狙撃手
遠くで息を潜め、透明な弾丸を撃ち放つ狙撃手。剣の達人であるススとイシャシャには通じなかったが、狙撃手は未だに悟られることなくこの暗黒の世界のどこかに潜伏していた。
「……装填、完了」
あの厄介な二人の剣士は透明な弾丸も感知し、回避してしまう。ならば、出来ることは特殊な弾丸による支援のみだ。そう、十一の騎士『魔弾』のナダマは考えた。
「対象……黒の、骸骨」
ニノヤとスス、トルクとイシャシャで戦闘が始まった。それを見たナダマは、先ずススを狙うことにした。
「緋の魔弾。清浄付与」
赤色の弾丸が細長いライフル銃の中に込められ、銃口から白いオーラが零れる。
「発射」
ススでさえ受ければ致命傷は免れない、アンデッドには強い効果を発揮する弾丸。しかも、この弾丸は例え直接受けずとも、近くの地面に着弾すれば爆発して聖属性を帯びた炎が焼夷弾のように撒き散らされる。
「……命中、確認できず」
有り得ない。魔弾の射撃は、決して狙った獲物を逃がさない。避けられた訳ではない。外した訳でもない。弾丸が、空中で本来の軌道から外れたのだ。まるで、
「――――
空間を斬り裂く刃が、ナダマの首を刎ね飛ばした。
「ッ」
宙を舞う首がいつの間にか背後に立っていたハイゴブリン……ネロを睨む。
「クキャッ、おっかねぇな。完全に消し飛ばしてや、ッ!?」
屈んだネロ。その頭上を通り過ぎていった銀色の刃。
「七の騎士、『鉄軍』のヨウサ」
地面に転がる柄の無い刃。それを投げつけたであろう全身鎧に身を包んだ男は、堂々とネロの背後から現れた。
「そうか、俺はネロだ。よろしくなぁ?」
挨拶を返しながら、ネロはヨウサの背後に転移し、その首を斬り落とした。
「あぁ? 随分呆気ねぇ……いや」
地面に転がったヨウサの頭を見て、ネロは納得した。
「本体じゃねえ、って訳だな」
銀色の兜の中は空っぽだった。当然、胴体も無い。最初から鎧の中には誰もいなかったということだ。
「だが、言葉を発することは出来たってのが気になるな」
単に金属を手動で動かしている訳でも、普通のゴーレムの類でもないということだ。つまり、この鎧を操るということ自体が能力である可能性が高い。
「あぁ……やっぱり、そういうことか。『鉄軍』ってのは」
気が付けば、ネロの周囲には同じ全身鎧を着た無数の兵隊が並んでいた。
「まぁ、だが……怖かねぇな。ちっとも」
ネロは笑うと、復活しかけていた魔弾のナダマに
「要するに、雑魚の大軍を作る能力って訳だな?」
「そう思うならば、試してみるが良い」
ネロの最も近くに居た個体が、そう口にした。
「あぁ、試してやるよ。雑魚ども」
ネロに斬りかかる鉄の騎士。ネロの姿が掻き消えた。
「ほら、こっちだぜ? かかってこいよ」
遠方に姿を現したネロの分かりやすい挑発に、鉄の軍勢は押し寄せる。
「ハッ、ちょろいもんだな?」
ネロに殺到する鉄の軍勢。先頭の一人がネロに斬りかかろうとした瞬間、ネロの前方の空間が一気に縮み、その空間の中に居た鉄の軍勢はぐちゃぐちゃに潰れてしまった。
「さぁ、一先ず全滅だが……まぁ、だろうとは思ったぜ」
数十体と居た鉄の騎士たちを全滅させたネロだが、そんな彼を囲むように新たな鉄の騎士たちが現れた。
「都合良く考えねぇなら、無尽蔵だな」
最大数には制限があるかもしれないが、生産数に限りがあるとは言い切れない。仮に限界があったとしても、それがいつかも分からない。
「となりゃ、まぁ……本体を探すしかねえな」
ネロは言いながら、飛び込んでくる鉄の騎士たちを躱すように転移した。
「――――よりも先に、テメェだ」
死の宝珠によりまた復活しかけていた魔弾のナダマだ。ネロは繋がりかけていたその首を再度斬り落とし、
「完全に消え失せな」
圧縮されたグロテスクな死体を、空間ごと全てを削り取る刃が消し去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます