第2話


カリキュラムは、週一回。

あとは、ごく普通の日常だから、どうということもない。

恋愛も自由で、カップルになったら、申請して、組み替えてペアにしてもらえばいいのだから。



最初のカリキュラムは、遠足も兼ねて、

高尾山へ行った。

ペアで登って降りてくる迄が任務だ。

ケーブルカー、リフトは禁止。

登りは、舗装されていたが、かなりの急勾配できつかった。漆間君は、一人でスタスタ登って、先に行ってしまった。

歩幅が広いから、ついていくの無理だ。

一応カリキュラムなんだけど……

後から来た山本さんのペアの岸君が、

「大丈夫?一緒に行こう!」って声をかけてくれた。岸君の笑顔が向日葵のように見えた。

「うん、有難う!」

山頂に着くと、漆間君は座っていて

「遅すぎ!」と言った。

お昼は、自由だから、友達のゆいちゃんを探した。

一年生の時にカップルになり、彼氏の涼君も知ってるし。



下りは、舗装されていない、ぬめった坂道で、木が生い茂った中を

置いていかれない様に、頑張って下りていた。

30分程たった頃、前を歩いていた漆間君が

突然.

「うわっ、やばっ、」と言ったと思ったら、走って先に下りて行ってしまった。

ん?何?


後ろから下りてきた山本さんペアにまた会った 。

「ここ、スズメバチが飛んでるよ。気をつけて!」と岸君が教えてくれた。

スズメバチは漆間君の天敵か?

滑って転びそうになった時は、岸君が手を取って助けてくれた。

えっ!ちょっと恥ずかしい……

山本さんは、無言で淡々と歩いていた。

二人が一緒に下りてくれて、助かった。

私だけ一人って、なんか格好悪いから。



始業式からひと月がたち、

席替えだ。最初は名簿順だったが今度は

くじ引きで。

後ろの席は、岸君だった。

エムディアが好きという共通点もあることを知って、嬉しくなった。


漆間君は離れた席で、少しホッとした。

イケメン過ぎて、緊張して話せないし、

その上、いつもクールで無口だし。




体育祭までのカリキュラムの内容は

フォークダンスと二人三脚だった。

まだ、カリキュラムが始まって間もないのに

手を繋いだり、隣にくっついたり……

益々、緊張して、ガクガクする。

まだ、話す事も出来てないのに……


回数をこなすうち、回りのペアは

仲良くなっているようにみえた。

不思議な事に、生理的に無理だとか

どーしても相手と合わないから組み替えて欲しいという人も今のところいなかった。

AI のマッチング能力って凄いのかな。

でも、私は約300人の中で該当者無しって

一体何人いれば該当者見つかるの?



そんな時、

事件は起きた!

カップルの男子B男が、他のペアの女子C子と二股交際をしていることがA子(B男のカップル相手)の告発により発覚した。

カップルになった人は、他に好きな人ができた場合、別れたことを申請してからにしなければならない。


将来不倫することがないように、

厳罰が与えられた。

1年間、二年生のフロアのトイレ掃除。

トイレのマークのついたワッペンも制服に縫い付けられた。

カリキュラムのペアは解消され、

A子はC子の相手とペアになり、

B男とC子は、モラルとか、理性とか特別な座学カリキュラムに参加させられた。


陰では

『トイレ君』『トイレさん』とあだ名で呼ばれた。

次にでてきたら『トイレ君1号』とかになるのかな?



みんなは、事件の話題で盛り上がっていて、

それを話題にしてもいいのに、

どうしても意識し過ぎて、声が出せない。

漆間君に何か言われても「……」答えたられなかった。

どうしても意識し過ぎて、声が出せない。

段々、一緒にいる時間が苦痛になった。



そういえば、

同じ様なことがあったっけ……

一年生で早々にサッカー部の涼君とカップルになったゆいちゃんの計らいで、

憧れていたサッカー部の豊君と付き合えることになって、デートしたものの緊張の余り

一言も話せずにいたら、二回目のデートの後にあっさり振られてしまった。

ゆいちゃんは、「話さないからつまらない」んだって、と理由を教えてくれた。



まだ私の事、何もわかってもらってないのに、振るなんて……と思ってモヤモヤした苦い思い出。



また同じ事にならないようにしようと思って

次のカリキュラムでは、頑張って話すようにしてみた。

すると、漆間君は

「やっと話せるようになったのか、まだまだだな。そうだ!次回は、面白い話10個して!宿題だからな!」

「10個も無理なんだけど……」

「じゃあ、おまけして、子供の頃勘違いしてたことも入れていい」


なんだそれ?

でもまだ、断る勇気が出ない。

どーしよう?

仕方なく考えることにしたものの、

一つもないかも……

一週間考え続けた。


一週間後

美術館に行くカリキュラムの道中、

「さてと、宿題提出して」

「あ、うん……えーっとね

1、エレーベーターに一人で乗っていたら、あとから男の人が乗ってきて、そのうち何か様子が変になって。すごく怖くなって……

それから……

止まって良かったと思ったら、ドアが開く前にその人が近寄ってきたから、叫ぼうとしたら、言いにくそうに

「スカートのファスナー開いてますよ」って言われた」


「それ、あるあるだな。はい次」

2、「うん…中学の時、体育で巾跳びの授業があった時、近くで好きだった男子も体育の授業してたから、頑張ろうって思って跳んだら、

砂場に顔からダイブしちゃって、顔中砂だらけになって、みんなに大笑いされちゃた」


「うわ!!それ、恥ずかしすぎるでしょ。

ってか、さっきの話も今の話も、面白いって言うより恥ずかしかった話じゃないの?

お前面白いな」


「あっ、そうかも。……もうないから、子供の頃の勘違いとかにするね。

3、キノコは木の子供だと思ってて、

4、きな粉は木の粉だと思ってて、

5、くず餅のくずはゴミとかのくずを集めて作ったと思ってて、

6、アジの開きは、あの形の魚がいると思ってて、

7、イカの塩辛はナメクジで出来てると思ってて

8、墨汁は、タコとイカの墨で作られてると思ってて、

9、運賃って悪い言葉だと思ってた。


あと、1つ、もうないかも……

あっ、そうだ!思い出した。

10、時々だけと、いつも使ってる駅で、

つるっぱげのおじさんがミニスカートのセーラー服着ているを見かける。

あー言えた!やったー!!」


漆間君は子供みたいに笑った。


「次、漆間君の番ね」

「やだよ。考えてないよ」


ずるいなー。

でも、変なこと沢山言ったら緊張感が薄れた。

それから漆間君が言った。

「じゃあ、ご褒美に今度から『ソラ君』って呼んでいいよ。お前は三浦の『み』と未来の『み』で『ミミ』でいいや」

変なの。別にいいけど……

少し仲良くなれたってことかな?

無口だと思っていた空君(こう呼ぶ)と

意外に普通に話せた。




雨でとうとう中止になってしまった体育祭の代わりに、卓球大会がカリキュラムとして、行なわれた。

なかなか上手な空君のお陰で、

決勝戦まで勝ち進んだ。

相手は山本、岸ペア。

岸君は強くて、山本さんはほぼ打てていなかったから、岸君の力だけでここまで来たんだと思った。

現役卓球部としては、負けられないから、めちゃくちゃ頑張った。

空君も岸君の力に圧倒され、

結局、私と岸君の一騎打ちとなったような試合だったが、結局負けてしまった。

試合後に、

岸君は中学生の時卓球部で都大会二位になったと聞いた。

なるほどね。岸君超格好良かった~。

山本さんも楽しそうで良かった。

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