※アボン荒野の三銃士【4】

 ボトリ、切り裂かれた翼が地面に落ち、鵐螺菩のノコギリ鉈から血が滴る。


血器変形ブラッドフォルム


 鵐螺菩がノコギリ鉈を横に振るうと、ガチャリと音を立てて武器は変形し、ノコギリ鉈は元の形よりも長く伸びた。そのギザギザとした刃は深紅に染まり、不規則に生えた棘が不気味に脈動している。


「削り取ってやる」


 その悪趣味な武器を振り上げた鵐螺菩は、翼を失ったことで再度地面に墜落した禿鷲に言い放ち、それを振り下ろそうとした。


「キェェェ……ッ!!」


「……重力か。小賢しい獣が」


「キェッ!?」


 奇妙な武器を振り下ろそうとしていた鵐螺菩は、バランスを崩したようにその場に膝を突いた。しかし、その状態から短銃を撃ち放った。

 ……だが、あいつを狙えるのは鵐螺菩だけじゃない。


「喰らえッ、太陽剣サンライトソードッ!!」


 まるで太陽のように橙色に光り輝く大剣。

 上級騎士でも使える数少ないアンデッド対策の技。仰々しく振り上げ、振り下ろすこの動作は常用するには鈍すぎるが、翼を失って動けない鳥を相手にする分には十分だ。


「キシキシ」


「クソッ、邪魔くせえッ!!」


 大剣と禿鷲の間に割り込んで来たのは、結晶の像と化した大蠍だ。思い切り振り下ろした渾身の一撃だったが、俺の大剣は蠍の鋏に僅かに亀裂を入れたのみだった。


「ィィィッ!」


「無心流・雲千斬りクモチギリ


 と、大蠍と斬り合っている俺に飛んで来た水の刃を狭鬼爐が防いだ。雲千斬りクモチギリ……確か、魔力を捉えて斬り裂く技だと言っていた気がする。


「キッ、キェェ……キェェ……」


 弱々しい鳴き声を上げながら逃げていく岩禿鷲ロックバルチャー。しかし、それを許さないのは血の狩人ブラッドハンターの鵐螺菩だ。


「逃がさん」


 小跳躍ショートジャンプで飛び上がり、少し離れた場所まで逃げていた禿鷲の元まで一瞬で辿り着いた鵐螺菩は、無駄な動作も無くノコギリ鉈を振り上げた。


「死ね」


 無慈悲に振り下ろされる深紅の刃。それは、禿鷲の首筋に的確に向かっていく。


「キッ、キェェッ!」


 カチン、刃が弾かれる音。禿鷲の首が綺麗な水色の結晶で覆われている。


「だから、何だ」


 しかし、重力魔術を何度も行使し、突撃の度に頭を結晶化していた禿鷲。もう、魔力は残り少ない筈だ。他の二匹が助けに来るのを待っているのかも知れないが……それは、俺たちがさせない。


「キシッ、キシキシッ!」


「させねぇッ!」


 大蠍の鋏の先に作り出された結晶の塊。鵐螺菩に向かって放たれたそれを、俺は大剣の腹で受けた。凄まじい衝撃が伝わってくるが、ダメージは無い。


「ィィィィィッ!!」


「無心流・雲千斬り」


 水の刃を鵐螺菩に発射するミミズ。しかし、その刃は狭鬼爐によって霧と散った。


「……どうした、もう結晶は使えないのか?」


 視界の端で、何度も何度もノコギリ鉈を振り下ろしている鵐螺菩。その度にピンポイントで体を結晶化させて耐えていた禿鷲だが、どうやら限界が来たらしい。


「……終わりか」


 フッと息を吐き、鵐螺菩が最後の一撃を振り下ろした。



「────ぐはッ!?」



 筈だった。


「ッ!? なんだ、これ……触手、か?」


 鵐螺菩を吹き飛ばしたそれは、地面からうねうねと生えている砂を纏った触手だった。色は砂にまみれて見えづらいが、青紫色っぽく見える。


解析スキャン


 分からない、正体不明。そういうものは、取り敢えず解析スキャンだ。そして、その結果は……は? なんだこれ。


「……暗青の巨蛸ディープブルー・クラーケン・ゾンビ」


 クラーケン? クラーケンって、あの、海のデカい化け物だよな? しかも、ゾンビ? 他にも気になることが色々とあるが……分からん。


「待て、待て待て待て……なんだ、何だそれ。どういうことだ?」


 混乱する脳内。どうにか、結論を導き出そうとする俺の前に、ゆらりと触手が現れた。


「……ぶ、鵐螺菩ッ! 狭鬼爐ッ! 一旦集合だッ!」


 地面から生えてきた触手が、俺を薙ぎ倒そうと振るわれたが、それを予期していた俺は跳躍ジャンプのスキルで回避した。


「……堕苦蘇。この状況、分かるか?」


 眉を顰めて尋ねる鵐螺菩。当然、俺は首を振った。


「分からん。ただ、二人とも……取り敢えず、解析スキャンしてみろ」


 解析スキャンに映った情報は、単に種族の情報だけではない。


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 暗青の巨蛸ディープブルー・クラーケン・ゾンビ (ウルカ) Lv.58


 ■状態

【従魔:ネクロ】


 《閲覧権限がありません》


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 ……これだ。


「クラーケン? ゾンビ? しかも、従魔だと?」


「……奴らと同じ主か」


 狭鬼爐の言葉で、俺は気付いた。


「そうだ。こいつ、あいつらと同じ奴が主だ。ネクロって奴だ。てことは、つまり……アイツらは、仲間同士って訳だよな?」


 三対三から、三対四に。最悪な展開に、俺は吐き気を催した。

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