第97話 フィラストダンジョンの謎?です
セントラルとの偶発的な遭遇から一夜明け、ピノはいつも通りヒトツメギルドで受付業務に
そんな時・・・
「ピノー、学校から連絡が入ってるよー」
「あっはーい」
ピノのもとに1本の連絡が入った。ピノが待っていた、ある知らせが。
そそくさと機材室に入ったピノは通信装置に向かい、
「お待たせしました。ピノです・・・ええはい・・・ああ、そうなんですね、よかった・・・ええ、じゃあすぐ迎えに行きますね」
その知らせにホッとした表情を浮かべた。
通信を切ったピノはそのままギルドマスターの執務室へと報告に向かった。
「ルビーさんの妹さんですが、容態が落ち着いて、もう大丈夫だそうです。それとご両親も戻られたとの事で、ルビーさんは今日からまた訓練に戻るそうです」
「うむそうか、それは何よりだ。ではピノ君、早速ルビー君を迎えに行ってくれるかな?」
「ええ、ちょっと行ってきます」
ピノが執務室から出ていくと、
「という訳だ。君達も安心しただろう」
と、そこに立つふたりに話し掛けた。
「はい、ありがとうございました」
「ルビーちゃん、よかった」
そこにいたのはもちろんアイとバック。ルビーのパーティメンバーである。
「サフィーも悪い病気とかじゃなくってよかったね」
「ほんとだよ。ああ、よかったあ」
アイとルビーとバックは王都で生まれた。ご近所同士小さな頃からいつも一緒だった、所謂幼馴染みである。
一緒に成長した3人は一緒に冒険者を目指して一緒に学校に入学し、そして一緒にパーティを組んでいる。長い付き合いでお互い気心も知れているため息も合い易く、その連携は非常にスムーズだ。
これもひとつの理想的なパーティの組み方であろう。
なので、もちろんお互いの家族とも小さな頃から親しく、家族同然の関係を築いている。
そんな彼らのもとに、昨日、ルビーの妹のサフィーが突然熱を出したとの突然の知らせが入ったのである。
実はルビーの両親は数日前から仕事でフタツメの街に行っており、その間サフィーの事をバックの両親に頼んでいた。
バックの両親はサフィーを家に迎えようとしたのだが、サフィーはひとりで大丈夫だと自宅に残った。そこには多少の遠慮や強がりもあったが、それ以上に彼女にはひとりでの生活というものに憧れを持っていたためである。
その気持ちを汲んだパックの母親であるが、やはりサフィーが心配で、毎日その様子を見に行っていた。そしてひとりでのお留守番の三日目となる昨日、家で具合が悪そうにしている彼女の姿を見つけたのである。すぐさまサフィーを自宅に連れ帰ると唯一連絡のつく家族であるルビーへの連絡を学校に依頼、そして・・・
ルビーは両親が戻るまで自分がサフィーを看病したいとみんなに伝えた。
自らの回復魔法で少しでも妹の病状をよくしてあげたい、そんな気持ちから。
そんなルビーの気持ちを汲んだピノは彼女と共に王都に跳び、そのままルビーとサフィーをその自宅へと転移で連れ帰ったのである。
ちなみにサフィーの容態は、ルビーの回復魔法とともにピノが作った「不思議と元気になるお粥」を食べてから、急速に改善した。
「ベルベルさんのレシピってやっぱり凄いですね」
「そんな訳ないだろうが! ピノ、あんたまたあたしのレシピに手を加えたね?」
「や、やだなあもう。ちょっと美味しくなるように調整しただけですよお」
「あんた、カルアをあんなにしちまった時にも似たような事言ってたろう!」
「あ、あれー、そうだったかな。あははは・・・」
後日某所にて、こんな会話がされていたとかいなかったとか・・・
ピノがルビーを連れ帰り、アイ達パーティの本日の訓練が始まった。
本日の訓練は昨日に引き続き、ブラックによる気配察知の授業である。
「みんな頑張ってね。気配察知も頑張れば『隠蔽』だって見破れるようになるから」
「はいっ!!」
ピノの言葉にやる気を溢れさせた生徒達。そして、
(まて、私は知らんぞ? 本当にそんな事が出来るのか?)
疑心を溢れさせたブラックの授業が始まる。
ダンジョンコアの結界の調査でセカンとラルの所に行ってから今日でちょうど一週間。
「いやあカルア君、随分とお待たせしたけど、やっと新しい結界具が出来上がったんだ。今回はほんっと苦労したよ。大変だとは想定してたけど、いやまさかこんなに時間が掛かるとはねえ」
朝から校長先生のところに呼び出されたと思ったら、そこにいたのはモリスさん。
「それでさ、今日はこれから懐かしきフィラストダンジョンに行こうと思うんだよ。という訳だからラーバル君、今日のカルア君は課外授業といこうじゃないか。もちろん大丈夫だろう?」
そして朝から怒涛のモリスさん。
「ええまあそれは構いませんが・・・どうしてサーケイブやフォーケイブではなくフィラストへ?」
ああ、そういえば何故だろう?
「うん、それなんだけどさ、セカン君が言ってたんだよ。フィラストダンジョンは3階層しかないから、得られる魔力が少なくて苦労してるだろうって。ならそこを最初に何とかしてあげたいってものじゃないか」
「なるほど、そんな理由があったんですね。ならば確かにフィラストからにすべきだと、私もそう思います。それで行くのはカルア君とモリスさん、それに私の3名でですか?」
「いや、僕達だけで行ってもフィラストの精霊が会ってくれるか分からないからね。セカン君とラル君にも同行を頼もうと思ってるんだ」
ラル・・・結局あれから毎晩遊びに来てるんだよなあ。
「なるほど・・・でしたらアーシュさんにも声を掛けましょう。そのメンバーで自分が呼ばれなかったと知ったら、きっと後で悲しむでしょうからね」
悲しむって言うより怒るんじゃないかな。アーシュだし。
「うん、別に構わないよ。じゃあ準備できたら早速出掛けようか」
呼ばれてやって来たアーシュに説明し、僕達はラルのところにやってきた。
そしてラルにセカンを呼んでもらうと、
「そんな訳でさ、フィラストダンジョンに一緒に行って、君達のお姉さんに説明して欲しいんだ」
モリスさんからふたりに今日これからの事を伝えた。
「うん、もちろんいいわよ。ああ、フィラスト姉さんに会うのってどれくらい振りになるんだろう。楽しみね、セントラル」
「うん、ラルも楽しみです。早く行くです」
「そうね・・・ってセントラル? あなた今自分の事『ラル』って・・・今までは『私』って言ってたよね?」
「この間からこっちにしたです。カルアお兄ちゃんの趣味です」
「ほぅ・・・」
「ちょっ、ラルぅ!?」
急に何を言い出すんだこの子は・・・
「ふふふ、冗談です。単なるイメチェンです。心境の変化です。髪切るようなものです」
「そう・・・でもそれってさ、あなたの事みんな『ラル』って呼ぶようになるわよ? いいの?」
「問題ないです。真名は無暗に教えないです」
「真名ってまた古臭い事を・・・だいたい名前だったらダンジョン名でバレてるじゃない」
「おおっと、こいつは盲点だったです」
そんな姉妹の掛け合いじゃれ合い。
そして、
「じゃあ出発するです。カルアお兄ちゃんワンメーター相乗りでよろしくです」
と、ラルのよく分からない号令で全員フィラストダンジョンの前に移動。
「いやあ久しぶりだなあ。トラップの発動条件を調べたりカルア君の時空間魔法の訓練をしたりって、一時はここの常連さんかってくらいしょっちゅう来てたよねえ」
僕は気配察知の訓練以来かな。
「さあさあ、早くお姉ちゃんのとこに行くですよ!」
ラルに急かされてダンジョンの中へ。
一歩踏み出せばやっぱり今でも赤い光に包まれるけど、気にせずそのまま歩いていく。
ここからなら転移で行けるけど、セカンとラルがどんな感じか見てみたいって言ったからね。
「また何てショボい・・・フィラスト姉さんの苦労が偲ばれるわ」
「でもほら、これはこれで初心者向けって事で重宝されてるんじゃないかなあ」
「だから余計にかわいそうです! モリスお口チャックです!」
「うわ久しぶりに言われたソレ・・・」
そうしてとうとう最下層、ダンジョンコアの前へと僕達は到着した。
「やっほー、フィラスト姉さーん」
「フィラストお姉ちゃーん! ラルが来ーたでーすよー」
ダンジョンコアに話し掛けるふたり。
「・・・あれ? 返事がない」
「ただのしかば――丸い石ころのようです」
何のリアクションもないダンジョンコアに首をかしげ、
「モリス、結界を解除するです。そしたらきっとラル達の声もよく聞こえるようになるですよ」
「了解だよラル君。ちょっと待ってて」
そしてモリスさんが結界を解除した。
「じゃあもう一度声を掛けてみようか。フィラスト姉さーん」
「フィラストお姉ちゃーん、ラールでーすよー!」
するとダンジョンコアはまるでビックリしたみたいに激しく明滅して、
「あらあらあらぁ? どうしたのあなたたち・・・」
コアの前にお姉さんが現れた。
もうホント、「お姉さん」っていえばみんなが思い浮かべる、そんな「ザ・お姉さん」って感じのお姉さんが。
「あなたたち、セカンケイブにセントラルよね? また会えてお姉ちゃんすっごく嬉しいけど、本当にどうしたの? もしかしてあなたたちのダンジョン、崩壊しちゃった?」
いきなり物騒な話に・・・
でもそうか、ダンジョンからは離れられないって言ってたっけ。
「そんな事ないって。この体は
「ですです、そうですよー」
「ええ?
「そうそう、その
そう言って僕を指差すセカン。そのセカンの指の指し示す先を目で追うフィラストさん、その到達する先は当然僕。
そして見つめ合う僕とフィラストさん・・・
「あらあら? こちらお客さんかしら? ええっと、お茶とかお出しした方がいいかしら? あれ? でも冒険者さんよね、だったらお茶よりも魔物をお出しした方が・・・あの、お好きな魔物とかあります? リソースが少ないのでリクエストにお応えできるかは分かりませんが・・・」
「お姉ちゃん、落ち着くです。急に魔物の好き嫌いとか訊かれても、多分困っちゃうですよ」
「まあ、それもそうよね。偉いわセントラル、そんな事に気付けるなんて、あなたもがんばって成長したのね。・・・セントラルの言う通りよ冒険者さん・・・ええっとカルアさんって言ったかしら。魔物の好き嫌いなんかしちゃダメ。何でもよく食べないと大きくなれないんですからね」
ちょっとずつ話がずれてる。
「いやフィラスト姉さん、そうじゃなくって・・・今日は姉さんのコアの結界を改良して、私達と通信でお話しとか
軌道修正を計るセカン。ナイス!
「結界・・・お話し・・・お出掛け・・・イヤっ! ダメよ!そんな事・・・絶対ダメ! 結界はこのまま! 絶対に緩めたりしちゃダメよ!」
急に感情が高ぶったみたいなフィラストさん。何事!?
「ちょっ・・・お姉ちゃん急にどうしたです? お姉ちゃんってそんな引き籠るキャラじゃなかったです。どうしちゃったです?」
「・・・」
「ねえ姉さん・・・もしかして何かあったの?」
暫くしてセカンがフィラストさんにポツリと問いかけた。
「・・・はぁ・・・そうよね、きっとあなた達にも伝えておいた方がいいわよね。あなた達も他人事じゃないかもしれないもの」
暫く俯いていたフィラストさんだったけど、やがてふたりに向かって語り始めた。
「あれはそう、ダンジョンコアが結界に囲まれてすぐの事だったわ。息詰まるような感じがイヤでね、コアから出てダンジョンの中をうろうろしてたの。だって、あなた達とお話しも出来ないし、コアのお引っ越しも出来なくなっちゃったし」
ちらっとモリスさんを見ると、ちょっと気まずそうな顔してる。
今はモリスさんがその管理を引き継いでるから、なんだあろうなあ・・・
「そんな時、私の前にあのエルフが現れたの」
エルフ?
校長先生を見ると、ブンブンと首を振ってる。
校長先生は知らないみたい・・・っていうか疑われたって思ったのかな。
「そのエルフはね、『私の時空間魔法の糧としてやろう。さあ、貴様のダンジョンコアを渡すのだ。ぬははははは』なんて言って、すっごく怖い目で私を睨んできたの。もうすっごく怖くってね、お姉ちゃん、急いでダンジョンコアに逃げ込んだの」
その時の事を思い出してるのか、フィラストさんは自分の体を抱き締めて小さく震えてる。
罪もない精霊をこんなに怖がらせるなんて、何て酷いエルフなんだ!
「結界のお陰でそのエルフはダンジョンコアに手出しできなかったみたい。しばらく色々してたけど、そのうち諦めて帰っていったわ」
よかったねモリスさん、結界が役に立ったみたいだよ。
「でもね、それで終わらなかったの。そのエルフはそれから毎日毎日やってきて、ダンジョンコアを取ろうと結界を弄り続けたわ。それを見て、このままじゃいつか結界が壊されちゃうんじゃないかって思ってね、それでエルフがここに来れないように、ダンジョンに新しい仕掛けを作ったの」
ん? 仕掛け?
「この結界を作った人達ね、ダンジョンの入り口を塞いで、転送装置を使わないとここに出入り出来ないようにしていったの。だからね、エルフが転送装置で入ってきたら、ダンジョンの中を赤く光るようにしたの。エルフが来たぞってすぐ分かるように」
んん? それって・・・
「でもね、分かるだけじゃきっとダメだって思ったの。それでどうしようかなって考えて、そしたらすっごくいい事思いついたの。エルフがビックリして外に出ようとしたら、そのまま別の部屋に閉じ込めて魔物達にやっつけさせちゃえって。でね、転送装置に干渉して転移先を変えちゃうようにしたの。っていっても、もともとお姉ちゃんのダンジョンは特別な役割があって、その仕組みを使っただけなんだけどね・・・って、そういえばこれ言っちゃダメな話だったわね。ええっと・・・みんな、今のはここだけの秘密ねっ」
その仕掛けってすっごく心当たりが・・・っていうか実体験・・・
いや、それよりもっと聞き捨てならない事言わなかった?
特別な役割って・・・
言っちゃダメって・・・
ここだけの秘密って・・・
「ええっと、ねえフィラスト君、ちょっと訊きたいんだけどさ、入ってきたのがエルフかどうかって、どうやって判別してるの?」
「え? ああ、エルフってほら、時空間魔法だけは凄いでしょ? だからね、時空間魔法の適性で判断するようにしたの」
やっぱり・・・
モリスさんが僕の方を見たから、そっと頷き返す。
僕も気付きましたよーって。
「でもね、それからずっとそのエルフは来なかったの。だけどお姉ちゃん怖くって、ずっとずっとダンジョンコアの中で目を閉じてじっとしてたの。そしたら最近になって何度も何度も仕掛けが作動するようになって・・・ああ、やっぱりあのエルフは諦めてなかったんだ、また来るようになったんだって・・・」
すみません、それきっと僕達です・・・
「それで今日も仕掛けが作動したから、ああまた来たんだって・・・そしたらあなた達が来るんだもの、お姉ちゃんビックリしちゃった。きっと今日のはセカンケイブの適性に反応しちゃったのね。あれ? そこにいるのはもしかしてエルフさん? じゃああなたに反応しちゃったのかしら」
「あの、私はラーバルと言います。あなたを酷い目に会わせたそのエルフ、名前などは言っていませんでしたか? もし分かれば、他の同胞に声を掛けてその者を厳正に処罰いたします」
「うーん、名前は言っていなかったかなあ。それに姿とかも記録してなかったし。こんな事だったらちゃんと記録しておけばよかったなあ。お姉ちゃん大失敗。えへっ」
右手で頭をコツンって・・・
「そうか・・・カルア君の大冒険は、その非常識なエルフのとばっちりだった、って事なんだねえ。いやあ、ダンジョンの途轍もない秘密に足を踏み入れたのかと思いきや、エルフホイホイに引っ掛かっただけとは・・・ぷぷ、カルア君、何て言うか・・・災難だったねえ」
もうっ、ほっといて下さい!
「あのお、それってどういう事なのかしら? そちらの、ええっとカルア君? が引っ掛かった? ってお姉ちゃんの仕掛けにって事?」
「あ、あの・・・ええっと・・・はい、そうです」
「ええっ、だって君エルフじゃなくって・・・あれ? 君もしかして――」
「そう、カルア君は人間だけど、時空間魔法の適性がとても高いんだ。そして実はこの僕もね。だからさ、僕達がこのダンジョンに入った時にも君のトラップが発動しちゃうんだよ」
「ええっ、そうなの? それは・・・ご迷惑をおかけしました」
深々と頭を下げるフィラストさん。
「あっいえ・・・気にしないで下さい」
だって、ねえ・・・
「あの、初めての時は大変だったけど、2回目からはむしろトラップに引っ掛かりに行ったというか・・・途中からは素材とか食材でとても儲かったというか・・・あ、たくさんの金属バット、ご馳走様でした。とっても美味しかったです。いろんな意味で」
「あ、はい。喜んでもらえたのならお姉ちゃんも嬉しいです。あれ? でもそれってつまり、最近のはあのエルフじゃなくてあなたたちだったって事? じゃあ本当にあのエルフはあれからここに来ていなかったって事なのかしら。それって残念なような・・・ううん、とってもいい事よね。トラップに嵌める事は出来なかったけど、来ないのならそのほうが絶対いいもの」
そう言って清々しい笑顔を見せてくれたフィラストさん。
これだったら結界の話を続けても大丈夫そうかな。
それにしても・・・
あれが単なる防犯装置だったとか・・・
・・・なんだかなあ。
▽▽▽▽▽▽
フィラストダンジョンのトラップの謎が少しだけ判明しました。
そして・・・もうすぐ100話!
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