開戦の準備
グラをエウルブ樹海に放した後、僕らが樹海の魔物をアンデッド化して周っていると、レーニャから『斧が出来ましたよ!』と連絡が来たので街に戻った。
僕の隣ではエトナとメトが並んで歩いている。
エトナは少し猫背になり、疲労を顔に出しながら歩いているが、メトはいつも通りの無表情で周囲を警戒しながら歩いていた。
「今日は結構歩きましたね……私、もうヘトヘトですよ」
「あはは、ごめんね。……明日はゆっくり休もうか」
あ、そういえば樹海の魔物を殺戮してるのをグラに知られたら怒られるかも知れない。今後はあの樹海での魔物の殺戮は控えることにしよう。
「そうですねー……私は冒険も好きですけど、街でゆっくりしてるのも好きですからね!」
エトナが胸を張って主張した。僕はエトナから目を逸らし、盾と剣の描かれた看板を指差した。
「ほら、もう着くよ」
店の名はドロウ・ドレシュ。獣人族のプレイヤーが店主を務める武具屋だ。僕は二人より早く店に入り、店主のレーニャに挨拶した。
「やぁ、早速受け取りに来たよ」
「あ、ネクロ様ですね!」
レーニャはカウンターの下から凄く重たそうな箱を何とか持ち上げ、大きな音を立ててカウンターに箱を置いた。心なしか、その重量からカウンターがミシミシと悲鳴をあげている気がする。
そして、レーニャは大きな木箱の蓋を開けた。
「えっと、こんな感じで、大丈夫ですか……?」
大きな木箱の中には、ずっしりと重そうな鈍色に光を反射する斧があった。斧には罅のように不規則な黒いラインが入っており、持ち手もそのラインと同じ黒色だ。大きさは元々ロアが持っていたものとあまり変わらない程度だろうか。
「うん、良い感じだね」
取り敢えず、見た目は悪くない。問題は性能だ。僕は斧を
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『黒罅の大斧』
【STR:200】
その圧倒的な重量は圧倒的な破壊力を齎す。重量が有りながらも硬く強靭で魔力を通しやすいグノリツィア合金をベースに、魔力回路としての役割を果たしつつも十分な耐久性のある黒芯鋼を持ち手にし、刃の部分にも通している。また、何故か重量を増加させる機能が付いている。
大抵の人間には扱えない一品だが、これを使えれば簡単に様々なものを破壊できるだろう。
[
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「うんうん……凄くいいと思うよ」
「ほ、本当ですか!? ……あ、効果を説明しますね」
レーニャは嬉しそうにしながら、自慢げに斧の説明を始めた。
「先ず、
そこまで言い切ると、レーニャは少し深呼吸をして、最後に斧の黒い罅のような模様をなぞりながら話し始めた。
「……そして、
滅茶苦茶強いじゃん。
「へぇ、何でみんなこの効果を付けてないんだろうね」
持ち続けるという条件はそこまで難しくない……どころか、簡単な筈なのに、こんな効果は見たことがない。単純に技術力の問題とかだろうか。
「えっと、この
あー、なるほどね。ステータス上昇量は重量依存なんだ。確かに、この斧で50%なら短剣とかだと5%も伸びないかもしれないね。
「……と言うわけで、ご満足頂けましたか?」
「あはは、それは勿論だよ。ていうか、寧ろこっちが十五万サク程度で良いのかって思ってきたんだけど」
正直、この性能なら三十万の
「確かに、使えたならこっちの方が強いですけど……別に、素材も特殊なものは使ってないですし、効果も
ん、待てよ。
「そういえば、僕は君を三時間も作業の時間で拘束してオーダーメイドの武器を作らせた訳だけど……その分の料金くらいは追加しても良いんじゃないの?」
今後も、オーダーメイドが普通の武器と変わらない価格設定で売るということはないだろう。
「……確かに、それはそうです」
レーニャはハッとしたような顔で僕を見た。
「じゃあ、どのくらい払えば良いかな?」
一応、剣と斧の代金である四十五万サクは既に払い終えているが、オーダーメイド料としてもう少し払っておくべきだろう。
「……えっと、一万サクくらいで」
いやいや、控えめすぎるでしょ。
「別に、僕はお金に困ってるわけじゃないからね? ……じゃあ、はい。これくらいが妥当だと思うよ」
そう言って僕は五万サクをカウンターの上に置いた。
「さ、三時間程度でそんなに受け取れませんよ……」
そう言いながらもレーニャの目線はチラチラと五万サクに向いている。
「良いから。剣と斧を貰えるかな?」
僕が催促すると、レーニャは少し迷った様子だったがカウンターの下から
「うん、ありがとね」
僕はその剣を受け取り、インベントリに収納した。次に、大斧をメトに箱から出してもらい、インベントリに収納した。
「じゃあ、また来ると思うから……またね」
「は、はい! お買い上げありがとうございました! あ、あと、オーダーメイド代も!」
レーニャはペコペコと頭を下げながら僕たちが出ていくのを見守っていた。
♦︎
数時間後、僕たちは霊園を訪れた。霊園の小屋の前には五つの影がある。墓守のアライと番犬のニーツ。レミックの手下であったアーテル。そして、僕とエトナとメトが居た。
そして、仲間にした樹海の魔物達は全て僕の
「……さて、戦力は十分集まったよ」
僕が言うと、アライとアーテルは顔を顰めた。
「その戦力とやらはどこに居るのでしょうか。私の目には一切映っていませんが」
冷たい声で言うアライに僕は思わず笑みをこぼしながらも弁解することにした。
「うん。確かに、今は誰の視界にも映ってないよ。……だけど、彼らは居るよ。僕の中に、沢山居る」
アライは未だに怪訝そうな顔をしている。
「だから、うん、そうだね……全部出すと霊園から溢れちゃうから、一部の子だけ紹介しようかな」
僕は
「先ずは……この子達かな」
僕が手を前に突き出すと、僕の目の前に何体もの魔物が現れた。
「な、何ですか……彼らは、ゴブリンですか?」
「あぁ。だが、当然ただのゴブリンでは無さそうだ……特に、あの黒いのはな」
アーテルは黒い外套を着た高身長のゴブリンを指さして言った。
そう、僕らの目の前にはゴブリンキングとゴブリンクイーン、ゴブリンジェネラル。そして、黒いゴブリンことハイゴブリンのネロがいた。
「まぁ、左からゴブリンキング、クイーン、ジェネラル……そして、ハイゴブリンね」
すると、アーテルは目を細めてネロを見た。
「ハイゴブリンか……この目で見るのは初めてだ」
「うん。因みにその子は空間魔術とか使えるよ。防御無視の斬撃と転移ね」
アーテルは僕の言葉に反応して僕を睨むように凝視し、何かを言おうとして口をパクパクさせている。まぁ、ある程度知識のある人なら空間魔術の強さは分かるだろう。それを使えるハイゴブリンの異常性も。
「じゃあ、次行くよ……この子がミュウで、この子がロアね」
僕はゴブリン達を戻し、代わりにミュウとロアを出した。
「……このスライム、最初とは全く雰囲気が違うぞ。それに、このオーガもさっきのハイゴブリンと同じくらい異常に見えるぞ」
「まぁ、ミュウは最初と比べてステータスが結構上がってるからね。あと、ロアは僕が最初にゾンビ化した従魔だから、結構育成期間も長くて強く育ってるよ」
アーテルは警戒した様子でロアを見つつも、少し慣れてきているようだった。
「じゃあ、最後ね。……これはまぁ、実質切り札と言ってもいいかな」
そう言いながら僕はロアとミュウを戻し、霊園の外に歩いていく。
「あ、あの、急にどこに行かれるのでしょうか?」
「霊園の外だよ。ここだとちょっと狭すぎるからね」
まだ完全に納得がいってない様子のアライを無視して僕は霊園の外に出た。他のみんなもちゃんと付いてきているみたいだ。
「じゃあ、行くよ。僕の取っておき……エウルブ樹海の守り神、
瞬間、僕らの視界を緑の巨体が埋め尽くした。
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