Chaos Odyssey Online 〜VRMMOで魔王と呼ばれています〜

暁月ライト

魔物使いとキャラメイク

 

 燦々と燃え盛る太陽が僕たちを照らしている。

 暑い夏の日差しが、鬱陶しい。


「なぁ、買ってくれよぉ。金は俺が出すからさぁ」


 ……ここ一ヶ月程度、そればかりを口にする友人安斎が鬱陶しい。


「だから買わないって言ってるだろ。僕の夏休みは僕の過ごしたいように過ごす。誰にも邪魔されたくないんだ」


 高校二年、夏休み。

 きっと、終業式である今日を彼が逃せば暫くは勧誘のチャンスは無くなる。

 故に今日は今までよりも熱烈に僕を仮想世界へと引き摺り込もうとしているのだろう。


「でもリア友とCOOやりてえんだよ……ネッ友だとやっぱり色々さ、融通効かないこととかあるじゃん? ライバルもいねえしよぉ」


 知らないよ。


「大体、僕以外に誘う人いないの?」


 これだけ断ってるんだ。そろそろ違う人を対象に変えてもいい頃だろう。


「……誘えるような友達いねえんだよ、悪いか?」


 何かの琴線に触れたのか、安斎から暗黒のオーラが漂い始めた。


「別に悪くはないよ、実際僕も同じようなもんだし」


 正直、僕にも友達と呼べる人は数えられる程しか居ない。


「まぁ、取り敢えず僕は帰るよ」


「あ、おい! ちょっと待てッ!」


 叫ぶ安斎を尻目に僕は自転車で全力疾走した。






 ♢




 無駄に全力で漕いだせいで汗がダラダラと垂れてくる。

 凄まじい熱気が僕を包み込み、かなりの不快感に襲われていた。


 こうなったのは安斎のせいだ、畜生め。


 そもそも、僕は単なるRPGよりも育成系のゲームを好む。

 そういうゲームは色々あるけど、どれも最高に面白かった。


 あ、そういえば帰り道にゲームショップがあったね。

 あそこの店主さんに聞いてみようかな。


 ……それに、少し涼みたいしね。




 ほら、見えてきた。あれが僕が懇意にしているゲームショップだ。


「こんにちは、お久しぶりです」


 嫌な音を立てるガラスのドアを開け、他に客がいないことを確認してから挨拶をした。


「お、久しぶりだね……どうしたの? そんなに汗かいて」


「まぁ、色々あって自転車で全力疾走してました」


 怪訝そうな目でこちらを見る女店主に弁解する様に話を切り出した。


「それより、育成系のVRゲーム出てませんかね?」


「……いつも同じことばっかり聞いてくるねぇ、君は」


 だって、育成系のVRゲームはやり尽くしてしまったからね。


「んー、出てないけど……あ、そうだ」


 思い出したかのように手をポンと叩くと、店主は店裏に引っ込んでいった。

 何かいい作品があるのだろうか。


「これだよ、最近話題の奴。知ってるでしょ? COO」


 COO、Chaos Odyssey Online。安斎に勧められた忌まわしきゲームだ。

 僕があんなに汗をかいたのは半分あのゲームの所為でもある。


「……知ってますよ」


「なんか嫌そうだね……だったらやめとくけど」


「いや、話は聞きますよ」


 正直、買うつもりはないけど。


「君向けに色々端折って言うとね、このゲームには魔物使いモンスターテイマーって役職があるのよ。結構な不遇職らしいけど」


 ……魔物使いモンスターテイマー、だと?


「ゲームとしてのクオリティも高いみたいだし、どう? いいと思うんだけど」


「買います」


 安斎の思惑通りになるのは癪だが、買わないという選択肢は僕には無かった。


「……さっきまで嫌そうだったけど、本当にいいのね?」


「買います」


 またもや怪訝そうな顔をした店主からCOOのソフトを貰い、代金を払って店を出た。

 その頃には既に汗は引き、体は少し冷えていた。






 ♢




 家に帰り着いた僕はただいま、とだけ言って一瞬で寝間着に着替えると、水を一杯だけ飲み、速攻でソフトを入れ替えてVRベッドに横になった。


 VRベッドの蓋を閉じ、電源を入れて目を閉じる。

 準備が完了したことを機械音声が告げるのを聞いて、僕は言った。



「I refuse reality」



 僕は現実での意識を失った。




 ♦︎




 目を覚ますと、そこは真っ白で暖かい光に満ちた謎の空間だった。

 周囲を確認したが、何も無い。そう思った瞬間、目の前にウィンドウが表示された。


『キャラクタークリエイトを開始します』


 なるほど、ここはキャラクリ用の空間なんだね。


 納得した僕はウィンドウの指示に従って自分のキャラを作り込んでいった。




 3時間ほど経ち、漸くステータスなどを含めたキャラクターが完成した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Race:人間ヒューマン Lv.1

Job:魔物使いモンスターテイマー Lv.1

Name:ネクロ

HP:10

MP:10

STR:5

VIT:5

INT:15

MND:5

AGI:5

SP:0

AP:0


■スキル

□パッシブ

【HP自動回復:SLv.1】

【MP自動回復:SLv.1】


□アクティブ

【闇魔術:SLv.1】

【死霊術:SLv.1】


□特殊スキル

魔物使いモンスターテイマー

次元の旅人プレイヤー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 とりあえず職業は予定通りの魔物使いモンスターテイマーSPスキルポイントは【HP自動回復】と【MP自動回復】に加えて【闇魔術】と【死霊術】を取得するのに使った。

 HPとMPの自動回復はスキルに関係なく元から備わっている機能だが、その回復量は本当に微々たるもので上の二つのスキルは必須だと書かれていた。闇魔術に関してはカッコよさそうだったから取得した。死霊術は死体のアンデッド化やアンデッドの召喚が出来るスキルだ。本体である僕の戦闘スタイルとしてネクロマンサーをやってみたかったから取得した。

 20もあったAPステータスのポイントに関してはINT魔法攻撃力を主体にポイントを振っておいた。

 プレイヤーネームはネクロマンサーに因んで『ネクロ』にした。


 それと、モンスターのテイムの仕方だが基本的には瀕死まで追い込んでからテイマーの固有スキル《使役テイム》を発動すればいいらしい。

 更に、使役できるモンスターの数について少し説明しておくと、使役できる数に関しては無限だが同時に召喚できる数は初期状態だと三体が上限らしい。


 まぁ、最初は仲間を三体同時に出せるだけでも強いと思うし、大丈夫だよね。

 更に言うなら、同時召喚数はこれから徐々に増えていくしね。


 ……さて、こんなところかな。


『準備が完了したらウィンドウをタップしてください』


 もうやることは全部やったので、ウィンドウに触れる。


『チュートリアルを開始しますか?』


 んー、チュートリアルはいいや。大体のことはネットで見てるし。

 というわけで『いいえ』の選択肢に触れた。


 触れた瞬間、僕は眩い光に包まれて意識を失った。




 ♢




 その光が止むと、そこは仄暗い闇の空間だった。

 しかし、ここはさっきの明るい空間と異なり、きちんと僕が作ったキャラの姿で僕はここに立っていた。声を出そうとすれば出せるし、体も動かせる。


「……なんだこれ」


 思わず口から漏れ出た言葉。誰かに向けて言ったものでは無い。


「ふふ、何だと思う?」


 だが、背後からそれに答える声が聞こえた。

 思わず振り返ると、そこには深い紫の髪と眼を持った女が立っていた。その女は長身でとても美しく、自信ありげな表情で僕を見つめている。

 単なるAIであることは分かっているのだが、思わず見惚れてしまいそうになる。


「実はな、この場所のことは私も余り分かってはいないんだ」


「君がいる空間なのに?」


「ああ、私はこの空間に追放されたからここにいるだけだ。それと、ここに他人を留めておくことは本来できない。今はかなり無理をして君と話していることになる。暫くすれば君はここから去ってしまうだろう。だから、出来るだけ話は手短に済ませたい」


 いや、追放って何? 何をしたらこんな暗黒空間に追放されるのかな?


「追放って言うのは?」


「申し訳無いが、それを話すと長くなる。勘弁してもらえるかな?」


 滅茶苦茶気になるんだけど……まぁ、いいや。


「良いよ。それで、僕にこの空間で何を伝えたいの?」


「冥界、その奥地にある祠へと向かって欲しい。直ぐには無理だと思うが、出来るだけ急いで欲しい。それと、《祈祷術》と言うスキルを取得してくれ。スキルレベルは三あれば充分だ」


 ……冥界? 祈祷術? ごめん、ちょっと何言ってるか分からない。


「えっと、取り敢えず……冥界ってどうやって行けばいいの?」


「ああ、すまない。説明し忘れていた。闇魔術のスキルレベルを上げていけば、いつか暗黒魔術という上位スキルを取得できる。そのスキルを所持した上で祈祷術を使えば冥界に行けるように手配できる」


 闇魔術なら既に取ってるし、スキルレベルを上げるだけだね。その上げるだけ、が大変なんだろうけどね。


「成る程ね、行き方は分かったよ。だけど……僕がそれをするメリットって何?」


「ふふふ、それは簡単なことだ。実は私は女神と言う奴でね、加護を与えられる。強力で便利な奴だよ。君がもし冥界の祠まで来てくれたら、君には強力な加護を与えよう」


 強力な加護、ね。


「……うん、分かったよ。行こう。どうせ目的なんて決まってなかったしね」


「本当か? それは有難い……実は頷いてくれたのは君を含めて数人しかいないんだ」


 僕を含めて数人。と言うことは話を持ちかけたのはもっといるってことかな。


「この話ってどれくらいの人にしたの? 結構言ってる?」


「それほど多くは無いが……三十人程度だね」


 三十人か……殆どのプレイヤーに言ってるって訳じゃ無いんだね。


「良し、質問はこれくらい……いや、最後に一つ聞きたいな」


「ん? どうした、もう時間は無いぞ。直ぐ終わるやつで頼む」


 そう言われて自分の体が徐々に消え始めていることに気づいた。


「大丈夫、直ぐ終わるよ……僕はネクロ、君は?」


 その質問を聞いて彼女は一瞬驚いたような表情になったが、直ぐに微笑んで答えた。


「私はラヴ、ラヴ・マーシー。不死と停滞を司る女神だ」


 その言葉が聞こえたのを最後に僕の意識は消滅した。

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