魔の島、魔の塔、その深淵。

 現れた転移陣。レヴリス達は直ぐにそれに入ることなく、十分に回復と準備を済ませた。


「……それじゃあ、準備は良いのです?」


 地面に描かれた転移陣を囲む様に立つレヴリス、ズカラ、クロキリ、シン、ヴェルベズの五人が頷いた。それぞれが既にバフの付与と心の準備を済ませている。


「じゃあ……行くのですっ!」


 レヴリスを先頭に、五人が転移陣の中に飛び込んだ。




 ♢




 そこは魔の塔の奥深く。魔の島の真の最終地点。


「……道、なのです」


 レヴリス達が出た場所は余りにも単純な道。帰り道は無く、あるのは道とその奥にある扉だけだ。


「進めってことだろうが……ま、行くしかねえな」


「あぁ……もう引くという選択肢は無い」


 ズカラとクロキリが歩みを進め始める。他の面々もそれに続き、あっさりと扉の前まで辿り着く。今までと違って罠の類は無く、本当にただの道だった。


「ふぅ……開けるのです。良いですか?」


 四人が頷く。


「よし、行くのです…………行くのですっっ!!!」


 レヴリスの分身が、あっさりと扉を開いた。




 開いた扉の先、たった三人がそこで待ち受けていた。



「────やぁ、侵入者。先ずはおめでとう。君達は遂に、最終地点に辿り着いた」



 一人はネクロだ。黒っぽい外套を身に纏い、小さな玉座に座り、僅かに笑みを浮かべている。


「ネクロさん、もう殺しちゃって良いんです?」


「マスター、殺傷許可をお願いします」


 そしてネクロの両脇に控えるのはエトナ、メト。全員がただの人間にしか見えないが、実のところ人間はネクロだけだ。


「あはは、まだダメだよ。折角ここまで待ったんだから、勿体無いでしょ?」


「……まぁ、良いですけど」


 頬を膨らませてそっぽを向くエトナ。メトは無言で侵入者達を見ている。


「……蚊帳の外も良いのですけど、そろそろ私とも話してもらうのです」


「うん、良いよ。寧ろ望むところだね。お互いここまでやったんだ。ちょっとくらい話したかったし」


 レヴリスが少しだけ緊張した様子で話しかけた。


「余裕そうに座ってますけど、負けたら動画にするのですよ? 恥をかいてもらうのです」


「あー、そんな話もあったね。でも、そうだね……うん、良いこと聞いたよ。そっちが負けたら、僕が動画にしちゃおうかな」


「ッ」


 レヴリスの目が僅かに動揺に揺らいだ。


「す、好きにすると良いのです……でも、こんな舐めた戦力、負ける訳が無いのです」


「舐めた戦力?」


 ネクロは首を傾げた。


「ナメてるのです。正直、私は広い空間が用意されてて信じられない量の魔物とか、大きな巨人とか怪物が待ってるものだと思ってたのです。でも、実際はこれなのです。弱点の癖に隠れもしないテイマー本体と、ただの人間二人……せめて魔物を用意しろって話なのですっ!」


「あはは、確かにね。でも、エトナもメトも強いよ?」


「メトは知らないのですけど、エトナくらいなら流石に知ってるのですよ。でも、所詮A級冒険者一人なのです。この世界の人間程度、五人で殴れば負ける訳無いのです」


「うん。帝国十傑に頼り切りだった君から出た台詞とは思えないね」


 ネクロの言葉に顔を赤くするレヴリス。そもそも、エトナとメトを人間だと思っているのが勘違いなのだが、しょうがないことだと言えることだろう。エトナは元からファスティア辺りではそこそこ有名な冒険者故に、まさか魔物だとは思っていないのだろう。その隣にいるメトも解析スキャンでは偽装されているため人間と出てしまう。因みにエトナは種族偽装もしているが、アクセサリーの効果でそもそも解析スキャンを受けない。


「う、うるさいのです……どっかに隠してるのかも知れないですけど、こんなの速攻で終わらせてやるのです」


「そっか。じゃあ、お喋りは終わりで良いかな?」


「良いのですっ! お前にはここで滅んでもらうのですっ!」


「滅んでもらうって、あんまり人間には使わないよね」


 気炎を吐くレヴリスに表情も変えず余裕そうに呟くネクロ。それにレヴリスは更なる苛立ちを見せる。


「もう良いのです……みんな、行くのですっ!!」


 五人がそれぞれの得物を構え、戦闘を開始した。


「ネクロさん、もうやっちゃって良いんですよね?」


「うん。人並みにね」


 サラッと魔物だとバレないように指示を出すネクロ。その言葉が発せられると同時に、エトナの姿はかき消えた。


「ククク……我が闇の力の深淵を見せる時が来たようだな」


「……良いから早くしやがれ」


 ヴェルベズが杖を構え、巨大な魔法陣を展開していく。その隣に立つ護衛のズカラは鬱陶しそうな表情を浮かべている。


「さぁ、喰らえッ! 必殺ッ! ダークネ────」


「────弱すぎます」


 ヴェルベズの眼前に、突然エトナの姿が現れた。短剣で一閃。ヴェルベズの首がゴロリと落ちて粒子に変わる。


「なッ!? テメェどっから現れや、が……ぅ」


 本来はヴェルベズの護衛だったズカラ、その首にエトナは手刀をお見舞いし、気絶させた。


「確か、この人は生け捕りって言ってましたよね」


 エトナは取り敢えず部屋の隅にズカラを運んでおくことにした。

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