必須スキル

 とある森の奥地、木漏れ日に照らされながら僕たちは剣を持って向かい合っていた。


「良いか、ネクロ。先ず、基本の構えはこうだ。それと、向かい合っている状態の時はこう立っとくと良い。こうしとけば、大抵の攻撃はどっから来ても受けられる」


 そう言ってスラリと構えたチープの姿は、特に目立ったところも無く、やっぱりそんな感じに構えるんだなぁ……くらいの感想しか抱かなかった。


「良し、取り敢えず試しに打ち込んで来い。スキルさえ使わなければ何でもいいぞ」


 そう言われたので、僕は一先ず普通に斜め上から斜め下に剣を振り下ろした。所謂、袈裟斬りというやつだ。


「甘い」


 現実の僕が振るうよりも倍以上に速そうな斬撃は、チープが剣を軽く動かしただけで簡単に弾き返された。感覚で言えば、バインッと剣が撥ね飛ばされたような感じだ。


「凄い、速いね」


 僕が言うが、チープは首を振った。


「まぁ、お前よりは速く剣を動かしたつもりではあるが、速さはあんまり関係ねぇ。大切なのは角度とタイミング、そして力の入れ具合だ」


 おぉ、なんかそれっぽいこと言ってる。


「あー、ちょっとゆっくり斬りかかってこい。スローモーションでな」


 チープがそう言うので、僕は剣を斜め上からゆっくり振り下ろす。しかし、チープの剣がスッと吸い付くように僕の剣を止めた。


「こんな風に、刃と刃をピッタリくっつけるようにして相手の剣を受け止めるんだ。そして、そのまま……こうだ」


 更に、チープの剣は僕の剣をグッと押しやり、撥ね飛ばした。


「刃と刃が丁度くっついたタイミングで、思い切り力を入れるんだ。だが、ここで一つ大事なことを教えてやる」


 チープは僕の手を取り、また剣を振り下ろす構えに戻させると、自分の剣をそこに合わせた。丁度、打ち合う瞬間のようだ。


「こうやって、剣と剣がぶつかりあった瞬間、さっきも言ったように適切なタイミングで全力を注ぎ込むんだ。だが、やっちゃいけねぇことがある」


 チープは、言いながら僕の剣を思い切り押しやった。僕の剣は大きく弾かれてしまい、それと同時にさっきの勢いのまま振るわれたチープの剣が僕の頬を僅かに斬り裂いた。


「これだ、これがいけねぇ。相手の剣を迎撃する為に、相手の剣を弾き飛ばす。ここまでは良い。だが、その時に全力を込め続けると、さっきみたいに剣に振り回されちまう。つまり、適切なタイミングで勢いを弱めなきゃいけねぇ。じゃないと、相手が剣を弾かれて隙を晒すと同時にこっちも剣に振り回されて隙を晒しちまう。そうなっちまうと何の意味もねぇ」


 あぁ、成る程ね。相手の剣を弾く時に力を入れ続けると、そのまま勢い余って剣が勝手に振るわれてしまうってことだね。


「うん。大体分かるよ」


「お、流石に物分かりが早いな。それで、だったらどうするのかって言うところだが……まぁ、慣れだ。適切なタイミングで力を弱めるなんて技術は鍛錬によって得るしかないからな。そして、当然それは今日の訓練内容にも含まれてる」


 うん。まぁ、聞いてるだけで上達するなんて甘い話は無いよね。


「まぁ、今日の訓練は自衛に重きを置いてるからな。反撃はお前の従魔達が勝手にやってくれるだろうから、お前は自分の身を守って一瞬でも敵の攻撃を凌ぐ技術を身に付けて貰う」


 僕はうんうんと頷いた。確かに、自分で相手を斬るよりもロア達に斬って貰った方がずっと早い。


「ただ、訓練の前に……跳躍ジャンプ瞬歩ステップは持ってるか?」


「うん。どっちもスキルレベル1だけど持ってるよ」


 僕が言うと、チープは微妙そうな表情をした。


「どっちも良く使うから勝手にスキルレベルが上がりやすいスキルなんだが……さてはお前、普段から全然使ってないだろ」


 僕は頷いた。


「……はぁ、まぁ良い。どうプレイしようがお前の自由だからな。だが、これは教官としての指示だ。スキルレベルを2に上げてくれ。どっちもだ」


「おっけー、上げたよ」


 合わせて40SPの消費だ。


「次に、剣術は持ってるか? 流石に持ってるよな?」


 僕は首を振った。勿論、横にだ。


「一応、短剣術はスキルレベル2だよ」


「いや、短剣は敵の攻撃を防ぐのには向いてない。まぁ、考えれば分かるだろ? ちっちゃい盾よりでかい盾の方が攻撃を防ぎやすい。その分鈍重にはなるけどな」


 うん、確かにそうだね。


「だから、剣術を取れ。スキルレベル3までな」


「おっけー、取ったよ」


 合計60SPの消費だ。


「そういえば、守る専門なら盾術は駄目なの?」


 僕が聞いたが、チープは首を振った。


「駄目だ。実は、盾は初心者には扱いにくい。それに、盾を持つなら剣もいる。剣が強いのは、相手の攻撃を防げると同時に、俺はお前を攻撃するぞって言う威嚇みたいな効果もあるからだ。つまり、抑止力だな」


 僕が微妙な顔をしていると、チープは頭を掻いてから説明を続けた。


「あー、つまりだな。盾で防ぐだけしかしない相手に斬り込んでいくのに躊躇する必要は無いが、剣で反撃してくるかもしれないとなるとビビって攻めづらいだろ?」


「うん。それは確かにそうだね」


 なるほど。ただ防ぐだけが自衛って訳じゃないってことだね。攻撃は最大の防御って言葉もあるくらいだし、チープの言ってることは正しいかも知れない。


「良し、次に体術だ。体術を取得してくれ。スキルレベルは2で良い」


 体術をスキルレベル2まで、ね。


「はい、取ったよ」


 僕が言うと、チープは満足気に頷いた。


「一応取らせた理由を説明しとくが、体術に内包されたスキル自体は正直言ってそこまで強くない。だが、お前も短剣術とかを取った時のあの感じ、分かるだろ?」


 僕が首を傾げると、チープは説明を続けた。


「あれ、分かんなかったか? 例えば、剣術スキルを取った時には剣術を少し理解できるし、短剣術を取得した時には短剣の扱いを少し理解できる……っていう仕様。知らない?」


 あー、言われてみればそうかもね。


「確かに、武器として使ったこともないのに妙にナイフを使えてるなぁ、とは思ったけど」


 そう言うことだったんだね。


「おう、それだ。そして、体術も当然その効果がある。だから、取った方が良いんだ。体術はマジでどの場面でも生きるってくらい大事だからな」


 へぇ、COOって意外と必須スキル的なの多いんだね。


「まぁ、取り敢えずはこんくらいだな。じゃあ、今から本格的に稽古をつけるが……覚悟しとけよ?」


 ニヤッと笑うチープに僕は微笑み返し、チープを真似して剣を構えた。

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