黒斑の頭、ズカラ・エルブラン。

 ズカラは扉に向かって歩き出しながら、続きを語る。


「あのクソオヤジは目障りだったからな。何を勘違いしてんのか知らねえが、自分を弱者どもの庇護者だと勘違いしてやがる」


 黒い扉に背をもたれさせ、溜息を吐く。


「サーディアの南はほぼスラムだ。昔、例の事件があってからは最低なスラムになったらしいが、オヤジがあそこを支配するようになってからはちこっと治安が悪い場所程度になっちまった。まぁ、行政の介入もあっただろうがな」


 ズカラは忌々しげに語る。


「先ずなぁ、スラムなんてのは前提としてクソの掃き溜め。雑魚で生きる価値もねぇ弱者だけが惨めに泥水をすすって生きるだけの場所なんだよ。スラムのゴミどもは、周りから蔑まれ、見下される代わりに虫けらとして生きることを許されるって訳だ」


「……お前、黙って聞いていればなんてことを言うんだッ! スラムの人達にあやま────ッ」


 ズカラの前に出た熱血漢が、吹き飛ばされて地面に叩きつけられ、肺の空気を吐き出した。


「黙れよプレイヤー。テメェも同じ仲間の筈の旅人を殺すっていう崇高な趣味を持ってるんだろ? クズ同士仲良くしようぜ」


「俺は、お前なんかとは違ッ!?」


 ズカラが合図を出すと、ズカラの部下二人が熱血漢を抑える。


「んでよ、当然ながら俺はアイツの息子として生きてきた。つまり、あのゴミどもを見下せる支配階級として生きてきたって訳だ。……先ず、人を見下すってのは気持ちが良い。テメェらだって分かんだろ? 人は誰しも自分と他人を比べる生き物だ。他人が自分より優秀なら妬み、自分より劣っているなら蔑む。そういう最低の生き物だ。だが、それが正常で当然だ。そういう風に生まれてきたんだからなァ」


 ズカラは笑い、胸から黒色の煙草を取り出して火を付け、吸い込み、黒い煙を吐き出す。


「ふぅ……だからよ、その当然を否定して弱者を助け、泥水の沼から救い出す……善人ヅラのオヤジが嫌いだった。穢れきったスラムが住みやすく変わっていく、その光景を見るのが我慢ならなかった」


「だからって、殺したのか」


 熱血漢が問いかけると、ズカラは笑った。



「────あぁ。だから、殺した」



 そして、平然と答えた。


「お前ッ!!ぐッ、やめッ! やめろッ!」


 抑えつける二人に必死に抗うが、効果は無い。


「ったく。テメェもそっち側かよ。気色悪いなァ……仲間殺しのぴーけーとかいう奴らなら次元の旅人でも仲良く出来ると思ったのによ……期待外れだ、正義漢サマ」


 ズカラは黒い煙草を足元に捨て、踏み潰すと、黒い斑点が染み込んだ服の内側から黒い金属製の何かを取り出した。


「これ、知ってるか?」


「お、お前ッ、それはッ!」


 黒いソレを、筒のようになっている先端の部分を熱血漢に向け、ズカラはに手を当てた。



「────コイツなぁ、銃って言うんだよ」



 破裂音が、響いた。


「……煙、か?」


 銃弾は確かに熱血漢を貫いたかのように見えたが、着弾点から溢れたのは血ではなく、黒紫色の煙だった。


「少しだけ、ズラしたのです。貴方が撃ったのは、私の作った幻なのです」


 レヴリスだ。彼女がズカラを惑わせ、熱血漢を守った。


「ほぉ、幻か。面白えな。だが、邪魔すんじゃねえよ。俺はムカついてんだ」


「いいえ、邪魔してるのは貴方なのです。私たちの目標はこの島の主を倒すことです。仲間を殺されるのは、その目標を達成するにあたって邪魔でしか無いのです」


 ズカラは表情を変えないままレヴリスと視線を合わせ……逸らした。


「チッ、しゃあねぇなァ。良いぜ、こいつは生かしといてやる。ネクロって奴を殺すまではな」


「はい、それで良いのです」


 レヴリスは頷き、他の面々の様子を見た。怯えているもの、怒りを抱いているもの、何も感じていないもの、反応は様々だが、直ちに影響があるものはいないように見えた。


「それじゃあ、行くのです」


 何処と無く緊張感が支配するその場をレヴリスは無理やり押し進んだ。






 ♦︎……ネクロ視点




 ズカラ・エルブラン……黒斑のボス、ね。


「ベレットが潰すって言ってたけど……取り逃がしちゃったみたいだね」


 まぁ、色々悪いことをしてきたみたいだし、聞いたところはただのクズだ。ここで死んでも恨みっこなしだろう。それに、僕の友達に迷惑をかけてきたことを許す気にもなれない。


「ミラの為にも……って言うと良くないね。ここはこの塔の主として、侵入者を殺すだけだ」


 別に領有権なんてものは無いが、僕の築き上げた場所に土足で踏み込んだのは事実だ。全力で叩き潰してあげよう。ついでにベレットに恩を売れれば御の字だ。あ、駄洒落じゃないよ。


「さて、聞こえてるかな? ……うん、全力でやっちゃって良いよ。よろしくね」


 指示を出し、僕は玉座の上で彼らを睨んだ。

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