限界まで削り合え
相対する二体の化け物。片や斬っても殴っても血を糧に立ち上がる狂戦鬼。片や空間を操り防御を無視した斬撃で全てを消し飛ばす小鬼。
「クヒッ、ヒハハッ! 当たんねえッ! テメェ、俺と相性最悪だなァ?!」
「クキャッ、お前の能力ハある程度分かってきタからナ。要すルに斬られなきゃ問題ナいんだロ?」
ネロの言う通り、アレスは与ダメージと被ダメージをスタックとして溜めておき、消費することで回復できる。その力によってこの島で最前線を張りながらも生き残ることが出来ていたが、ネロのように攻撃を避けるのが得意なタイプは相性が悪い。
被ダメージ分だけのスタックでは流石に回復が間に合わず、攻撃用にスタックを回せないのでジリ貧になるからだ。それに気付いたネロは周りのゴブリン達を下がらせ、巻き込まないようにしながら一対一を続けている。
「持久戦向きノ能力みたいだガ、このマま行けば勝つのハ俺だナァ?」
「ヒハハッ! そうだなァ、テメェの言う通りだなァ! ……だから、切り札を使ってやるよ」
アレスは笑い、両手に握った斧を自分の肩に振り下ろした。
「……頭、イかれたカ?」
そう言ってみるネロだが、何の意味もない行動でないのは分かっている。斧が食い込んだ部分からは血が激しく吹き出し、地面を赤く染め上げていく。
「うし、半分切ったな」
ステータスを確認してそう言ったアレス。何をされるか分かっていないネロは、我慢ならずに突っ込んだ。
「クキャッ! (
背後に転移して振り下ろしたネロの斬撃は、確かにアレスの体を捉え、肩から腰までを真っ二つに斬り裂いた。
「────
腰から下に別れを告げ、吹き飛んでいく胴体。その切断面から血のような赤黒いドロドロとした液体が溢れ出し、同じように液体を溢れ出させた腰の切断面と繋がった。
「クヒッ、ヒハハッ! 体を真っ二つにされる経験は中々ねぇなァッ! ヒハハハハッ! 最高だぜェ、マジでッ!!」
赤黒い液体を通して接合したアレスの体は、今までの真っ赤なオーラではなく、その液体のような赤黒く濃いオーラに包まれている。
「……なんダ、その力」
呆然とした様子で呟くネロに、アレスはヒハハと笑い、言葉の代わりに斬りかかった。
「ヒハハハハハッ!! 悪いが説明してる暇もねェんだわッ! さっさとお前をぶっ殺さねェとなァッ!」
「ッ! 危なイなァ、だがそんナに焦ってルっテことハ時間制限付きノ能力か? ナァッ、答えテみろヨッ!」
さっきよりも苛烈に捨て身で斬りかかるアレスから転移で退避し、
「ヒハハハハッ!! 首ッ、今刎ねられてたかッ!? 貴重だッ、初めてだッ! ヒハハッ!!」
しかし、空中に浮き上がったアレスの首は切断面から赤黒い液体が溢れ出し、胴体と直ぐに繋がった。
「お前、どうやっタら死ぬんダよ。頭を潰せバいいのカ?」
「ヒハハハッ、この状態の俺は死なねェッ! 斬ってもッ、焼いてもッ、潰してもッ! 全部死なねェッ! 治っちゃうッ!! ヒハハハハハハハッ!!」
斬っても斬っても無意味とばかりに即再生するその様は、かつてネロ達が戦った強敵、レミック・ウォーデッグのようだった。
「クキャ……テメェはあいツを思い出スから嫌になルぜ。ホラ、さっさト死んでくんネェか?」
尚も捨て身で向かってくるアレスの胴を真っ二つに斬り裂いた。が、空中で直ぐに繋がり、そのままネロに走っていく。
「だガ、その感じ……時間を稼げバ良いだケだろ? 簡単だナ。お前じゃ俺を捉えラれねェ」
転移で逃げ回るネロは、余裕そうに言い放った。実際、アレスの速度でネロに追いつけるようには思えない。ネロを傷付けるならば、さっきのように不意をついて斧を投げるくらいしか無いだろう。
「ヒハハッ、後二十秒ッ! その間に殺してやるッ!
アレスが両手の斧を地面に叩きつける。すると、そこから赤黒い血のような液体が染み出していき、根のように広がり、大地に罅を入れていく。
「ッ!? クキャッ!」
その赤黒い液体の根は、ネロの下までも届き、彼の足場をグラグラと激しく揺らした。
「クキャッ! (
「
転移で退避するネロだが、地面に大きく広がった赤黒い根は、ネロの転移先も捉えていた。地面から赤黒い根が突き出し、ネロの体に突き刺さる。
「ッ!? クキャッ! (
焦りながらもネロが選んだ転移先は……真上。空中だった。
「追えェエエエエエエエッ!!
「クキャッ! クキャッ! (
空中まで根を伸ばし、追跡するアレスと、空中で転移を繰り返し、避け続けるネロ。
「クキャッ、クキャキャ……ッ! (クソッ、これをやると後がやばいんだが……ッ!)」
この後の展開を予想し、冷や汗を垂らしながらも空中で転移を続けるネロ。空中で何度も転移を繰り返すと、落下時のダメージが結構えげつないことになってしまうので、それを危惧しているのだろう。
「死ねェッ、死ねェッ!! 刺せェエエエエエエエッッ!!!」
「クキャ……(クッソ……)」
足元で熱狂している男もやばいが、落下ダメージもやばい。そろそろ、降りなければ即死しかねない。
「……クキャ(……しゃあねぇ)」
地面から伸びる赤黒い根を回避し続けながら、ネロは覚悟を決めた。
「クキャッ、クキャァアアアアアアッ!!!」
「なァッ!?」
今まで遥か上に居たネロが、いきなり頭上に現れ、アレスを押し潰した。
「グギャァッ……クキャ、クキャ……(ぐぎゃぁッ……クソ、痛ェ……)」
ネロが考えたことは、至極単純だった。このままだとやばい落下ダメージを低減するためにアレスをクッション代わりにしつつ、頭を潰すことで一瞬でも時間を稼いだ。
「……ぅ……ぁぁ……危ね、ぇなァ……頭潰れた経験、初だ……ヒハッ」
再生した血まみれの頭で嗤うアレス。しかし、その動きはとても鈍い。
「ぁあ……血が止まんねェ……スタックが足りねェ……MPも、ねェ……」
ふらふらと揺れる体は、遂に地面に倒れた。
「…………あぁ……楽しかった……また、やろうぜ……ゴブ、野郎……」
口元は笑ったまま、目が閉じていくアレス。数秒後、その体は粒子に変わった。
「……クキャ(ゴブ野郎って何だよ)」
最後まで笑みを浮かべながら息絶えたアレスに、ネロはそう呟いた。
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