第29話 新聞による周知……羞恥?

 

「……え?」


 アンナに渡された紙に目を落とす。


 が、暗くてよく見えない。


 見えないのだが、載っている絵と文字の大きさ、配置から、どうやらそれが新聞記事らしいことが分かる。


 高価、かつ速報性に難がありながらも、一応この世界にも新聞があり、回帰後の私も時々目を通していた。


 問題は内容だ。


 暗くてよく見えないが、なにか、女性らしきドレス姿の人物が描かれてるのが分かる。


 紙面からひしひしと伝わる悪い予感。


 と、そこでアンナがカーテンを引き開けた。


 一気に部屋が明るくなり、目が眩む。


 はたしてその新聞に描かれていたのは––––


「(ぶっ)」


 思わず噴き出しそうになる。


 私はアンナの方を向く。

 目を逸らすアンナ。


「ねえ、ちょっと訊いていい?」


「––––どうされましたか、お嬢さま」


「これはなに?」


「昨日の新聞でございますよ、お嬢さま」


「なんでこんなことになってるの?」


「記者の方々は、耳がとても良いようですね、お嬢さま」


「なんで目をそらすのよ」


「そらしておりませんよ、お嬢さま」


「そらしてるじゃないっ! っていうか、なんなの? この記事は???」


「原因があって、結果がある––––ということじゃないかと思いますよ、お嬢さま」


 苦笑いなのか笑いをこらえているのか分からない、変な顔で答えるアンナ。


「なんで……」


 記事を持つ手が、ぷるぷる震える。



「なんで私が、新聞の一面になってるのよぉおおおおーーーー???!!!」



 思わず、力いっぱい叫んでしまった。




 記事の大見出しはこうだ。


『レティシア嬢、新型魔導武器で飛竜退治!?』


 なんかもう、色気もなにもあったもんじゃない。

 さらに小見出しだけ拾い読みする。


『白昼の決闘! 飛竜対伯爵令嬢』


『騎士語る「死を覚悟した時、我々の前に銀髪の天使が舞い降りた」』


『父、オウルアイズ伯爵「娘の可憐さは至高の智より滲み出るもの」』


 ––––ちょっ、お父さま?!


 なんかもう、色々酷い。

 記事の見出しも、記事の内容も。

 その記事に添えられたイラストがまた酷かった。


 そこには、ドレス姿でスカートを翻し、二体のクマを伴って魔導ライフルを持った『私』(美化200%)の姿が描かれていた。



「ちょっとおおおおお???!!!」



 五日間寝続けて今起きたばかりとは思えない私の大声に、一分とたたずお父さまが飛んでくる。


 その日の晩には、お兄さまたちも屋敷に戻ってきていたことは、言うまでもない。




 ☆




 結論から言うと、アンナは正しかった。


 私が寝てる間に、私をとりまく環境は、色々ととんでもないことになっていたのだ。




「あの記事は、一体どういうことですか? お父さま」


 目を覚ましたその日の晩、家族で夕食のテーブルを囲みながら、私は父を問い詰めていた。


 ちなみに私は例によってスープのみだ。


「いや、まあ、その……なんだ」


 居心地悪そうに目をそらす父。


 父が新聞に私の記事を載せることを許可したのは、まあ目を瞑ろう。


 あの竜操士による王城襲撃は、多くの王都住民の目撃するところとなっていた。

 王家として人心を落ち着かせるため、事情を明らかにしなければならなかった、というのは分かる。


 だけど、あのお父さまのインタビューと、私のイラストはやり過ぎだ。


「この記事の私の絵……美化が行き過ぎな点はともかく、とってもよく描けてますよね」


「(ぎくっ……)」


 お父さまが分かりやすく反応する。


「何か参考になるものがないと、ここまでそっくりには描けませんよね?」


「(ぎくぎくっ……)」


 お父さまの反応が、イタズラがバレたときの男子のそれだ。


「まさか、私の寝顔をスケッチさせたんじゃ––––」


「そっ、そんなことはしていないぞ! あんな可愛い寝顔を一体誰が他の奴に見せるものか!!」


「(ぶっ……)」


 笑いをこらえる兄ふたり。


「ふぅん……。では、『何を』されたんですか?」


「そっ、それは……」


「それは?」


「(ごにょごにょ)……したんだ」


 父がぼそぼそと何か言った。


「聞こえませんわ、お父さま!」


 カチャリ、と食器を置きじろりと睨むと、父は「ひいっ」とでもいうようにのけぞり、白状した。


「せっ、先日の誕生日に描かせたお前の肖像画の、スケッチを許したのだっ」


 私は、バンッ、とテーブルをたたいた。


「何を勝手なことされてるんですか、おとーさまっ!!??」


「すっ、すまんレティっ!!!!」


 平謝りするお父さま。


 その横で、兄たちがボソボソと何か言葉を交わしていた。


「(……怒ったときの母上そっくりだな)」


「(ちがいない)」


「何かおっしゃいまして?!」


「「(ぶるぶるぶるぶる)」」


 兄たちまで青ざめて首を振りはじめたのだった。





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