第38話 最大の危機
☆
裁判の一つ目の山場を乗り越えた私たち。
とはいえ、検察側が立証したのは、今回の襲撃が王と第一王子を狙ったものであり『何者か』によって事前に計画されたものである、というところまでだ。
あの飛竜がどこの勢力のものであり『誰が』襲撃の手引きをしたのかを明らかにしなければ、この裁判は負けとなる。
立証しなければならないことは、山積みだった。
☆
私が傍聴席に戻り見守る中、グレアム兄さまが次々と証拠と証言を提出してゆく。
「撃墜した飛竜と騎乗者は、四騎。その死体の検分結果を証拠として提出します」
「飛竜については、我が国北方に生息する野生のものに比べ、幾分、小型であることが分かりました。特筆すべきことは、この四体の大きさに個体差がほとんどなく、恐らく人の手によって飼育されたものである、ということです」
「騎乗者については、遺体の損傷が激しく身元を特定することはできませんでした。ただし、身につけていた装備類は意匠こそないもののデザインは統一されており、騎乗用に専用設計された形跡がありました。なかでも魔導防具の性能は周辺国で一般的に流通しているものを上回り、王立魔導工廠の分析では『対魔法戦に特化した仕様である』とのことでした」
「飛竜の飛行ルートに関する情報は多くはありません。数少ない目撃情報は、襲来直前のものと、取り逃がした一騎の逃走時のものに集中しておりました」
「襲来当日の情報としては、東部の山岳地帯で複数の目撃情報がありました。尚、この二日前の払暁、北部山脈で複数の飛行生物が編隊飛行する姿を見かけた、という情報があります」
「逃走した一騎については、一路西へ。公国方面に飛び去るところを西部地域の多数の住人が目撃しています」
この間、被告側からの反論はなく、証拠の提示はスムーズに進んだ。
最後にグレアム兄さまは、検察側の主張をこのようにまとめた。
「以上の情報から検察側は、本襲撃を実行した飛竜の部隊は公国より飛来し、国内の協力者の領地を経由して東部山岳地帯に潜伏。襲撃後は部隊が壊滅したことから、単騎で『母国』への帰還を優先したもの、と推測致します」
これは明らかに爆弾だった。
もちろん兄はそのあたりも計算の上で、言葉とタイミングを選んでその爆弾を投下したのだが。
周囲の反応は、劇的だった。
––––いや、激的過ぎた。
兄が『公国』の名前を出した瞬間、議場の空気が一変したのだ。
最初の『公国』では、驚きと戸惑いが広がった。
2回目の『公国』では、それが強烈な怒りを含んだものに変わった。
「これは公国による我が国中枢に対する奇襲攻撃ではないか!!」
誰かの叫び声をきっかけに、その空気は議場を揺らす怒号へと変わった。
「直ちに反撃すべきだ!」
「我が国を侮る卑怯者に、正義の鉄槌を!!」
「全軍をもって敵首都に進撃し、愚か者どもに対価を払わせろ!!!!」
カンカンカンカン!!
「静粛に! 静粛に!!」
裁判長が木槌を打ち鳴らし、議場の鎮静を試みる。
だが、一度着いた火は収まらない。
予想はしていた。
だけどその反応は、私たちの予想をはるかに上まわるものだった。
兄たちも、法廷の係官も、皆を落ち着かせようと必死に呼びかける。
が、功を奏さず。
「敵を引き入れた逆賊を赦すな!!」
「王党派を処刑しろ!!」
「言いがかりだ!」
「これは元老院派が仕組んだ罠だろうが!!」
罵り合いはエスカレート。
すわ乱闘沙汰かと思われたその時、壇上の陛下が立ち上がった。
そして––––
「静まれいっっ!!!!」
議場に響く一喝。
その瞬間、騒乱がぴたりと止まった。
陛下は議場を見まわし、問いかけた。
「名誉ある家門の者どもが、何を浮き足立っておるのか。今回の事件が他国の仕業であることは、元より明らかのはず。今さら騒ぐことではない。もちろん我が国に仇為す者には、然るべき制裁を加える。だが今この場は、真実を明らかにし裁くべき者を裁く場であろう。諸君の冷静なる判断を、重ねて期待するものである」
体が震えた。
長い演説ではない。
だが、王が王たるを示し、私たちは皆、その場で首を垂れたのだった。
裁判長が、木槌を叩いた。
「全員着席を。法と公正のもと、審議を続けます」
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