黒く在る理由
亀裂が入っていく結界。遂に砕け散った結界の向こう側には、最初に見たような黒い人型が居た。
「……なるほどな」
最初とは違い、キビキビとした動きでこちらに歩いてくるそれは、片腕を上げると刃に変えた。
「あの巨体をここまで圧縮したという訳か……姿こそ最初と同じだが、強さは比にならないだろう。全員、油断するな」
黒い津波としか形容できない程のあの巨体がちっぽけな人間サイズまで圧縮されているとなればそこに秘める力は異常だろうね。これは警戒の必要が――ッ!
「っ、ふぅ……ありがとね」
思考の最中、僕の眼前まで一呼吸の間もなく迫った黒きもの。振り下ろされる黒い刃から僕を救ったのはエトナだ。
「速度ではギリギリ勝ってますけど……ちょっと、ヤバいですね」
抱えていた僕の腰から手を放し、エトナは黒きものと同じように手を黒く染め上げて刃に変えた。
「……ねぇ、ネルクス」
「なんでしょうか、我が主よ。もしかして、この状況を打破する秘策でも思いつきましたか?」
僕は首を振った。
「いいや、そうじゃなくて……エトナの種族、
「えぇ、間違いなく。……あぁ、黒きものと似ていると思ったのですか?」
「うん。ちょっとね」
僕が答えると、ネルクスは笑った。
「クフフフ、大丈夫ですよ。アレは彼女は全く違った存在です。そもそも、種族が同じかなど
「まぁ、分かるだろうけど……君みたいに
ネルクスは感心したように頷いた。
「ほう、それは良い心がけですねぇ。警戒心は高くて損はありません……とはいえ、高すぎるのは良くないですが」
クフフと笑う悪魔は、目を細めて戦闘を始めた黒きものを見た。
「あぁ、それと……黒きものと彼女は全く違った存在と言いましたが、全くではないかも知れませんねぇ? クフフ、彼らには確かな共通点がありますから」
「クフフじゃなくて、教えてくれないかな?」
ネルクスは瞬き一つせず、黒きものを見続けている。
「そうですねぇ……ヒントだけ教えるなら、色は混ざれば混ざるほど黒に近付くとだけ」
「ヒントね。ヒントも嬉しいけどさ、僕はそろそろ答えの方も気になって――」
僕が追求しようとした瞬間、黒い刃が超高速で飛来した。が、ネルクスの拳がそれを叩き落した。
「我が主よ、残念ですが話している場合では無いようですねぇ」
「……そうだね、今はこっちに集中するよ。残念だけど」
僕は意識を黒きものに向けた。
「ヴぁ、ぇ、ぅ、ヴぁぃ」
エクスの氷に全身を包まれても氷に亀裂を入れて破壊し、ディアンの炎に全身を焼かれても堪える様子はなく、イシャシャやススに斬られても問題なく再生する。
「「「「「「「「「ギャォォオオオオオオオッッ!!!」」」」」」」」」
全方位から襲い掛かるヒュドラの首。それは猛毒を撒き散らしながら食らいつく。
「ギャ、ギャゥ……ギャヴォゥ、ヴェ」
九つの首に完全に食らいつくされたかのように見えた黒きもの。しかし、九つのヒュドラの頭はそれぞれ内側から黒が滲んでいき、頭が爆発し、中から無傷の黒きものが現れた。
「セインの毒も一ミリも効いてないね……これはまたイヴォルに頼るしか無さそうだね。幸い、そこまで攻撃性能は高くないみた、い……」
独り呟く僕の横を通って片腕片足を無くしたロアが吹き飛んでいった。
「俊敏で、強力で、不死身」
なるほど。イヴォルの言った通り、今回は結構ヤバいかもしれない。
「ヴぉ、ぇ、ヴぁへ、ふ、は」
突如立ち止まり、奇妙な声を上げる黒きもの。その体が黒い霧となりどこまでも広がっていく。
「ッ!! 全員、警戒しろッ! 体内から食い破られるぞッ! 霧の本質は分裂だッ、一粒一粒は極めて弱いッ、自衛できるものは自衛しろッ!」
叫ぶイヴォル。その姿も一秒も経たぬ間に黒い霧に呑まれる。
「なるほどね……黒霧の怪人ってのはこれが由来かな」
ネルクスの展開した結界の中で僕は呟いた。
「っと、あぶねぇ……俺の能力じゃこの霧は凌げねえからな、助かったぜ」
横から聞こえる声、ネロだ。確かにそうだ。イヴォルやネルクスみたいに結界を張れる子や、エクスみたいに周り全部を燃やし尽くせる子なら問題ないだろうけど、ネロとかロアみたいなタイプはこの霧に対する対抗手段は無い。体の内側と外側の両方から黒い霧に蝕まれて死ぬ。エトナも危ないかもしれない。
「
だったら、全員回収して一旦無敵にしてやればいい。
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