昼までの成果と武器屋

 あれから、僕は更に二つのゴブリンの巣を滅ぼし、合計で約1000体のゴブリンをアンデッド化した。そしてそのゴブリン達全員のSPを割り振り、ついでに樹海の魔物達も追加で五十体くらいアンデッド化した僕は、ゴブリンの巣穴で待機するよう全員に命令した。あと、巣穴は全員が入るには狭かったので更に掘り広げてもらっている。


 大体、現在の戦力を纏めてみると……


「ゴブリンキング三体、ゴブリンクイーン一体、ゴブリンジェネラル一体、ハイゴブリン一体、ホブゴブリン約五十体……くらいかな?」


 あとはゴブリンメイジとかゴブリンウォーリアーとかも含めてゴブリン千体だ。ただ、ゴブリンキング一体とゴブリンクイーンはゾンビ化ではなくテイムしてある。理由としては単純で、アンデッド化してしまうとゴブリンクイーンの持つ超繁殖能力が無駄になるからだ。


 なので、ゴブリンキングとゴブリンクイーンを番いとして一体ずつテイムした。彼らは今も掘り進められていく巣穴の最下層で子を産み続けているはずだ。


 因みに、ゴブリンクイーンとキングのテイムは彼らゴブリン達の繁栄を条件に結ばれた。




 そして現在、戦力を集めてある巣から離れた僕はエトナとメトを連れて街を歩いていた。目的はロアの斧と、ネロの剣。他にもめぼしいものがあれば買おうかな、と思っている。


「あ、ネクロさん。取り敢えずあの店入ってみましょうよ」


 エトナは武具屋の看板を指差して言った。看板には盾と剣が描かれており、真ん中には『ドロウ・ドレシュ』と太い文字で書かれている。


「うん、そうだね。入ってみよう」


 僕たちは店の中に足を踏み入れた。まぁ、気に入ったものが無くてもナイフくらいは買っていこうかな。


「いらっしゃいませ!」


 カウンターの向こうから元気な声をあげたのは赤い毛並みの猫耳を生やした女の子だ。店内は明るく、棚にも埃は溜まっておらず商品が乱雑に並べられることの多い武具屋にしては珍しく、棚が綺麗に整理されている。


「こんにちは。あったらでいいんだけど……でっかい斧とか無いかな? このくらいの」


 僕はそう言ってロアの斧のサイズを思い浮かべながら身振り手振りで示した。


「で、でっかい斧ですか……い、今は無いですけど! 時間をくれたら作りますよ!」


 赤毛の猫獣人は焦った様子で言った。


「うん、それってどのくらいかかる?」


「えっと……三時間、頂ければ作れます」


 三時間。そのくらいなら全然問題無い。


「じゃあ、頼もうかな……あ、一応言っておくと斧はオーガ用だからね。僕は魔物使いなんだけど、従魔の使ってた斧が壊れかけで困ってたんだ」


「あぁ、なるほど……オーガをテイムだなんて凄いですね!」


 猫獣人は目を輝かせて言った。


「あはは、どうかな。……まぁ、闘技大会にも出るから興味があったら見てよ。それで、料金とか素材とかはどうすれば良いかな?」


「あ、素材は希望があればそれを頂いて作りますけど……無ければこちらの素材で作りますよ。それと、料金は……あんなに大きいので、十五万サクくらいに、なりますけど……」


 声がどんどんと萎んでいった。十五万サクも必要なら断られると思ったのかも知れない。だけど、僕は数々のゴブリンの巣に蓄えられていたものを丸ごと掻っ攫ってきたので財力は十分にある。


「うん。それで大丈夫だよ」


「ほ、本当ですか! えっと、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」


 僕は短くネクロと告げた。


「はい、ネクロさんですね……あ、プレイッ、じゃなくて……次元の旅人だったんですね! 実は私もそうなんです!」


 猫獣人は名前を確認するために解析スキャンを使ったのか、僕がプレイヤーであることに気付いた。それにしても、獣人のプレイヤーで店を建てるなんて凄いね。結構険しい道のりだったと思うんだけど。


「へぇ、サーディアの大通りに店を建てられるなんて凄いね」


「え、えへへ……三日前にオープンしたばっかりなんですよ! あ、でも……建てるまでは良かったんですけど、獣人嫌いの人って意外と多いみたいで……あんまり、お客さんが来なくって……」


「あー、それはそうかもね」


 しかも、プレイヤーはプレイヤーでオススメの武具屋とかは大体ネットで調べたら出ちゃうから、こんなポッと出のどのサイトにも載っていないような武具屋には来ないのだろう。


「まぁ、武器が欲しくなったらまた来るよ。……あ、そうだった。剣も買いたかったんだけど。普通の、シンプルな剣ね。多少高くても良いから性能が良い奴が欲しいね」


「あ、ありがとうございます……えっと、一番高い剣で……これですかね? 値は張りますけど」


 猫獣人はカウンター側の壁にかかっている持ち手が青紫色の剣を手に取った。よく見ると、刀身も薄っすらと青紫色に染まっている。


吸魔剣マナ・スティーラーです。その名の通り、斬った相手の魔力を奪って自分のものにできます。それに、威力も折り紙つきです」


 そこまで言うなら、見てみようか。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


吸魔剣マナ・スティーラー


【STR:100】

 高い威力を持ちながらも、斬ったものから魔力を吸収するという強力な効果を持った剣。剣の形状も重量も普通なので扱いやすい。


 [魔力吸収マナドレイン:SLv.3、鋭利シャープネスのルーン:SLv.1、頑丈デューラボのルーン:SLv.1]


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ……うん、良いんじゃないかな。ネロは魔力消費が激しい空間魔法主体だから、MP吸収は結構必要な要素だと思うよ。


「いいね。買うよ」


「ほ、本当ですか! よ、良かったです。この子、ずっと売れないかと思ってました……」


 確かに、値段は結構するけどね。僕は特に返す言葉も無かったので微笑んでおいた。


「えっと、斧の代金十五万と、剣の代金三十万で合計四十五万サクになります」


「うん。これで良いかな?」


 僕は金貨を四十五枚カウンターに置いた。


「……はい。確かに四十五万サク、頂きました。剣の方はそのままお渡しできますけど……斧はどうします?」


「んー、三時間後に来るとかでも良いけど」


 僕はメニューで時間を確認しながら言った。今は三時過ぎくらいだ。


「えっと、受け取りまでの間だけフレンド登録をすれば、出来上がったと同時にメッセージが送れますけど……どうしますか?」


 あー、そういえばそんなやり方あったね。一時期話題になってたけど。


「うん。じゃあ、それで良いよ」


 えーっと、フレンド登録ってどうやるんだっけ……確か、先ずはフレンドを開いて……あれ、僕のフレンド……チープしかいないんだけど。


「あの、申請送りましたけど……届きましたか?」


「あ、うん。ごめん、届いてるよ。……はい、これで良いかな?」


 僕が軽く絶望している間に届いていた申請を受理し、僕のフレンド欄に二人目の名前が刻まれた。その名は『レーニャ』。レベルは37の生産職だ。


「はい、出来てます! じゃあ、えっと……多分、大体三時間後に完成すると思いますので……よろしくお願いします」


「うん。……あれ、そういえば、武器は君が作るの?」


「え? はい、そうですよ」


 ん? あれ、じゃあ接客はどうするんだろう。


「えっと、この店の従業員って君だけだよね?」


 カウンターの向こう側からは一切気配がしない。


「はい、そうですけど……?」


「だったら、武器とかを作ってる間、店はどうするの?」


 レーニャは難しい顔で顎に手を当てた。


「…………考えてなかったです」


 そもそも、ログインが不定期なプレイヤーがNPCに混ざって店を開くって結構難しいと思うんだよね。それをやるなら、自分が居なくても店が回るようにしないといけない。


「あはは……まぁ、従業員を雇うとか、考えといた方が良いかもね」


「はい……今日はもう、仕方ないので作ってる間は閉店します。というか、いつも店にいない時は閉めてるので」


 当たり前ですけど、とレーニャは付け加えた。


「まぁ、そんなところで僕はもう行くけど……二人は、何かいる?」


「んー、私は別に武器も防具も間に合ってますからね」


「私も、剣は使えないことも無いですが……やはり、最近は拳の方が合っている気がしています」


 そういえば、メトも最初は剣を使ってたよね。エトナと戦った時。


「じゃあ、僕たちはもう行くね?」


「はい、行ってらっしゃいませ? えへへ、ご利用ありがとうございました!」


 やけに嬉しそうな赤毛の猫獣人に見送られ、僕は店を後にした。

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