第44話 判決と突入、そしていつもの

 


 ☆



 オズウェル公爵が叫び声をあげて倒れ、議場から担ぎ出されたあと。


 審議は終わり…………とはならなかった。


 公爵のアレは自白のようなものではあったけれど、有罪を確定するために必要な証拠の確認が、一つだけ残っていたからだ。


 一体、なんのことか。


 先ほどグレアム兄さまが言った『通信記録』のことだ。


 グレアム兄は、あらためて農村地帯の中継小屋で押収した『通信履歴と符号表』について証拠品を提出。


 符号を復号化した電文を発表した。




 その内容は、衝撃的なものだった。


 飛竜による襲撃は、少なくとも半年前から計画・準備され、公爵は実行の機会を窺っていたらしい。


 ––––陛下と第一王子が揃い、王党派が欠席するタイミング。


 その機会が、あの日ついにやって来たのだ。

 どうりで敵の手際が良かった訳だ。


 やり直す前の時間軸ではその機会がなく、結局、戦場で第一王子を第二騎士団ごと焼き払うのに飛竜が用いられた。


 陛下と殿下が揃うのを諦め、王陛下には毒か何かを盛ることにしたのだろう。


 今や確かめるすべはないけれど。




 結局、この通信記録が決定打となった。


 公爵が事件当日のスケジュールを公国側に漏らし、発信機を使って飛竜に合図を送る算段をしていたことが明らかになると、もはや王党派の貴族たちは何も言えなくなった。


 公爵の有罪は賛成多数で可決。


 審議の途中でこっそり逃げ出そうとした王党派の議員数名が取り押さえられる一幕もあった。


 後で父から聞いた話では、この裁判そのものに公爵の協力者を一堂に集めるための『ホイホイ』の役割もあったらしい。




 ☆




「––––以上の罪により、オズウェル公爵に死刑を宣告する」


 裁判長が判決を下すと、議場に拍手と歓声が響いた。


 だが判決文は、それに止まらなかった。


「本件の調査の中で、飛竜の飛行ルートや各地の協力者については、未だ不明な部分が多い。本法廷は検察に、更なる調査を求めるものである」


 それは、議場にいる何人かにとっては、死刑判決に等しいものであっただろう。


 裁判長が木槌を叩く。


「以上をもって、本法廷を閉廷とします!」


 再び湧き上がる歓声。


 その時、バタン! と音を立て、議員席の背後の扉が一斉に開いた。




「?!」


 その音に、気配に、誰もが驚き振り返る。

 もちろん、私も。


 間髪をおかず、議員席に突入してくる騎士たち。


「お、お父さまっ!」


 私がとっさに隣に座る父の腕をつかむと、父は、ぽんぽん、と私の肩を叩いた。


「レティ、大丈夫だ」


 やけに落ち着いたその声に父の顔を見ると、父は優しく微笑んで頷いた。


「皆さま、その場を動かれないように!!」


 いつの間に移動したのか、議場の中央に第一王子のジェラルド殿下が立っていた。


 殿下は朗々とした声で皆に告げる。


「自由な意見が尊重されるべき元老院の議場で逮捕に踏み切ることをお詫びする。だが今回の事件は、我が国を揺るがす大事件であった。それだけに被疑者の身柄の確保に万全を期す必要があったことを、どうかご理解頂きたい。––––総員、被疑者を確保せよ!!」


「「了解!!」」


 再び動き出す騎士たち。


「確保っ!」 「被疑者確保!」 「確保おっ!!」


 騎士たちが、次々に王党派の議員たちを拘束してゆく。


 拘束された貴族たちは、ある者は茫然として、またある者は泣き喚きながら、逮捕されていったのだった。




 ☆




 十数名の議員が逮捕され、連行されてゆく。


「お父さまは、このことをご存知だったのですか?」


 私が尋ねると、お父さまは「まあな」と言って静かに笑った。


 その様子に私は『これはどうやら色々ありそうだ』と察する。


 ちなみにヒューバート兄さまは、反応を見る限り私と同じく寝耳に水だったようだ。


 やがて、グレアム兄さまが私たちのところにやって来た。


「俺はこれからゲストの皆様が留置場に入居できるよう手続きをしてくるよ。……うちの殿下は人使いが荒くて困る」


 そう言って首をすくめる兄。


 私はそんなお兄さまの手を取った。


「どうした? レティ」


「検事役、お疲れさまでした」


 私がそう言うと、兄は苦笑する。


「俺は仕事だからいいんだよ。それよりレティの頑張りのおかげでここまで来れたんだ。よくやったな、レティ」


 そう言って私の頭をなでるお兄さま。


「お兄さま、は、恥ずかしいですっ。人目もありますのに」


 私が両手で顔を隠すと、兄は「ははっ」と笑い、


「それじゃあ、気をつけて帰れよ」


 と言って、他の騎士たちのところに戻って行った。




「はあ……」


 恥ずかしさに思わずため息を吐く。


 まったく。

 うちの家族は、なんであんなに私を恥ずかしがらせるのかしら。


 そう思い、ふと気づく。


(え、家族???)


 そこで油断したのが運の尽きだった。

 今度は反対側から二つの手がのびてきたのだ。


「レティ。お前は我が家門の誇りだよ」


「偉かったぞ、レティ!」


 そう言いながら、先を争うように私の頭を撫でる二人。


「ちょっ、お父さま! ヒュー兄さまも! 私を恥ずかし死にさせるつもりですかっ?!」


 私の抗議に、そしらぬ顔をする二人。


「いや、だって、恥ずかしがるレティが可愛いから」


「ねえ?」


 そんなやりとりをする家族。


 ––––うん。

 訊いた私がばかだった。




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