ドラゴンハント

 僕の力によって、ウィスプ達が呼び出され、彼らの能力によって開かれた門から魔物が溢れていく。しかし、その気配に気が付いたのか四つ足に一対の翼を持った巨体の竜が振り向いた。


「……気付かれたね」


 その大きさは僕どころかロアですら丸呑み出来そうな程だ。このゲームのドラゴンについてはネットで調べた以上の情報を持っていないが、確実に言えることはこの個体は成体で、その中でも大きい方の個体であるということだ。


『慣れない気配が後ろからしていると思えば……餌が自ら食われに来たか? もしや、我を狩ろうという気ではないだろうな?』


 明らかに嘲るような声で言ったのは、目の前の赤き竜だ。


「それはまだ分からないね。君がこの山の頂上を譲ってくれるなら、君を狩る必要は無くなるけど?」


『……貴様』


 瞬間、竜から何かが溢れた。それは怒気とでも言えば良いのだろうか。だが、確実なことは僕を見る視線が忌々しい怨敵を見るそれに変わったことだ。


『貴様、どこで知った?』


 え、なにが? 何の話?


「あはは、ごめん。僕には何の話か分かんないや」


『貴様ァ……ッ! 白々しいぞッ、このクズめッ!』


 いやいや、本当に何の話?


「エトナ、なんかあのドラゴン怒っちゃったんだけど」


「大丈夫ですよ、ネクロさん。どうせ、戦うことにはなってたと思いますから」


 まぁ、それもそうか。大抵の竜からすれば人などは餌でしか無い。捕食者と被捕食者、その関係に感情など関係はないのだ。


『貴様、魔物使いか。フッ、愚かだな。数を集めたところで我を下すことは出来んと何故分からん? まぁ良い……本気のブレスを見せてやろう。一息で全てを吹き飛ばしてやるわ』


 巨体の赤竜が、ゆっくりと大きな口を開いた。竜のブレスは強力だが、放つまでに時間がかかる。本気ということはその分溜めも長く、最低でも十秒はかかると見ていいだろう。


「さて、こっちも大体呼び出し終わったかな」


 後ろを向くと、グランやミュウにグラなど見慣れた魔物達に加え、ウカ山やボルド山などから呼び出されたゴブリンのアンデッド達も揃っていた。珍しくムーンも居る。

 因みに、凍てつく骸骨の王フロストスケルトン・キングのクレスや永久焦土の人狼ハートウルフのエクスも今到着したようだ。


「ネクロさん、どうしますか? 竜のブレスは流石に不味いと思いますけど……」


 エトナが少し不安そうに僕を見るが、僕は笑って首を振った。


「いやいや、余裕だよ。レッドドラゴンのブレスは炎。つまり、火属性だ」


「えっと、はい。そうですね?」


 だったら、話は簡単だ。


「ムーン、他のウィスプ達と一緒に壁になって」


「ちょ、ネクロさん?!」


 あっさりと仲間を犠牲にするかの如き発言に、エトナは目を剥いた。


「あら、ネクロ様。久しぶりに会って早々、壁になれだなんて酷いと思いませんか?」


「あはは、ごめんね。でも、これが一番効果的だからさ」


 ムーンは正しく僕の言葉を理解しているようだった。軽口を言いながらも、他のウィスプ達と纏まっていき、僕らを守る青白い炎の壁が出来上がっていく。


『ガァァァァァッッ!!!』


 約十秒だ。遂に、赤い竜の口から凄まじい勢いで炎のブレスが迸った。


「……なるほど、そういうことだったんですか。いや、分かってましたけどね?」


 大地を焼き、大気を焦がす炎のブレスが猛烈な勢いで僕たちに迫ってくる。しかし、それが僕らまで届くことは無かった。


「ふぅ……大丈夫だとは分かってたけど、流石にヒヤッとしたね」


 ブレスは、青白い障壁……ウィスプの群れに阻まれて消えていった。


『フッ、カスが燃えて燃えカスになったか? ……馬鹿なッ!? 貴様ら、どうやって我がブレスを凌いだッ!? 何だッ、その青白い壁はッ!!』


 ブレスを吐き終え、満足げに僕らを見た赤竜だったが、完全に無傷の僕らを見て目を剥いた。


「あはは、見て分からない? ウィスプって言うんだけど、知らないかな?」


 壁になっていたウィスプが解散し、個々に戻っていく。そこで漸くこの壁がウィスプであったことに赤竜は気付いたようだ。


『知っているに決まっておろうがッ! しかし、そうか。確かに火を食らうウィスプであれば我がブレスも防げよう。……だが、浅知恵だな。幾らウィスプであろうと我が爪牙は防げん。巨人や人狼まで集めて来たようだが、貴様らも同じことだ』


 嘲笑うように僕を見る赤竜。


「まぁ、確かに物理無効のウィスプでも特有の魔力を纏った竜の爪は防げないよ。だけど、正直……竜一匹相手に近接戦で負ける気はしないかな」


『……何だと、貴様』


 僕を睨みつける赤竜。結構高い自信のある僕のMNDだが、竜の威圧はそれを容易く貫通し、僕の肝を震わせる。


「僕が竜を相手にする上で脅威に感じてるのは飛ぶことだけなんだよね。だから、爪と牙で戦う……つまり、僕らの場所まで降りて来て戦う分には何も脅威を感じないかな。まぁ、この面子なら飛ばれても成層圏まで行かれなければ最悪なんとか出来ると思ってるけど」


 確かに怖いし、体は震えてる。だけど、それだけだ。エトナにやられたとき程じゃない。


『……そうかそうか。貴様、竜というものを舐めているんだな? ならば、見せてやろう』


 竜が息を大きく吸って、吐いた。



『────竜の本気というモノをな』



 瞬間、熱気と威圧感が頂上に溢れた。

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