※アボン荒野の三銃士【2】
その青く透き通った結晶の蠍へ与えられたダメージは、ただ頭部に罅が入っただけだった。しかも、その罅すらも既に再生している。
有り得ねぇ、欠損すらねぇ。
最低でも、体の一部を砕けるとは思ってたんだが……キッツイな、おい。
「
クソ、アイツら全員アンデッドだからな。聖職者系の仲間でも居れば良かったんだが。
「……待て」
仕方なくあの鬱陶しい鳥か蚯蚓のどっちかを潰そうと考え始めたところ、それを制する男が居た。狭鬼爐だ。
「俺の剣なら、斬れる。奴らが不死である限り」
「あぁ、そうだったな!」
狭鬼爐の持つ剣には『不死斬り』が
単にアンデッドに対するダメージを高める『不死特攻』よりも全体的に見れば優秀だが、斬撃以外によるダメージに効果は乗らないので注意すべきだろう。
「だが、狭鬼爐。堕苦蘇の
「確かにそうだな……じゃあ、再生阻害目的で大蠍を適度に殴りつつ、本命は鳥と蚯蚓って感じで行くか」
これなら、大蠍をじわじわと削りつつあの動きを捉えるのが困難な鳥と蚯蚓を追い詰められる。俺の考えに二人も頷いている。
「キシキシ」
話している間に、大蠍がまたカサカサと近付いてきた。
「頼めるか? 狭鬼爐」
「……」
狭鬼爐は無言で大蠍の前に出る。了承した、ということだろう。
「鵐螺菩、蠍の相手はアイツに任せて、俺たちは鳥と蚯蚓に対応しよう」
「分かった」
あの蠍に傷を付ける手段が無い以上、俺たちが蠍と戦う意味は無いとはいえ、奴らが襲ってくるまでは暇だ。少し、蠍と狭鬼爐の戦いを観察しよう。
「あの蠍、警戒してんな」
狭鬼爐の薄っすらと紫色のオーラを漂わせる刀を見て、即座に蠍は全身を結晶化させた。しかし、逃げ出すことはなく、大蠍はジリジリと狭鬼爐に近寄っていく。
「……
距離が限界まで近付き、大蠍の鋏が振り上げられた瞬間。狭鬼爐の体は黒く染まり、陽炎のように揺らめいて消えた。
「キシキシ?」
辺りを見回す大蠍。その背後の空間が不自然に揺らめき、そこから狭鬼爐が現れる。
「無心流・焔斬……改め、紫焔斬」
上から下に、真っ直ぐ振り下ろされる刀。まるで妖気のように刀から漂う薄い紫色のオーラは、技の効果で刃から噴き出る炎と混じり、紫色の妖しい炎と化した。
「キシキシッ!?」
紫の炎を纏う刃は、大蠍の尻尾に直撃し、見事に切り落とした。大蠍は結晶化を解除しながら後ろに慌てて下がっていく。当然、狭鬼爐はそれを追撃しようと足を踏み出した。
「……ッ!?」
が、それから直ぐに狭鬼爐は不自然に膝を突いた。必死に立ち上がろうとする狭鬼爐だが、そこに迫るは二つの影。
「キェェェェッッ!!!
「ィィィィィッッ!!!」
それは、怒りの叫びを上げる二匹の魔物……
鳥は凄まじい速度で狭鬼爐に突撃し、蚯蚓はその鳥に向かって何かをしている。鳥が青く光り出し、速度が上昇したところを見るにバフをかけたのだろう。
「クソッ、やらせねぇッ!!」
凄まじい速度の禿鷲。しかし、奴よりも狭鬼爐の近くにいた俺ならギリギリ間に合うはずだ。そう思い、全力で足を踏み出したのだが……重いッ!?
「クソッ、何だこれッ! 重いッ、体がッ!!」
あの禿鷲が走り出した俺を睨んだ瞬間、俺の体に凄まじい重圧がかかった。もしかして、狭鬼爐もこれを喰らったのか? 畜生、クソ鳥がッ!
「喰らえ」
隣で短く言い放ち、短銃を撃ったのは鵐螺菩だ。鵐螺菩の放った銀色の弾丸は、回転しながら禿鷲に迫り……的確に眼球を撃ち抜いた。
「キェェッ!!!」
だが、片目を弾丸に貫かれた禿鷲はそれでも怯まずに突っ込んでくる。しかし、その間に狭鬼爐は立ち上がっており、突撃を避けようとしていたが……蚯蚓が何かを叫ぶと、狭鬼爐の影から闇色の腕が無数に伸びて狭鬼爐を無茶苦茶に拘束した。
「せッ、狭鬼爐ッ!!」
やっと重圧から解放された俺は立ち上がって叫ぶが、願いは通じない。狭鬼爐の腹部に
「おいッ、狭鬼爐! 大丈夫か!?」
数十メートルも吹き飛ばされ、遠目からでも腹部がぐちゃぐちゃになっていることが分かる狭鬼爐。俺は急いで駆け寄ってやりたかったが、目の前の魔物たちに隙を晒す訳にもいかないので、俺は奴らを睨みつけ、大剣を強く握った。
まぁ、それに……そもそも、狭鬼爐に関しては心配する必要もあまり無いかも知れない。
「……大丈夫、だ」
ほらな。俺の後ろまで既に歩いてきていた狭鬼爐。彼の滅茶苦茶にされていた腹部は嘘のように塞がり、平気そうに歩いている。
「忍法、起死回生の術……どう考えても、身代わりの術を選んでいた方が良かったな」
珍しく表情を歪めて言う狭鬼爐。そういえば、前にも言ってたな。
HPを犠牲にして攻撃を完全回避する身代わりの術と、HPが0になった時に一度だけ全回復できる起死回生の術で比べると、明らかに身代わりの術の方が使い勝手が良いって。
まぁ、身代わりの術は敵の攻撃に合わせる必要があるが、起死回生の術は自動で発動するらしいので、それぞれ長所と短所はあるだろうけどな。
「つーか、今更だが忍者の技って選択制なのか? 選ぶって言ってたが」
「……一部の忍法は二択から選ぶ必要がある。下級の忍法は全て取得できるが」
あー、強力なのは二つから一つ選ぶ必要があるのか。
「ィィィ……」
「キシキシ」
と、そうしている間に大蚯蚓が大蠍に何かの術をかけていることに気付いた。
「あ? お前ら、何を……嘘だろ」
大蚯蚓の力によって、大蠍の体を緑色の光が覆った。すると、光は大蠍の後部に集まっていき……尻尾がほんの僅かに、少しずつ再生し始めた。
「まさか、回復魔術? ……このミミズ、強化だけじゃなくて回復まで使えんのか?」
「……そうみたいだな。最悪の事態だ」
クソ、厄介すぎんだろ。幾ら不死斬りの効果で再生が阻害されると言えど、奴自身の再生力と回復魔術を合わせたら流石に回復が勝つ。
となれば……あいつから仕留めなきゃいけねぇな。
「
俺の手の平から魔法陣が花開き、昔に何となく取得しただけの光魔術が蚯蚓に向けて発射された。
「ィィィッ!」
しかし、風魔術ほどの速さはない光の槍は、土の中に潜るだけで簡単に回避されてしまった。
「やっぱダメか。……鵐螺菩、狭鬼爐。あのクソミミズからやるぞ。じゃないと、こっちがジリ貧になって負ける」
俺は指示を出しながらも、あの蚯蚓の倒し方について考えていた。
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