鉄軍
魔弾を葬り去ったネロは、数十体の鉄の騎士に囲まれながら本体を殺す方法を考えていた。
「鉄軍、か……怖えのは数だけってとこだな」
今見えてる能力だけならだが、とネロは付け加え、自分を取り囲んだ三体の鉄騎士を先ずは切り裂いた。
「まぁ、うちのボスが死の宝珠をどうにかしてくれることを待って耐えるだけでも良いっちゃ良いんだが……」
「「「
新たに飛び掛かって来た三体の騎士の剣が淡く銀色の光を帯びる。
「まぁ、折角ならぶっ殺す気でやるか」
三体の騎士が、その光の真価を発揮するより速く真っ二つに分解される。
「スキルまで使えるのは中々厄介かもな」
言いながらも、次々に鉄騎士たちを豆腐のように切り裂いていく。
「さて、こんだけ片付けりゃ……」
ネロの姿が上空に移動する。転移だ。
「大体、あっちだな」
遥か高所から戦場を俯瞰する。それにより、ネロは気付いた。新たに生産された何体もの鉄騎士が一つの方向から向かってきていることに。
「ほら、ここら辺にいるんだろ? 姿、見せやがれ」
あっという間に騎士たちに囲まれたネロ。しかし、ネロは余裕そうに両手を開いて挑発した。
「――――望み通りに」
隙を晒したネロの背後、鉄の騎士が切りかかる。
「っと、まさか本当に姿を見せてくれるなんてな」
斬撃を転移で躱し、ネロは驚いたように言った。
「このままジリ貧で居ても不利なのはこっちだ。どんどんと仲間がやられている今、少しでも積極的に敵を減らす必要がある……そう、一度考えてしまえば、傀儡と化したこの体は勝手に動き出す」
「なるほどな。しかし、随分はっきり喋れるな。他の奴は会話すらままならない奴ばっかりだったがよ」
鉄軍のヨウサは、その問いを聞きながらも斬りかかる。
「ちょっとした、裏技だ。俺の分身もはっきりと喋れていただろう。それと同じやり方で喋っている。分かりやすく言えば、肉体ではなく思考の範疇で喋ることが出来れば、はっきりと喋れるという訳だ」
死の宝珠に囚われた者達の肉体はほぼ完全に支配されてしまっているが、思考まではそうではない。ある程度の思考能力を持っている方が兵士としても強いからだ。そして、思考が自由であるということは思考をそのまま音に反映させることが可能ならある程度は会話の自由が出来るということだ。
「……ま、良く分からねえけど。取り合えずぶっ殺すぜ?」
とはいえ、ネロにとってはそのことは特に重要ではない。深く理解する気も無かったネロは思考を放棄して
「あぁ、やってみろ」
言葉を返すヨウサの周囲に、三体の鉄騎士が湧いて出る。
「悪いが、俺も手加減は出来ない」
「そうかよ」
飛び掛かって来た三体の鉄騎士をネロは順番に切り裂いた。
「
「ッ!」
最後に斬りかかってきたヨウサの剣が変形し、刃が根元から三本に分かれつつ、巨大化する。
「クキャ……ただの人形使いじゃねえみたいだな」
二メートル程の大きさの刃が三方向に展開される斬撃は、普通なら回避もままならない。しかし、ネロは転移によってギリギリで回避することが出来た。
「まぁ、良い。ちったぁ歯ごたえのある方が面白いか」
吐き捨てるように言うネロに、ヨウサは歩いて来る、
「
ゆっくりと歩み寄るヨウサの周囲から無数の鉄騎士が現れ、ヨウサを覆い隠す。
「なんだぁ? 本体を紛れさせるって戦法か?」
「いいや」
鉄騎士から返事が返ってきたので、ネロはその鉄騎士を真っ二つに切り裂いた。
「だったらなんだ? 物量で潰すなんて戦法なら、俺には通じねぇけどよ」
ネロを取り囲んだ鉄騎士達。四方向から飛び掛かってくるが、ネロは冷静に転移で回避した。
「「「
正面から三体の騎士。銀色の淡い光を放つ剣を振り下ろしてくる。
「クキャッ、すっとろいなぁ?」
三本の剣ごとネロは切り裂こうとする。瞬間、騎士たちの体が内側から光る。
「
ネロの剣が騎士に触れるより速く、騎士たちの体が弾けた。木っ端微塵に弾け飛ぶ鉄片。それは当然、目の前に居たネロにも飛来する。
「グッ、ギャァッ!?」
なんとか鉄片が深くまで刺さりきる前に転移で逃れることが出来たが、それでも至近距離で爆発し飛散した鉄片達はネロの体をボロボロに傷付けた。
「クキャッ、キャ……やるじゃ、ねぇか。クソが」
ネロは悪態を吐きながら転移先で何とか体を起こす。
「おい……こんな技があるなら先に言っとけよ。お陰で、ボロボロだぜ? こっちは」
遠くから近づいて来るヨウサに文句を言いながら剣を構えるネロ。
「すまないが、敵に有利を与えすぎることは出来ない。俺も死の宝珠の支配の下にあるからな」
そう語るヨウサの周囲に鉄の騎士が湧いて出る。つまり、あの語っている騎士は本体だと言うことだ。
「そして、隠し玉はアレだけではない」
ヨウサの背から、数本の鉄の剣が生え、生えた剣から更に剣が生え、生え、生え……連なる。それはまるで鉄の剣で作られた刺々しい触手のようだった。
「へッ、そうか……よ……」
力なく返しながら、ヨウサを睨むネロ。そういえば、最近は自分が強者の側であることが多かった。数で勝っていたり、そもそも相手より自分の方が強かったり、だから忘れていた。
「へ、へへッ……クキャ」
相手は多分、自分より強い。ネロは何となく察した。そして、笑った。
「元から俺は、
高速再生の無いネロは空間を拡張された布袋の中からポーションを引っ張り出し、一息に呷った。
「そうか。それは良かった……
「
ネロに迫る鉄の剣が連なって出来た触手のような、鞭のような何か。それがネロに触れる寸前、ネロの姿は掻き消えた。
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