竜の炎を潜り抜けて

 十三体の巨大な竜が飛び交い、凶悪な炎を撒き散らす戦場の中、二人の男が木製の仮面を付けて駆け抜けていた。


「あー、にしても意外とバレねぇもんだなァ。髪の毛とかで分かりそうなもんだが」


「分からないよ。だってあのクラン、馬鹿ばっかりだからね」


 荒れた茶髪にボロボロの服を着た男は無骨な大剣を背負っており、整った服を着た赤い髪の美青年は小綺麗なレイピアを持っている。


「といっても、ゴロツキの居る船に紛れてたから気付かれなかったのはあるだろうけどね」


「そうだな。この格好はまぁまぁ目立つが、そもそも視界に入っていなきゃ気付かれねェ」


 ゴロツキのような男の名はドレッド、貴公子のような男の名はブレイズ。対照的な二人だが、残念なことにどちらも筋金入りのPKだ。


「っと、やべェ。敵の近くに居ねえと却って竜に焼かれるだけだからな。あっちのクソゴブリンどもの近くに行くぞ。竜が一匹、こっちを見てやがる」


「おっと、それはマズイね。走ろうか。幾ら僕たちでも、竜の炎には耐えられない」


 そんな彼らがここに居る理由は当然ネクロの暗殺だ。だが、更にその理由を尋ねるのならば、それは復讐だ。

 以前、ドレッド達は『風の居所』という酒場でネクロ達に挑み、呆気なく返り討ちにあった過去がある。その過去を打ち消し、ネクロに吠え面をかかせる為に彼らはここに居るのだ。


「にしても、あの雑魚クランの奴ら死に過ぎじゃねぇか? 幾ら竜が沢山居るっつっても、同士討ちが出来ねェってことに気付けば余裕でやり過ごせんだろ」


「しょうがないよ。奴らは所詮有象無象だし」


 吐き捨てるように言いながらも、ブレイズはドレッドの後ろを走った。因みに、彼らが死闇の銀血シルバーブラッドから隠れてやって来たのには理由がある。それは、別のPKクランに所属している彼らが死闇の銀血シルバーブラッドの仲間としてネクロ討伐に加わると、色々と面倒が起きるからだ。

 本音としては、一度ネクロに敗れた分際で普段から見下している者たちに頼み込むのが嫌だっただけだろうが。


「うへッ、なんだアイツっ!? イカれちまってんだろッ!」


「アレは……誰だろ? でも、銀色にはあんな奴居なかったと思うけど」


 二人が見ているのはアレス。狂戦鬼ベルセルクのアレスだ。


「アイツと戦ってる奴も結構ヤベェな。あのゴブリンも結構厄介だぜ」


「みたいだね。どっちも僕じゃ勝てないかもなぁ。食らいつく自信はあるけどね」


 彼らはアレスとネロに対して正しい評価を下し、だからこそ彼らを避けて通る判断をした。そして、それは正解だった。


「おい、アイツらに全体の注意が向いてるからか知らねぇが、今ならそのライン、通り抜けられそうだぞ」


「全力疾走で行くかい?」


 ブレイズが嬉しそうに尋ねると、ドレッドは苦々しく首を振った。


「悪いが、俺に合わせてくれ。お前はちょっと、速すぎるからな」


「しょうがないね。良いよ、ジョギングで行く」


 二人は笑い、走り出した。瞬歩ステップ跳躍ジャンプ、バフや戦技。様々なスキルを駆使し、戦場に空いた一筋の隙を潜り抜けていく。


「っと……壁までは来れたな。壁の上に見張りは居るが、ここなら影になってバレねぇ」


「みたいだね。さて、じゃあ……壁は飛び越えられるとしても、塔の中までどうやって行く?」


 ブレイズの質問に、ドレッドは笑って答えた。



「────そいつは勿論、正面突破だ」



 それから付け加えるように、ドレッドは言った。俺に秘策がある、と。

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