魔の島に入ると、そこは魔の森でした。
♦︎……???視点
俺はPKクラン、
そんな俺のジョブは魔剣士。だが、双剣術のスキルは上げている。双剣士ではない為、当然双剣装備時のプラス効果は無いが、魔剣士で双剣を使うメリットはかなり大きい。
それは、魔剣士の付与を二本の剣にそれぞれ使えることだ。勿論、双剣士じゃない俺は双剣の扱いに何の補正も無いし、そもそも双剣自体が使いづらい類だ。しかし、理論値は高い。
「……ははっ、随分なお出迎えだな?」
森を進んでいた俺たちを囲んでいるのは、数え切れぬほどの魔物。腐っていたりいなかったり、赤だったり緑だったりするゴブリンを中心としたその群れは、俺たちを一人も逃すまいと木の上から空まで完全に包囲網を敷いている。
所詮ゴブリンと言いたいところだが、彼らの隙間から見える魔物はどれも厄介そうだ。つまるところ、かなりの危機的状況というわけだ。
なので俺は、人生で言ってみたいセリフTOP100くらいには入る台詞を放った。
「危険な状況だが、歓迎だな。さっきまでずっと暇してたんだよ。やっとまともに剣を振れるぜ」
さて、幸運にも敵はまだこちらに飛びかかってきていない。何かの合図を待っているのかも知れないが、その間にこっちは準備を整えさせてもらおう。
周りの奴らも、焦ってはいるがバフや能力上昇ポーションは使っている。
「
先ずはバフだ。効果は順番にVIT,STR,AGI,MNDの上昇とMP,HP自動回復だ。一応、オマケみたいなサブ効果がそれぞれ付いてるが、今は関係ねえ。
「
右手に握られた剣にどす黒い闇が纏わりつく。これで闇属性がこの剣には付与されたことになる。更に、攻撃力も上がりHPドレイン能力も付く。俺のお気に入りエンチャントだ。
「
左手に握られた剣が黒緑に毒々しくぬめり、仄かに光る。これで麻痺と毒、二つの状態異常効果がこの剣に付与されたことになる。このエンチャントは剣の威力を上昇させないが、代わりに厄介な二つの状態異常を付けられる俺のお気に入りだ。
一応、最も基本的な状態異常である麻痺と毒は対策されやすいが、この剣で何度も切ってやればいつかは状態異常にかかるし、剣で斬り裂いて内部まで毒と麻痺を届けるという性質上、普通の毒と麻痺よりも凶悪だ。
「あとは
「ぐびっ……ぷはッ、マジで甘いなこれ。マズくはねぇんだが」
仕上げに青いポーションを飲んで減った分のMPを補充したら、これで準備は完全に終わりだ。
「さぁて、かかって来いよ。化け物ども」
姿勢を正し、二本の剣を構えた瞬間。俺たちを包囲していた魔物達が一斉に襲いかかってきた。
「オラオラオラァッ、俺に近寄れっかテメェらッ!」
黒を纏う剣が、毒を滴らせる剣が、飛びかかる魔物達を斬り裂いていく。つっても、今のところ全部ゴブリンだけどな。
というわけで、地面にバタバタと致命傷を受けたゴブリンが転がっていく。腕を落とされたり、首を斬られたり、臓器を真っ二つにされたりだ。
「オラオラオラァ!! オラ、おぉッ!?」
気持ち良く敵を斬り続けていた俺だが、ガキンと何か硬いものに剣が弾かれた。
「グギャギャ……グギャッ!」
それは、何のことはないただの剣だった。しかし、その使い手はどう見てもただのゴブリンだ。低い身長、緑の肌、醜悪な顔……腐ってはいるが、ゾンビ化してはいるが、それでもただのゴブリンだった。
「チッ、何だよテメェッ! クソ、ゴブリンなんかが一丁前に剣術を使ってんじゃねぇよ!」
しかし、その体が腐り切ったゴブリンの繰り出す剣技と体術は目を見張るものがあった。
「クソッ、テメェ! やけに目が良いなァ!? まさか、スキルで動体視力上げてんじゃねぇだろうなァ!」
ネクロの配下の魔物たちはスキルを取得していると聞く。だったら、まともに使うなら110SPは必要な動体視力を上げるスキルを取得させている可能性もある。
「ッ!? お前、そのスキルッ!」
ゴブリンの剣が銀色のオーラを纏い、目にも留まらぬ十連発の斬撃を繰り出したのだ。
なんとか捌き切れたが、一歩間違えれば斬られていたかも知れない。
「……上級剣術だろ、それ」
正直言って、ちょっと寒気がした。何故ならそれは上位スキルと呼ばれるもの。
闇魔術の上位版が暗黒魔術であるように、剣術の上位版が上級剣術なのだ。
「……ん? 待て。ちょっと、待て」
気のせいだと、そう思ったが、違う。
「おいおい……嘘だろ」
起き上がっている。最初に連続で斬り捨てた筈のゴブリン達が、次々と無傷の状態で起き上がり、獲物を探して目をギョロつかせている。
「馬鹿な……ありえねぇ。どいつもこいつも、浅い傷じゃなかった筈だぞ」
目の前の剣術ゴブリンから目を離さないままで呟くと、そのゴブリンは笑った。
「グギャギャ! トウゼン、ダ。オレハ、テキヲコロス。アイツラハ、テキヲボウガイスル。タテニナル。ヤクガ、チガウ」
なんだ、こいつ。
「おま、え……喋れるのか?」
「? アァ。ニンゲンノコトバ、シッテイタホウガ、ベンリダ。ダカラ、マザー、オシエタ」
マザー……? いや、それよりも!
「アイツらは、なんで死んでねぇんだよ。いや、死んでねぇのは良い。だが、動けるようになるには早すぎる」
「オマエ、バカカ? オレ、イッタゾ。アイツラハ、タテ。ダカラ、シナナイヨウニ、サイセイスル。カタクナル。シニヅライ」
盾、再生、死にづらい。理解したくないことを、俺はようやく理解してしまった。
「んじゃあ……アイツらは、首を切り落とさなきゃ死なねぇって言うのかよ」
「シラン。クビキッテモ、シヌカ、シラン」
あぁ、本気かよ。クソ。
「シャベリ、オワリダ。デモ、ヨカッタ。オマエカラモ、ヒトツマナベタ」
「……なんだよ」
いつ飛びかかってくるかと警戒しながら、俺は聞いた。
「────ニンゲン。オレヨリモ、バカデヨワイ」
瞬間、俺の頭部に凄まじい衝撃が伝わった。一瞬だけ視界に映った情報から判断するに、上から落ちてきたゴブリンに、石を叩きつけられたようだ。
「うがッ?!」
思わずよろめき、重心が前に傾き、つんのめる。
「なッ、やめッ、やめろッ!」
生じた隙を逃さず、四肢に絡みついたゴブリン達。そして、無防備になった俺に剣術ゴブリンがゆっくりと近付いてくる。
「グギャギャ……ダカラ、ラクショウ」
ズンバラリ。振り下ろされた剣は、赤い威圧感のあるオーラを纏い、俺を袈裟懸けに斬り裂いた。
「ク、ソ……俺は、負けて、ねぇ。ゴブリン、なんか、に……おれ、は……」
ゴトッ、俺の上半身が滑って地面に落ちる。そこから意識が消えるまでのほんの一瞬、俺の視界に映ったのは、俺と同じように蹂躙されている仲間達の姿だった。
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