第21話 二人の王子と二つの騎士団
あらためて挨拶を交わした、第一王子と私。
お互い顔を上げたところで、騎士服姿のジェラルド王子は傍らの兄を振り返った。
「なるほど。聞いていた通り利発そうな妹さんだね、グレアム」
「ああ。だがこの子の真価は魔導具師としての腕にある。才能と情熱、そして発想し具現化する力……レティシアのそれは、初代イーサン・エインズワースに匹敵するものだと俺は信じている」
ちらっ、と私を見て、どこか誇らしげに妹自慢を始めるグレアム兄。
「ちょっ、お兄さま?!」
さすがに持ち上げ過ぎだ。
王子相手に何を言ってるんだ、この兄は???
「ふふ。グレアムはこう言ってますが、お父上はいかがです?」
水を向けられた父は、首を横に振った。
「違いますな、殿下」
お父さまが、ふっ、と目を細める。
こ、これはひょっとして––––
「お父さま、やめ……」
「レティシアは、初代イーサン・エインズワースを『超える』、『天才』魔導具師です」
真顔で断言する父。
「(ぶふっ)」
何やら王子が妙な音を立てる。
「––––お、お父上も相当に令嬢を評価されているようだね」
そう言って私に笑いかけるジェラルド殿下。
「は、はは……」
羞恥で顔に血が昇ってゆく。
その時、王子が近づき耳元で囁いた。
「ご家族に愛されてますね、レティシア嬢」
くすっ、と笑う殿下。
(ちょっとおおおおおおおおおおおおおおおお!?)
私はあまりのことに、手で顔を覆ったのだった。
「実は、先日伯爵家の魔導具披露会に参加した仲間たちから話を聞いたんです。彼ら曰く『とんでもない威力の飛び道具だった』と」
そう言って、ちら、とグレアム兄を見る王子。
兄はその目配せに首肯をもって答える。
「それで今日は陛下にお願いして、私たちを含め騎士全員が見学できるように許可をもらいました。もっとも、アルヴィ……いや、第一騎士団からは見学を辞退する旨の返事をもらいましたが」
小さくため息を吐くジェラルド殿下。
私は騎士団についての記憶を探った。
「第一騎士団というと、たしか旧貴族家門の出身の方が多い、おかざ……儀仗や行進が得意な騎士団ですよね?」
「「(ぶっ)」」
噴き出す男三人。
(「こら、レティ!」)
グレアム兄がひそひそと私を窘める。
「あれ、違いましたっけ?」
とぼける私。
要するに第一騎士団というのは、王党派の子弟で構成される騎士団だ。
伝統を重んじると言えば聞こえがいいが、見ばえにばかりこだわりほとんど実戦経験のないお飾りの騎士団。
ちなみに前世で第二王子のアルヴィンが所属し、現世で剣術の訓練を受けているのも第一騎士団である。
彼らは近衛としての仕事や王城警備の他、式典の儀仗やパレードを先導したりと、戦うより警備や行事ごとを主たる任務としている。
一方でグレアム兄やジェラルド殿下が所属する第二騎士団は、周辺国との国境紛争に投入され、国内の魔物や盗賊への対処なども行っている実戦部隊だ。
所属しているのは、新貴族家門の者が多いが、実力次第で平民にも門戸を開いている。
このように、任務も気風も違う二つの騎士団。
前世で私やお父さま、使用人たちを不必要な暴力とともに逮捕したのは、第一騎士団の騎士たちだった。
そんな記憶があるものだから、私としては『彼ら』に到底好ましい感情を持てないでいた。
「まあ、彼らにも色々あるんですよ。そう悪く言わないであげてください、お嬢さん」
嫌なことを思いだしていた私に、ジェラルド殿下が微笑んだ。
「お聞き苦しい言葉を口にしてしまいました。申し訳ありません、殿下」
殿下の大人な対応に、謝罪する私。
「それはそうと、今日はアルヴィン第二王子殿下もおいでにならないのですね?」
「っ––––ど、どうかな?」
目が泳ぐ第一王子。
いえ、先ほどぽろっと漏らされたのは殿下ですが。
「正直なところ、気を遣わなくてよいのでその方が私も助かります」
「へえ」
彼は、興味深そうに私の顔を覗きこんだ。
「何か思うところがありそうですね」
「いえ、特には」
私が首をすくめると、ジェラルド殿下は微笑して言った。
「まあ、そういうことにしておきましょう。––––さて。今日のデモンストレーションは私もとても楽しみにしてるんです。グレアムや仲間たちと応援してますから、頑張ってくださいね!」
第一王子は私にそう声をかけると、グレアム兄を連れ、訓練している騎士たちのもとへと向かったのだった。
☆
王子たちと分かれたあと。
私は父と一緒に練兵場に下り、拝謁場所や射撃位置、標的などを確認することにした。
射撃位置から標的までの距離は、先日のお披露目会の時とほぼ同じ30mほど。
ただし今日の的は、使い古された魔導鎧と魔導盾がそれぞれ5個だ。
お古とは言ってもまだまだ使える状態で、鎧の中には藁が詰められていた。
しかも、『盾・鎧・盾・鎧……』と縦一列に並べてあるところを見ると––––
「これらをどこまで撃ち抜けるか、ということでしょうか?」
私の言葉に、父が頷く。
「きっと、先日のお披露目会参加者の進言だろう。あとは『実戦において敵の隊列に対しどこまで有効か』を測りたいのだろうな」
「ああ、そういう意図ですか。なるほど。さすがはお父さまです」
そう言って微笑むと、父は照れ隠しに、ごほん、と咳払いして言った。
「なに、古巣の後輩たちが考えることだ。『私ならそうする』というだけだよ、レティ」
取り繕ってはいるが、口の端がわずかに上がっている。
そうやって談笑していた時だった。
––––カランカラン、カランカラン
あたりに鐘の音が鳴り響いた。
振り返ると、先ほど私たちを案内してくれた侍従の人が、観客席の上の方でハンドベルを鳴らしている。
練兵場にいる者たちの注目が集まったところで、彼は声を張り上げた。
「間もなく陛下がおいでになります! ご準備を!!」
そのアナウンスを聞き、きびきびと片づけを始める第二騎士団の騎士たち。
「さあ行こう、レティ」
「はいっ、お父さま!」
私は父の言葉に大きく頷き、拝謁場所に向かうのだった。
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