※樹海を守ろう!【2】

 ♦︎……???視点




 俺はブリッツ、最近ネット配信に手を出し始めた槍使いだ。冒険者としてこの世界にのめり込んでいて、巷では『荒槍』のブリッツだとか呼ばれてる。まぁ、A級冒険者ってこともあって結構有名だ。

 一応、『瞬息万変』っていうパーティをまとめるリーダーでもある。そして、そんな俺だがネット界隈でもそこそこ有名だ。理由は当然、数あるCOO配信者の中では上位何割かには入るくらい実力が高いからだ。


「……ッ!」


 そんな俺だが、現在最大のピンチにしてチャンスに見舞われている。どんな状況かを簡単に説明すると、緑色のクソデカい蛇と交戦状態に入った。どのくらいデカいかっていうと、多分五十メートルは軽く超えてるレベルだ。


「全員戦闘態勢ッ! シニョン、敵はあいつだけか?!」


 俺の言葉で惚けていたパーティメンバー達が気を持ち直し、それぞれの得物を構える。


「いや……沢山だ。奥の方を見ろ。バケモノみたいな熊と鳥に、狼の群れ。全部緑色で見たこともない魔物だ。他にもこの森の中から続々と気配が近付いてきてる。時間が経つに連れて不利になるぞ」


 いつも通りの冷静さで忍び寄る偵察者ステルススカウトのシニョンが報告を終える。が、その内容はこっちにとって喜ぶべきものでは無かった。


「チッ、やべえな……しゃあねぇな。配信してる以上無様な所は見せらんねぇ、だからやるしかねぇぞッ!!」


 俺の言葉にメンバーがおおッ! と声を上げる。気合いは入った。後は戦うだけだろう。


「……ブリッツ、最後に報告しとく」


 シニョンが俺の耳に片目に眼帯の付いた顔を近付け、小さな声で囁き始めた。


「あの帝国人が言ってた通り、あの蛇はネクロの従魔だ。だから、何かしら普通じゃない能力を持っていると考えた方が良い」


「そうか……分かった。だが、今はとりあえずやることをやるしかねぇ」


 俺はシニョンの言葉を頭に入れつつ、槍の穂先を大蛇の頭に向けた。最終確認で周囲を見回す。

 シニョンはチャクラムを、魔剣士のべニールは剣を、魔呪師ウォーロックのヤミにゃんこは杖を、高位魔術士ハイ・ウィザード蘭乱馬茸らんらんばたけも杖を、高位神官ハイ・プリーストのホワイティはメイスを、聖騎士パラディンのペキンは大盾と剣を構えている。

 完璧な布陣、生存力を高めやすいジョブが集まっている安定感のあるパーティだ。その様子に俺は安心し、槍を握る力を落ち着けた。


「すぅ……行くぞッ!!!」


 大きく息を吸い、号令にして吐き出した。


「ハァッ! 『荒れ狂え風よッ、吹き荒べ嵐よッ! 我が槍求むは蹂躙ッ、絶対なる蹂躙ッ! 来たれッ、荒嵐無双コウランムソウッ!!』」


 嵐槍士ストームランサーのジョブスキルを発動すると、俺の槍に嵐のように凄まじい緑色の風が纏わりつき、台風のように荒れ狂い始める。


「喰らえッ、疾風突撃ゲイルスラストッ!」


 俺の体が風のように早くなり、大蛇の顔面を一撃で破壊する……筈だった。


「キシャッ!? ……キシャッ、キシャァアアアアッ!!!」


 俺の槍は確かに大蛇の鼻っ面に突き立てられた。が、その瞬間に大蛇の頭が薄い緑色に透き通った結晶のように変化し、槍は僅か数十センチ程突き刺さっただけで勢いを失った。

 しかし、大蛇からすればその程度にダメージを負うことも予想外だったようで、俺を恐ろしい形相で睨み付けると、威嚇するように大声で叫んだ。


「くッ、小跳躍ショートジャンプッ!」


 俺は槍を気合いで引き抜くと、直ぐにその場から飛び退いた。それと同時に周囲の状況を確認する。


「……不味いな」


 シニョンは狼の群れに絡まれて逃げるのが精一杯、べニールは木と同じくらいの異常な巨体の熊と一対一で戦闘中、ペキンは巨大な怪鳥と戦っており、ヤミにゃんこがそのフォローを行ない、ホワイティは全体の支援をしている。そして、蘭乱馬茸だけが唯一あの大蛇に攻撃を加えようとしている。


「蛇の相手が出来そうなのは俺と蘭乱馬茸だけか……いや、考え方を変えよう」


 俺が蛇の相手をしながら他の敵も狩っていく。これしかない。


「すまんがみんなッ、各々の判断で頼むッ!」


 俺はリーダーとしての役割を放棄し、完全に一人の戦士として槍を構えた。

 そして、腰を軽く落とし、しなるように体を動かしながら槍を突き上げた。


槍穿嵐翔撃ソウガランショウゲキッ!!」


 緑色の風を纏い、俺はバネのように体を跳ね上げながら薄緑の結晶と化した蛇の顔に槍を突き刺す。


「キシャァァッ!?」


 悲鳴をあげる大蛇、しかしその顔面に深い傷は無く、またもや槍が少し突き刺さっただけだ。


「飛べッ!!!」


 しかし、俺の狙いはそこでは無い。俺は突き刺した槍を棒高跳びの要領で利用して、大蛇の頭を超えて跳ね上がった。


「喰らえ……」


 俺は空中に舞い上がった後、高速で落下しながらも標的を視界に捉えていた。それは狼、緑色の鮮やかな体毛を持った狼の群れだ。


千嵐怒涛センランドトウッ!!」


 俺は地面に落ちながら、空中で何度も槍を振るう。スキルの効果である程度は空中でも無理が出来るんだ。そのお陰で、俺の嵐を纏った槍は数体の狼達の体を暴風でグチャグチャに引き裂き、そのうちの二体は槍で直接突かれて息絶えた。


「ブリッツ、来てくれたか」


「当たり前だ……こっから全員ッ、生きて帰るぞッ!!」


 俺は嵐を纏う槍を構え、気炎を吐き、まるで植物のような色合いの狼を睨んだ。

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