご一緒する機会があるんですか?」
リータの問いに頷くリズ先輩。
「基礎修練が終わっても、いきなり一年生だけで迷宮に入るのは危ないでしょう? かと言って、全てのグループに先生が張りつく訳にはいかないし。そういう訳で、しばらくの間は私たち二年も授業の一環として一緒に潜ることになっているのよ」
なるほど。
日本の会社のOJTみたいなものかしら。
実際にダンジョンを探索しながら実地指導する、ということね。
「まあ、またあなた達と同じグループになるかは分からないけど、せっかく知り合ったんだし、次も一緒になれたらいいわね」
先輩がそこまで言ったところで、先生たちから号令がかかる。
「よーし。全員無事戻ってきたようだし、一年はこっちに集合!」
「二年はこちらに」
ばらばらと担任のところに移動を始める生徒たち。
「あのっ、今日は案内して下さってありがとうございました」
「「ありがとうございました!」」
私の言葉に続くアンナとリーネ。
「またねっ」
先輩たちは私たちに向かって笑顔で手を振ると、二年の集合場所に歩いて行った。
「親切な先輩たちでしたね!」
リーネの言葉に頷く私。
「そうね。それに、すっごく面白かったわ!––––さあ、私たちも先生のところに行きましょう」
☆
こうして私たちの初授業、初めての迷宮見学は、無事終わった。
ダンジョンという不思議な空間は私の好奇心を掻き立てたし、魔術での近距離戦闘はとても刺激的だった。
そうか。
魔術という属性変換技術を極めれば、あそこまで自在に魔力を使うことができるのか、と。
私だけじゃなく、今回の見学に参加した同級生たちの多くが興奮していた。
最後にバリエンダール先生がさらりと発したひと言がなければ、皆『ああ、面白かった!』で終われただろう。
が、私たちは学生だ。
学生生活では自分の思う通りにならないことや、様々な課題が突きつけられる訳で、それはこの場、この時もそうだった。
バル先生は言った。
「まずは皆、問題なく見学できたようで何よりだ。––––という訳で、早速宿題を出す。今日学んだことを各自レポートとしてまとめてくるように。明日の『迷宮戦闘論』でグループで内容をまとめて、明後日の授業で発表してもらうからな」
「「ええええええええっ?!」」
生徒たちから悲鳴があがる。
さらに先生は続けた。
「ああそうそう。言うのを忘れていたが、特に問題がない限り、実習の授業は今日作ったグループでチームを組んで進めることになる。お互い、ちゃんと自己紹介しておけよ」
「「えっ???」」
顔を見合わせる生徒たち。
私が仲間を振り返ると––––
「よかった。レティア、これで一緒にダンジョンに潜れますね!」
「皆さんと一緒だと、心強いです!」
満面の笑みを浮かべるアンナとリーネ。
一方、後ろの三人は戸惑っているようだった。
「……私が一緒でいいの?」
「もちろん!」
おずおずと尋ねるレナに、即答する。
「セオリクとオリガも、よろしくね」
二人に声をかけると、セオリクは目に見えて挙動不審になり、
「ええと、その…………よろしく」
観念したかのように僅かに会釈し、オリガは、
「…………分かりました」
例によって不機嫌そうに、渋々といった顔で返事を返してきたのだった。
(うちのチーム、大丈夫かしら)
私は頑張って顔に笑み貼り付けながら、漠然とした不安を感じたのだった。
☆
私はきっと、勘がいい方だと思う。
なぜなら、悪い予感は大抵当たってしまうから。
迷宮見学から一週間後。
穏やかな昼休みの食堂で、それは起こった。
バチンッ!!
「今の言葉、取り消しなさいっ!!」
賑やかな空気を切り裂く、平手打ちの痛々しい音と、オリガの怒鳴り声。
「なっ、なっ、何するのよっ!?」
リータの異母姉、フレヤ・アストリッドが頬を押さえて怒鳴り返し、辺りは騒然としたのだった。
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