第19話 魔導ライフルの威力
––––さて、私の番だ。
みんなのおかげですっかり気持ちがほぐれた私は、カーテシーで観客の皆さんに挨拶すると、傍らのテーブルの上に置かれた魔導ライフルを手に取った。
銃を右手に持ったまま左手で肩掛けのポーチを探り、今回使用する弾丸を取り出す。
それは文字通りの鉛玉。
直径12mm。
火縄銃などと同じ球形の弾丸で、薬莢はない。
これは、わざとだ。
王権がうちの家門に牙を剥く可能性がある以上、国に納入する銃は火縄銃を強化した程度のものに抑える。
それでも他国との戦いでは、十分に威力を発揮できるはず。
私は銃を立て、銃口から弾丸を入れる。
弾はカラカラと下に落ち、やがて止まった。
地球の銃と違い口径に対して弾径を小さく作ってあるため、筒先から㮶杖(カルカ)で押し込む必要はない。
この辺り、燃焼ガスのガス圧で弾丸を飛ばす火薬式の銃と、今回私が作った魔導銃は大きく異なる。
私の銃は、魔法の力で弾丸を瞬間的に加速して銃身から撃ちだしたあと、銃口の先で魔法陣を展開して弾丸をさらに爆発的に加速する。
要するに、二段加速方式をとっているのだ。
銃身には弾道を安定させる魔導回路が仕込んであるため、銃身内径と弾丸外径のギャップも問題にはならない。
これによって、子供の私でも撃てる極めて反動の少ない小銃が完成した、というわけだ。
「それでは、いきます!」
私は傍らの父と兄に声をかけると、魔導ライフルを構えた。
狙いは30mほど先の対岸に置かれた鎧と盾。
そのうち、まずは鎧を狙う。
左側面の切替レバーを操作して安全装置を『0(セーフティ)』から『1(射撃)』へ。
銃床を肩に密着させ、機関部上に設置した照門をのぞき込む。
その状態で引き金を半分だけ引く。
すると、ブン、という音とともに銃口の先に魔法陣が現れ、銃身が青白く光り始めた。
「おお……」
観客たちが、息を呑む。
私は、照門のV字に銃口上の照星と、狙う鎧が重なるように角度を合わせ––––––––静かに引き金を引いた。
タンッ、という音とともに伝わる振動。
その瞬間、筒先の魔法陣が輝きを放ち、バフっという空気の衝撃とともに光弾が加速された。
発砲と着弾は同時。
ババンッ、という音がして標的の鎧が揺れる。
「おおーーっ!!」
観客たちから感嘆の声があがった。
ここからでもはっきりと見える、鎧に穿たれた丸い穴。
音からして貫通したのは間違いない。
続いて、第二射。
私は再び銃口から弾丸を装填すると、速射性能をアピールするため、すぐに射撃姿勢に入る。
トリガーを軽く引き魔導回路を起動。
照星を標的の魔導盾に合わせ、そのままトリガーを引ききる。
ダバンッ!!
先ほどより大きな音がして魔導盾が弾け飛んだ。
「「おおおおっ!!!!」」
屋敷の庭が、観客たちの感嘆の声であふれた。
「おいっ、なんだあれは?!」
「魔導盾がバラバラになったぞ??!!」
どよめく観客たち。
(––––よしっ!)
心の中でガッツポーズを決めた私は、そのあと3発の弾丸を標的の鎧に撃ち込んだのだった。
☆
「すごい! すごいよレティ!!」
5発の弾を撃ちきり銃を置いた私のところに、実演終了のアナウンスを終えたばかりのヒューバート兄がかけ寄ってきた。
「私、ちゃんとできてましたか?」
「もちろんさ!」
満面の笑みで私を抱きしめるヒュー兄。
その後ろからグレアム兄とお父さまもやって来る。
「やったな、レティ」
そう言って頭をなでてくれるグレアム兄さま。
お父さまは私の前までやって来て片ひざをつくと、肩に手を置いて微笑んだ。
「レティシア。お前の技術(ちから)、しかと見せてもらった。これなら私も胸を張って爵位を継承させられる。王も納得されるだろう」
「本当ですか?!」
思わず聞き返した私に父は、
「ああ、本当だ。––––よくやったな、レティ」
そう言って頭をなでてくれた。
うれしい。
前世ではほとんど報われることのなかった私の努力。
その努力が今、いろんな人たちの助けを得て、報われようとしている。
「お父さまっ!」
目の前の父に、がばっ、と抱きつく。
父は優しく私を抱きしめ、こう言った。
「どんなことがあろうと、私たちはお前の味方だ」
「っ…………うん!!」
気がつくと、目からぽろぽろと涙がこぼれていた。
その後すぐ、王都工房の人たちもやってきて、私を祝福してくれた。
「ほれ、半信半疑だった連中もあの通りだ。百聞は一見にしかず、ってやつだな」
にやにや笑いながら、的の方をあごで指す工房長のダンカン。
標的になった板金鎧と魔導盾のまわりには大勢の人が集まり、皆で「ひぇー」とか「ウソだろ?」とか言って鎧と盾の残骸をひっくり返している。
グレアム兄の同僚の騎士たちにいたっては、その威力に青ざめているようだ。
「ふふん」とほくそ笑むダンカン。
そんな現工房長に対し、前工房長は泣いていた。
「わしらが作った魔導具が真っ当に評価される日が来るとは…………なんと誇らしいことか……っ!」
身を震わせ、男泣きする前工房長。
隣のおじいちゃんたちも、もらい泣きしている。
「これまで、何度辞めようと思うたか。けど、やめんでよかった。本当によかった」
「わしも、腰を痛めながら続けたかいがぁっ……!? こっ、腰がはああああ?!」
このおじいちゃんは、いつも腰がつらそうだ。
個人的に腰ベルトを作ってプレゼントしてあげようか?
そんなことを思っていると、後ろから少年が顔を出した。
「それもこれも、お嬢のおかげだ」
照れているのか、そっぽを向いてそんなことを言うジャック。
「せっかく褒めてくれるなら、顔を見て言えばいいのに」
私が茶化すと、同年代の少年はちら、とこちらを見て「うっせ」と言ってまたそっぽを向いてしまった。
「なんにせよ、くさってた俺たちがここまで立ち直れたのはアンタのおかげだ。王都工房を代表して礼を言うぜ。––––ありがとな」
こちらも照れくさそうに、頬をぽりぽりかきながら礼を言うダンカン。
私はみんなに向き直った。
「ううん。お礼を言わなければならないのは私の方よ。みんなのおかげでこうして新しい魔導具をつくりあげることができた。私だけじゃ絶対にムリだった。––––本当にありがとう」
私がお礼を言うと、ヤンキー君が、
「よせやい。照れるじゃねーか」
バシッ
「痛っ?!」
ローランド青年の背中を引っ叩いた。
「ふふっ」
「ははっ!」
互いに笑いあう私たち。
そうして私たちは、達成感に満ちた幸せな時間を過ごしたのだった。
☆
数日後。
王家からの遣いがうちの屋敷を訪れ、父に一通の手紙を手渡した。
それは、王からの信書。
手紙には、王城への登城を命じるとともに、こちらから要望をあげていた、献上品の魔導具のデモンストレーションを許す旨が記されていた。
なんとそのために、騎士団の第二練兵場の使用を許してくれるという。
日時は、一週間後の午後。
これは千載一遇のチャンスだ。
絶対に失敗はできない。
私はその日に向け、ライフルを収めるケースや予備の弾丸を手配するとともに…………万が一のときに身を守るため、とあるものの開発を急ピッチで進めることにしたのだった。
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