救済執行官
アルジャバはライフルを構えると、その引き金を引く前に口を開いた。
「フェアじゃねぇから先に言っといてやるが、この銃は相手の
「ふーん……それはマズイね」
僕の従魔は割とPKを経験している。僕が知らない場所で、どれだけのプレイヤーが殺されたか分からない。一応、殆どの従魔には襲撃は控えて反撃のみにするよう言ってるけど、このゲームの判定がどうなってるかは分からない。何しろ、カルマ値は自分では見れないからだ。
「まぁ、安心しろよ。お前くらいの脆い人間なら悪人じゃなくても一撃だからな」
「あはは、それは安心だね」
とはいえ、足に当たるくらいなら死なないだろう。気を付けていれば問題ない。その上、彼女はさっきから拘束用の攻撃しかしてこない。恐らくだが、出来る限り殺さないようにしているはずだ。
「それと、お前……私のこと舐めてんだろ?」
「んー、そんなことないよ。ただ、君がペトラの倍強くても僕には勝てないよ」
アルジャバは、そうかよと言って僕を睨むと、小声で何かを唱えた。
「言っとくが、私は……」
アルジャバの体から白銀のオーラが溢れる。足元から湧き上がるそれは明らかに聖なるもので、アンデッドが苦手とするオーラだった。
「────ペトラの三倍強い」
溢れ出る白銀のオーラが爆発し、少し離れた僕の元まで届く。ヒリヒリと肌が刺激されると同時に、僕はアルジャバの目が白銀に染まっていることに気付いた。
「そっか。じゃあ、僕からも言わせてもらうけど……」
僕はウィスプを呼び出して転移門を開いた。
「────三倍じゃ、全然足りないね」
転移門から溢れ出る魔物達。それはゴブリン、それはアンデッド、それはスライム。あらゆる魔物が溢れて僕を守るように立つ。
「そもそも、君だって知ってたでしょ? 僕は
「……ヤベェな、コイツは」
冷や汗を垂らし、後退るアルジャバ。
「確かに、認めるぜ。私はお前のことを舐めてたし、こりゃペトラが三人居ても足りねえ。だがな……私の狙いは一先ず、達成されたぜ」
「君の、狙い?」
僕が首を傾げた瞬間、空に浮かぶ何かが見えた。それは、明らかに一つではない。何かが、大量に浮かんでいる。
「あぁ、しくじっちまった私の尻拭いをしてくれる仲間だよ」
アルジャバの言葉と同時に、空に浮かぶものたちが急降下してくる。
「……なるほどね、時間稼ぎか」
降りてくるそれは、黄金。軍団。
「────アージャ、勝手なことをしてくれましたね」
一番先に降り立ったのは、黒い修道服を着込んだ金色の長髪を持つ女。目は碧眼で、黒い布に殆ど全てを隠されても美しい容貌だ。
「ハハッ、悪かったって。こうなるならアンタを待って引き止めるだけにしとくべきだったなぁ」
「本当ですよ。全く」
呆れたように言う女の後ろには、百を超えるように見える軍団が見える。黄金の鎧を着込み、黄金の剣を持ち、純白の翼を生やした軍勢だ。
「さて……お待たせしてしまいましたね。ネクロ様」
「待たせられた覚えは無いけどね」
僕がそう答えるも、女は無視して続ける。
「私は救済執行官『天聖』のアロマ・テスタラント。どうか、ティグヌス聖国を訪れて下さい」
「んー、悪いけど……君の国を訪れる危険性はもう知っちゃってるんだよね」
僕が答えるも、女は微笑む。
「それは、この状況よりも危険であると?」
「うん。だって、ここには執行官が二人いるけど、君の国に行けばもっと居るわけでしょ?」
「えぇ。ですが、ここで断れば確実に戦闘になりますが、聖国に行って戦闘になるとは限りません」
「そうだね。でもさ、君の後ろの騎士達……」
「天聖騎士団、私が能力で生み出した騎士達ですね」
あ、二つ名と同じ名を冠してるんだね。
「そう、それ。アレさ、数えても百体より多いくらいで、二百には届かないよね?」
「そうですね。ですが、それは貴方の魔物も同じことでは?」
確かに、今場に出てる数は百にも満たないくらいかも知れない。
「あはは、そうだね。じゃあ、出せるだけ出してあげるよ」
「……まだ、居ると?」
「うん、今呼んだのは暇な子だけだからね」
流石にネルクスとパルトネラを教会の人の前で出すのはマズイだろうが、それ以外なら基本的に大丈夫なはずだ。
「ッ! まだ、増えるのですか……一体、どれだけ」
「ていうかさ、帝国もそうだけど、一人送って負けたから二人送るって馬鹿じゃない? 自分の戦力を過信しすぎだよね。僕なら絶対、三人は送るよ。それが出来ないなら、そもそも送らないか別の手を使うね」
煉獄が負けたことにより送られてきた凍獄と魂牢、金閃が負けたことにより送られてきた業祓と天聖。
「そもそもさ、救済執行官は帝国十傑よりも個の強さは劣る代わりに数が多いのが強みなんでしょ? だったら、三人以上は送ってくるべきだよね」
僕が言い終えた瞬間、背筋にピリッとした感覚が走る。
「……なんだ、送ってるじゃん」
振り向くよりも早く、背後で金属がぶつかり合う音が聞こえた。遅れて振り向くと、エトナが新たに現れた黒い修道服の女の短剣を受け止めている。
「冒険者の私より遅いのに国直属の暗殺者とかやっちゃダメですよ」
「ッ!」
黒い修道服が跳躍してアロマとアルジャバの横に逃れる。
「さて……まぁ、ちょっと安心したよ。これで漸く、勝負にはなるね」
尚も勝ちを確信している僕は、飽くまでも油断なく戦場を見渡した。
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