蒼と銀と黒

 塔の上、苛烈に迫るのはレヴリスとクロキリ。それを捌いているのはオデュロッドとアクテンだ。土を操り、植物を操り、防御と妨害でなんとか凌いでいる。


「ほら、どうしたのですっ! 防戦一方で大丈夫なのですっ!?」


「問題、ないですねッ!」


 レヴリスが同時に放った三本のナイフを木の幹程の太さの植物で一薙ぎして防ぐオデュロッド。しかし、足元から伸びた闇の棘には気付かず足を刺されてしまう。


「遅い。反応も、動きも。お前、戦闘メインでは無いな。仕掛けは終わりか? 死ぬぞ」


「死にませんよーッ! 戦闘メインじゃないですけど、シミュレーションは終わってますからーッ!」


 黒い霧を撒き散らし、遮られた視界から突然現れ幾度も奇襲をかけるクロキリ。アクテンも頂上に備えられた仕掛けと土魔術を駆使して何とか生き残っているが、時間の問題だろう。


「それと、ですね……そっちこそ、大丈夫ですか?」


 植物で壁を作りながら問いかけるオデュロッド。レヴリスは紫色のオーラを纏う短剣でそれを切り裂く。


「何がなのです? 時間を稼がれても大丈夫かって意味なら、寧ろ望むところなのですよ。土魔術で生み出されたゴーレム程度、うちのメンバーなら誰でも余裕で倒せますし、時間がかかって不利になるのはそっちなのですよ?」


 その言葉を証明するように後ろに下がり、両手を広げるレヴリス。だが、オデュロッドは表情を変えずに手に持った短杖に魔力を流した。


「いえ、そうじゃなくて……もう準備は終わってますし、発動の隙も丁度貰えたので」


「発動?」


 嫌な予感を感じたレヴリスはオデュロッドに飛びかかるが、それを予期していたように地面から上へと伸びる極太の植物がそれを妨げた。


「えぇ、発動しました」


「ッ!? なるほど、そういうことなのですか……」


 一向に自分の体に異変が起きず、首を傾げていたレヴリスだったが、背後の光景を見て漸くオデュロッドの言葉を理解した。


「これは……急ぐ必要があるのです」


「あはは、そうでしょう? 焦った方が良いですよ」


 笑うオデュロッド。その視線の先には、土と石で作られたゴーレム達から滅茶苦茶に植物が伸び、挑戦者達を雁字搦めに捕らえようとしている光景があった。ズカラの護衛を無視し、スルリと伸びた蔦がふよよんの首を締め上げている。


 どうやら、土魔術のゴーレムとドルイドの植物操作の合わせ技ということらしい。確かに、耐久力だけはあるゴーレムから自由自在に動き回る殺人植物が生えていたら相当厄介だ。


「あれは直接僕が操作している訳では無いので精密性には欠けますけど……あれだけの数がいれば十分だと思いませんか?」


「いや、直ぐにあなたを殺してあのゴーレムも破壊すれば何の問題も無いのです」


「あはは、そうですね……それが出来れば、ですけど」


「私を舐めすぎなのですっ!!」


 レヴリスの体が五つに分かれる。


「「「「「こっからは全力なのですっっ!!!」」」」」


 五人のレヴリスがナイフを握り、襲いかかる。


「あ、はは……お手柔らかに?」


 オデュロッドは乾いた笑いを漏らした。




 蒼い軌跡が舞い踊り、シンとブレイズを追い詰める。合刃クロス蒼気解放エクスオーラ覚醒アウェイク、この全てを解放したチープは余りにも凶悪だった。


「これでもッ、二対一なんだけどねェッ!」


「……速い、重い。狙いも正確。隙が無いな」


 紅蓮に燃え盛るレイピアがチープの腕を掠るが、蒼い光がその傷を覆うと直ぐに治ってしまう。


「ていうかさァッ! その回復ッ、ズルくないかなァッ!? 一体何の能力なんだよッ!」


「神器の力だよ。良いだろ?」


「ズルいなァッ! 道具頼りで恥ずかしくないのッ!?」


「ハハッ、人間なんでな。カミサマと文明の利器に縋って生きてくしかねぇんだわ」


「ウザいなあァッッ!!!」


 怒りの炎を纏うレイピアがチープの脇腹に刺さる。が、お返しの両手剣がブレイズを吹き飛ばした。


「ん、怒ると強くなるスキルでも持ってんのか? そうじゃないなら感情に任せるのはやめた方が良いぞ」


 チープは素早く動き、蒼い両手剣でブレイズの脳天をかち割ろうとする。


「ッ! ……良かった、一応仲間だって認識はあったみたいで何よりだよ」


「……ここで人手が減るのは困るからな」


 が、シンの黒を纏う剣がそれを受け止めた。


「それと、チープ……お前のレベルは幾つだ?」


「さぁな? 知りたければ解析スキャンでもかけてみれば良い」


「それが効果を為していないから言っているんだろう。その指輪か?」


「ほぉ、良く分かったな。ま、知られねえ為に隠してんだ……言う訳ないだろ?」


 チープの指に嵌められた銀色の装飾も無い指輪。それには確かに情報干渉を無効化する能力が備わっていた。


「ただ、この塔の最上階まで来たんだ。ちょっと話くらいはしてやるよ」


 チープは手に持った両手剣をコツと叩き、ニヤリと笑った。


「俺は普通の奴よりも多く経験値を得てる」


「……経験値量増加の能力か。他のプレイヤー達と明確な差が出るほど効果が劇的なものはかなり希少で少ない筈だが」


「あぁ、俺はその超希少なアイテムを持ってるんだよ。しかも……一個だけじゃなく、な」


 シンの目が細まる。が、それと同時にポーションで回復したブレイズがレイピアを持って猛然と襲いかかった。


「幾ら経験値が増えようが関係ないねぇッ! この場でお前が経験値を得られるには万が一そこの黒いのがやられた時か、億が一僕を殺せた時だけだッ!」


「……その計算だとお前は俺の一万倍強いことになるが」


「それくらいの自信はあるってことだよッ! 燃え死ねッ!」


 ブレイズのレイピアから発せられる炎の勢いが強まり、虚空にそれを突き出すとレイピアから直線上の炎が発せられ、数メートル先のチープを襲う。


「っと、そういうのも出来んのな」


 チープは両手剣を斜めに構えて幅の広い剣身でその炎を受け止める。が、その隙に横からシンが迫る。


「ッ、危ねえッ!」


 振り下ろされる黒い剣を何とか回避するチープ。ブレイズの炎は少し受けてしまったが、この程度なら回避できると一瞬息を吐くチープ。


闇刃ダークカッター、隙が見えたぞ」


「チッ、クッソ……」


 しかし、シンの攻撃はまだ終わっておらず、回避後の一息に闇の刃が迫り、片腕を切り落とした。


「アハハッ、隙だらけだよッ!」


「いや、待てッ」


 片腕を失い、バランスを崩しているチープに飛びかかるブレイズ。レイピアを大きく引き、溜めてから突き出す。猛スピードで繰り出されたそれを、チープは……



「────蒼き残像アスル・シャディア、隙だらけはテメェだ」



 両手剣を手放して身軽になると、体を僅かに捻った。レイピアはチープの残像を貫き、青い光の粒子が散乱する。空になった片手で隙だらけのブレイズの胸に手を当てた。


蒼閃アスル・エクレール


 チープの手が蒼い光を発すると、その光は一瞬にしてブレイズの体の中へと潜り込み……ブレイズの体内でさらに強く光った。


「ぐッ、う……く、そ……」


 ブレイズの左胸辺りを中心に胴体が弾け飛び、体の四割程度を失ったブレイズは膝を突き、粒子となって消えた。

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