赤き竜
海に囲まれし島、その高き山脈の頂上にて赤き竜が真の力を露わにした。
「……これは、凄いね」
存在だけで伝わってくる凄まじいプレッシャーだ。そしてよく見ると、竜の周りが陽炎のようにゆらめいている。
『幼竜では使えぬ者も多かろうがな。我ほどの竜になれば……
「竜気……ね」
聞いたことがある。確か、竜の爪牙を纏う特有の魔力……その正体だ。
『さぁ、話は終わりだ……命乞いの準備は出来たか?』
「逆に聞くけど、命乞いしたら見逃してくれるの?」
命乞い程度で見逃したりする訳ないと思うんだけど。
『クハハッ、なわけなかろう。だが、命乞いをすれば一分だけ逃げるチャンスを与えてやってもいいぞ?』
うん、だよね。
「なァ、ネクロ。オレの為にドラゴンを用意してくれてありがとなァ。ホントに感謝してるぜェ……だけどよォ、そろそろ我慢できねぇんだわ」
「え、何が?」
僕の一歩前にエクスが出てきた。
「ウズウズしてんだよ……あのトカゲ野郎と戦いたくて堪らねぇッ、そう言ってんだッ!」
「あぁ、なるほどね。でも、流石に一人で突っ込むのは無謀だからね」
「あァ? 知らねえよ。オレなら余裕だァ」
ちょっと脳筋すぎないかなぁ、この子。
「じゃあ、ちょっと一回見てみてよ。それで分かるから」
「あ゛? 何をだよ?」
僕の肩をガシッと掴むエクス。鋭い爪が肩に食い込んでいく。確実にダメージを負っているが、必要経費だ。
『おい、命乞いをすれば一分だけチャンスをやると言っておるのだ』
「あはは、まさかぁ」
『……まさかぁ?』
首を傾げる赤竜を無視し、僕はウィスプ達を見た。
「ムーン。他のウィスプ達と一緒に全力で魔法攻撃」
「了解致しました、ネクロ様」
『おい、何を話している?』
竜が聞いた瞬間、僕の後方から凄まじい量の魔術が放たれ始めた。
『ぬッ、命乞いをする気は無いかッ!』
「ある訳ないじゃん」
火、水、風、土、光、闇……色とりどりの魔術が雨のように竜を襲う。
『クハハハハハッ!! 効かんッ、全く効かんぞッ!! さぁ、命乞いをせよッ!!』
しかし、無数の魔術は竜の鱗に当たって霧散していく。竜気と鱗の持つ耐性に殆どの魔術は無効化されてしまったようだ。唯一、空間魔術の刃だけは少しの傷を付けていた。
ていうか、どんだけ命乞いさせたいんだよ。
「ほら、あれだけの攻撃でも効かないんだよ。一人で行くのは無茶だって」
「ハハハッ、そうだなァ! でも知るかよッ!!」
更に一歩前に出たエクスは、自身の胸に手を当てた。
「『
人狼の体を氷が、炎が覆っていく。完全な戦闘形態だ。
「じゃあ、悪いが俺は先に行くぜッ!」
「ちょ、待ってよ」
うわ、本当に一人で行くじゃん……まぁ、エクスなら三回は復活できるし大丈夫かな。
「んー、まぁどうせそろそろ動く必要はあるし、丁度良いや。みんなも行くよ」
全員に行動を促すと同時に、先行したエクスが、赤竜に真正面から飛びかかる。
「オラァ、最初っから全力で行くぜェッ!!」
『ぬぅ? なんだ、貴様は……獣風情が我に敵うとでも思っているのか?』
単騎で突撃するエクスに首を傾げた竜は、面倒臭そうに腕を振り上げ、目の前の人狼に岩すら容易く砕ける爪を振り下ろした。
「甘ェんだよッ! 力が強くて速えだけッ! 獣風情はどっちの方だよトカゲ野郎ッ!!」
しかし、エクスは振り下ろされる爪を容易く回避し、そのまま竜の懐まで潜り込んだ。
「お返しだぜッ!!」
『ぬぅッ!?』
竜の顎にエクスの燃え盛る氷の爪がぶち当たり、竜の頭が浮き上がった。
「一発で済むと思ったかァ? オラッ、オラッ! オラァッ!!」
エクスの鉤爪が振るわれる度に、竜の体を氷が覆い、炎が蝕んでいく。
『ぬぅううううううッ!! 鬱陶しいぞッ、貴様ァッ!!』
熱気が溢れる。竜気が溢れる。
「クソッ、体が……ッ!」
竜気に当てられ、体が思うように動かないのかエクスが顔を顰めながら後ろに飛んだ。
「……ネクロ、これ以上はオレ一人じゃ無理っぽいわ」
エクスは僕の横まで来ると、苦々しげに呟いた。
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