第37話 提示される証拠たち
「「ん?」」
立ち上がった状態で、再び互いを見る陛下と裁判長。
先に口火を切ったのは裁判長だった。
「まさか、陛下御自ら検証されようなどとは仰いませんな?」
釘をさす裁判長。
だが、陛下も負けてはいない。
「本件は国を揺るがす一大事。儂自らが検証することで、その魔導具にかけられた疑義は誰の疑いようもなく晴れるじゃろう。––––むしろ裁判長、公平であるべき貴君が一方の立証に参加する方が問題ではないかな?」
バシィッ!
うぐっ、とダメージを受ける裁判長。
だが、まだ終わってはいなかった。
「いやいや、陛下。何を仰いますか。この法廷で誰より公平である私が検証に参加してこそ、疑義が明らかになるというもの。本件の『被害者』である陛下よりは私の方が検証参加者としては適切ではありませんかな?」
ズシャッ!!
ぐはぁっ、とダメージを受ける陛下。
その後もあーだこーだと駆け引きが続く。
あまりにどうでもいいやりとりが続いたため、仕方なく私が途中で間に入った。
「あの、それでは、どちらかお一人が『箱』のスイッチを押し、残るお一人がこちらの探知機を持たれてはいかがでしょうか?」
私の言葉に、お二人が同時にこちらを振り返り––––
「「それだ(じゃ)!!」」
私を指差した。
(最初からそうすればよかったのに……)
きっと議場のほとんどの人が思ったことと同じことを思いながら、陛下と裁判長が壇上から降り、証拠品陳列台のところにやって来るのを見守る。
だが、二人の勝負はまだ終わってはいなかった。
「「むっ?!」」
証拠品に手を伸ばした二人が固まる。
まさか……?!
「のう裁判長。きっとボタンを押す方がたのし––––より検証に役立つと思うぞ?」
「いやいや。やはりここは、陛下にボタンを押して頂き、私は探知機の性能を確かめる方が……」
「いやいや––」
「いやいや––––」
予想通りの展開。
放っておくとあれなので、今度は早めに助け舟を出す。
「あの、交代で使ってみられてはいかがでしょう?」
「「おお、それだ(じゃ)!」」
この後、陛下と裁判長は、たのしそ––––熱心に『箱』と魔力検探知機の検証をされたのだった。
☆
「––––という訳で、弁護人の主張を却下します。検察側の実演と証拠品には、一切不正はありませんでした」
裁判長の言葉に、公爵側弁護士は疲れた顔で、
「あ、はい」
とだけ答えた。
いえ、疲れたのは私たちもですけどね。
そんな弁護側に、書類を片手に兄が追い打ちをかける。
「尚、こちらの証拠品二点につきましては、王立魔導工廠の所長よりその動作・機能につき『確認済み』との証書を頂き、特に魔力探知機については『我が国の魔導技術を飛躍させる画期的な発明である』とのコメントを頂いております」
「加えて、司法省立会いのもと第二騎士団にてこちらの二点を使用した実験を行い、件の『箱』から放射される魔力は、遮るものがない場合最大で10kmほど飛ぶことが分かりました」
「また先ほど検察側が提示しました、こちらの『箱』のボタンを押したという兵士の証言ですが、取り調べの際は司法省の係官が同席しており、暴力、脅迫によらない自白であることを証明して頂いております」
「––––これは補足事項となりますが、兵士の家族については、すでに第二騎士団により無事救出、保護しましたことを報告させて頂きます」
立て続けの証拠提示に、周囲がどよめく。
さすがお兄さま。
「これらの証拠、証言により、検察側は『飛竜襲撃は事前から準備されたものであり、特に陛下と第一王子殿下を狙ったものである』とあらためて主張するものであります!!」
(「「おおおおーーっ!!!!」」)
議場に歓声が響き渡った。
カン、カン、カン、カン!
裁判長が木槌を叩く。
「静粛に! 静粛に!! ––––弁護人、異議はありますか?」
「くっ……、異議は……、異議は…………っ!」
顔を真っ赤にして、プルプル震える弁護士。
と、背後の公爵が、何事か耳打ちした。
コク、コクと頷く弁護士。
やがて前を向いた彼は––––
「––––異議は、ありません」
その瞬間、検察側の主張が確定した。
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