第27話 『魔力集束弾多重加速モード』



 ––––ドンッ、ドンッ、バシャシャッ


 旋回を続ける観測飛竜にむけて、下方から魔法が放たれる。


「撃てっ! 間断なく撃ち続けろ!! 飛竜を絶対にレティシア嬢に近づけるなっ!!」


「「了解っ!!!!」」


 ジェラルド王子の怒鳴り声と、それに応える騎士たち。


(グレアム兄さまが騎士団を動かしてくれたんだ)


 兄は私との約束を守ってくれている。

 その事実が、私に勇気をくれる。


 一方、先ほどお父さまに渡したメルの魔導反応にも変化があった。


 一度観客席に向かったメル……お父さまは、練兵場の真ん中に移動していた。

 おそらく、陛下や侍従たちを連れてきたのだろう。


 メルの魔法障壁だけでは、どうしても守れる範囲が狭くなる。

 『ならば守れる範囲に人を集めてしまおう』ということなのだろう。


 ただこれでは、障壁が薄かった場合、一撃で全滅のおそれもある。


 危険な賭け。


 私のことを心から信頼していなければできないことだ。


 ––––胸が、熱くなった。




「ココ、来て」


 私はココを呼んだ。


「どうした?」


 目の前にやって来たこげ茶色のテディベアが、焦る様子もなく言葉を返す。


「攻撃してる間、『私を守って』」


 私の言葉に、びっ、と腕をあげるココ。


「りょーかい!!」


 私の魔力がココに流れ、ココの両手に小さな魔法障壁が浮かぶ。


 ––––大丈夫。


 兄が、父が、ココとメルが、そしてこの場のみんなが、私を支援してくれてる。


 正面から滑空降下してくる二騎の敵は、もうはっきりと視認できるくらいにまで近づいていた。


 私はあらためて銃を構えなおし、引き金を半分だけ引いた。




 ––––ブン


 構える両腕からライフルにごそっと魔力が流れ、同時に銃口の先に加速魔法陣が浮かぶ。


 だけど今回は、それだけじゃない。


 ヒュウゥウウウウ!!


 魔法陣の手前。


 銃口の出口付近に、白く輝くテニスボール大の光の球が浮かび、瞬く間にその密度を上げつつあった。


『魔力集束弾』


 私の膨大な魔力を圧力をかけて集束した、高エネルギー弾。


 平均的な魔力の人が『このモード』を使っても、生成される魔力弾は目視できる大きさにもならない。

 威力もせいぜい、パンっとクラッカーのような音がする程度だ。


 だけど私が使えば、魔力弾は強力な爆薬となる…………はず。


「危険すぎて、王都じゃテストできなかったのよね」


 脂汗が、額を伝う。


 ああ、もう!

 なるようになれ、だ。


 私はライフルに、さらに魔力を注ぎ込んだ。


 すると、



 ––––ブン、


 ––––ブン、


 ––––ブン、


 ––––ブン



 最初の魔法陣に加え、さらに四つの加速魔法陣が、5mおきに出現する。


 合計5段の多重加速魔法陣。


 魔導ライフルの安全装置でセレクターを『2』の位置にすると起動するこのモードを私は、


『魔力集束弾多重加速モード』


 ––––と呼んでいた。


 設計者であり、製作責任者であり、真の使用者である私だけが使いこなせる、魔導ライフルの限界突破モード。




「さあ、来なさい!!」


 私は照門ごしに敵を睨んだ。


 高度を活かした急降下で迫る、二騎の飛竜。

 すでに口元には火炎弾が浮かんでいる。


 だけどその武器と速度が、今回は命とりだ。

 正確に爆撃しようとすれば––––


「回避行動はとれないでしょう!」


 私は引き金を引いた。



 ドンッ!!!!



 衝撃とともに銃口から放たれる光弾。


 その光弾が、五つの魔法陣の中心を通るたびに加速され––––先行していた一騎に着弾する。



 ドカァアアアアアーーーーン!!!!!!!!



 爆散し、落下してゆく飛竜の破片。


 一方、向かって右側のやや後方を飛んでいたもう一騎は、爆発の煽りを受けて姿勢を乱していた。


 私はライフルを構えなおし、急降下しながら体勢を立て直そうとしている一騎に銃口を向けた。


「次弾、装填っ」


 引き金を半引きし、魔力集束弾と五つの加速魔法陣を出現させる。


 そして、発射。



 ドンッ!!!!



 ドカァアアアアアーーーーン!!!!!!!!



 着弾し、二騎目が爆散したのを見届けたときだった。



「レティっ!! 右だ!!!!」



 ココの叫び声が聞こえた。




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