第41話 直接対決です!
無事、通信実験を終えた私たち。
グレアム兄さまが実験結果をふまえ、この魔導具についての主張をまとめる。
「ご覧頂きましたように、こちらからの発信に対し東の尖塔より僅かな時間で返信が届きました。先ほど参考人の話にありました『もう一つの実用的な点』というのがまさにこの機能です。発信だけではなく、受信ができる。つまりこの魔導具は、魔力波を利用した遠距離通信装置なのです」
兄の説明に、議場がどよめく。
(「そんなものがあれば、伝令を走らせる必要がなくなるじゃないか」)
(「軍の指揮命令系が劇的に変わるぞ!」)
(「それだけじゃない。離れた街の相場情報なんかも短時間でやりとりできるようになるんじゃないか?」)
この魔導具の価値について、皆が気づき始める。
そして兄は、この事件の核心に迫る言葉を言い放った。
「検察側は、オズウェル公爵がこの魔導通信機を使用し、公国に対し事件当日の予定を漏洩していたものである、と主張致します!!」
その瞬間、再び議場が揺れた。
––––カンカンカンカン!!
「静粛に! 静粛に!!」
裁判長の木槌の音が響く。
議場は興奮状態にあったが、それでも先ほどの陛下のお言葉のためか、しばらくすると静かになった。
裁判長の声が響く。
「被告人、今しがたの検察側に主張対し、異議はありますかな?」
すっ、と立ち上がる公爵。
彼は特に力む様子もなく、無感情にこう言った。
「異議あり」
公爵は一歩前に出ると、言葉を続けた。
「今しがたの実験だが、何がしかの結論に至るには、些か不備が多い実験だったと言わざるを得ない」
「––––と、申しますと?」
裁判長が目をぱちくりさせる。
「まず第一に、その魔導具は押収時にはすでに壊れており、後日そこの娘が『復元』したものだということだ。先ほど検察側は『自爆装置により魔導基板が破壊されていた』と主張していた。仮にも自爆装置により破壊されたのであれば、損傷した部分がどのような回路であったかは不明のはず。ではその娘は、一体何を頼りに『復元』したのか。––––まさか、自らが考えた魔導回路を新たに箱の中に設置して『修理した』とのたまっているのではあるまいな?」
公爵がじろりと私を見た。
今の彼の反論に、議場がざわめく。
(「確かに、いくら『修理する』って言っても、ぐちゃぐちゃになってたら直せないよな」)
(「え? じゃあ、あの子が勝手に魔導具の中身を作り直したってことか?」)
疑惑の視線が、私に集中する。
公爵は続けた。
「二つ目は、東の尖塔に設置された魔導具についてだ。その魔導具も参考人が作ったものなのだろう? ––––であれば、参考人は自らの主張のため、どうとでも細工する余地があったわけだ」
再び議場がざわめく。
(「たしかにそうだ。……なんだ。さっきのはペテンかよ!」)
(「感心して損したな」)
「…………」
ひどい言われようだ。
あまりの言われように気の毒に思ったのか、裁判長が私に問いかけた。
「––––と、被告人はこう仰っている訳ですが、参考人に異議は……ええと、何か言い返したいことはありますかな?」
相手が成人前の女の子ということで、裁判長が言葉を選んでいるらしい。
気遣ってくれて嬉しいけれど……なんか可笑しい。
「ふふ」
思わず笑ってしまう。
公爵が不審げな目で私を見る。
私はこほん、と咳ばらいすると、はっきりとその言葉を口にした。
「異議あり、です」
私は続けた。
「今しがた公爵が提示した疑念に対し、簡潔にその疑念を晴らすことができる証拠品があります」
「ほう、証拠品ですか」
またもや裁判長が目をぱちくりさする。
「はい。間もなくこちらに到着すると思うのですが––––10分もあれば間違いないでしょう。よろしければ、一時休廷にされませんか? 休廷明けには、証拠品が届いていると思いますので」
私がそう言ってグレアム兄さまの方を見ると、兄さまは頷いて手を挙げた。
「裁判長! 検察側は、正式に10分間の休廷を要請致します」
その言葉に、裁判長も頷く。
「よろしいでしょう。それではこれより10分間、休廷と致します」
☆
十分後。
証拠品の台の上には、布を被せられた新たな証拠品が置かれていた。
––––カンカンカン!
「それでは審議を再開します。––––どうやら参考人の仰った通り、証拠品が届いたようですな」
「はい。ばっちりです」
証言台で微笑む私。
「ほうほう、それはよかったです。それでは早速ご説明頂けますかな?」
「承知致しました。それではご説明致します。新たに届きました証拠品は、つい先ほどまでそちらの窓から見えます『東の尖塔』にあったものです。第二騎士団の方にお願いして、司法省の方の立会のもと、こちらに持ってきて頂きました」
「東の尖塔というと、ひょっとして……」
「はい。先ほどの実験で通信しました『相手方』の魔導具です。それでは、ご覧ください。––––お兄さま、お願いします!」
私の声と同時に、被せてあった布をとるグレアム兄さま。
その瞬間––––
(「「おおおおおーー!?」」)
それを見た議場の誰もが目を丸くした。
そこにあったのは、隣に置かれた魔導通信機と寸分違わぬ、もう一台の魔導通信機。
グレアム兄さまの声が響く。
「こちらの魔導通信機は、首都サナキアの西150キロ、パドマの街の公爵家所有の商会の建物から押収したものです。破損もなく、先ほどの実証実験の通り、使用可能な状態で押収することができております」
公爵が大きく目を見開き、息を吸った。
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