第95話 ダンジョンコアの結界の改良です

セントラルの所に行った数日後。

今日は午後から学校を休んで、モリスさん達とセカンケイブにやってきた。

そこにはもちろん、

「セカンの所に行くんでしょ? だったらあたしも一緒じゃなきゃね」

アーシュも一緒。

それと・・・


「精霊・・・エルフに伝わる伝承では、エルフやドワーフは精霊から派生した種族と言われています。まあ所詮は言い伝え、眉唾ものの話ですけどね」

何故か校長先生も・・・


「ふふふ、私が引率するのですから、当然これは授業の一貫ですよ。なので、今日の魔法実技、あなたとアーシュさんはもちろん出席扱いです。だって何と言っても精霊の調査ですよ? 普通はあり得ないすばらしい学びの機会なのですからね。という事ですから、早く行きましょう。いざ精霊のもとへ」

つまりセカンに会いたかったって事みたい。



そんな感じでダンジョン前で待っていると、モリスさん達もやってきた。

「お待たせー。お、そっちはラーバル君が一緒か。こっちはミレア君がオートカにくっついてきちゃったんだよね」

「何よモリス先輩、その言い方! あたしは純粋に研究と情報収集の為に来たんですからね。今日だけは、オートカ先輩に会うのはほんのついでなんだから」

「はいはい、分かったよ。それじゃあ早速セカン君の所に行こうか」


という事で、みんなでダンジョンに入って、そこからダンジョンコアの間に転移。

いつも思うけど、ダンジョンの外から直接転移できたらいいのに。


「いらっしゃい。アーシュ姉さまとカルアとモリスさんと・・・あとは新顔ね。エルフとメガネと、あ、ブラックリストの」


「エルフって・・・僕はラーバル、よろしくね。カルア君達が通ってる学校の校長をやってるんだ」

「へぇ、アーシュ姉さまの学校の先生なんだ」


「メガネというのはやはり私の事でしょうね。これは新しい魔道具です。今日はそのテストをしてるだけで、普段はメガネじゃないんですよ?」

「なるほど。地味キャラからの脱却を目指してるのね。その答えがメガネキャラとか・・・結局地味ね」


「あなたが私の何を知ってると言うんですか。私は決して地味キャラなんかじゃ――」

「そうよ! オートカ先輩はとっても・・・ってそんな事よりブラックリストってもしかして私の事!?」

「そんな事・・・」

あらら、ミレアさんってば、フォローしてる途中で会話を流しちゃったよ。

オートカさん・・・


「セントラルからブラックリストが回ってきたの。といっても名前とかは分からないから画像でだけどね。可愛い系の魔物に対する過剰反応と異常行動に注意、だって。あなた一体あの子のダンジョンで何やらかしたの?」

「ううっ・・・私じゃない、あれは私がやったんじゃないの。犯人はピ――」

「ま、いいんだけどね。どっちにしてもアーシュ姉さまやカルアの知り合いじゃあ入ダン拒否とかする訳にはいかないし。じゃあ早速始めてもらおうかしら」


ミレアさん、今のってたぶん「犯人はピノさん」だって言おうとしてたよね。ピノさん、一体なにやったの・・・



「じゃあまずはセントラル君と通信してみてくれるかい? 一応当初の計画だった『ダンジョンの精霊の通信』の波形もとってみるからさ」

結界を解除したモリスさんがそうセカンに伝え、

「ええ、分かったわ。『セントラル聞こえる?』・・・うんそう、今カルア達が来て結界改良の調査をやってるのよ・・・ああそうね、試してみたら?」


『はーい、聞こえるですかカルアお兄ちゃん』

何か話してるなーって見てたら、ラルが僕にも話し掛けてきた。って、え?

『あれ? 聞こえてないですか? おーい、カルアお兄ちゃーん、おーい』

「聞こえてる、聞こえてるから。ちょっとビックリしただけだから」


「ん? どうしたんだいカルア君。何が聞こえてるんだい?」

「あ、今急にラルが話し掛けてきて」

「ああなるほどなるほど、そういう事ね・・・オートカ、今の部分はセントラル君とカルア君の通信みたいだから、分かるように区別しといて」

「分かりました」


「じゃあ次は操化身アバターの操作をやってみてくれるかい」

「分かったわ。感覚接続、意識接続・・・うん、接続おっけー。今あっちで操化身アバターを操作してるわよ」

「へえ、こっちの君も随分と自然じゃないか。この間は意識の切り替えとかで結構ぎこちなかったのに」


そうそう、あれって自分の体からの情報と操化身アバターからの情報が同時に入ってくるから、こんがらがっちゃうんだよね。

操化身アバターに向かって飛んできたのを避けようとして、自分の身体を動かしちゃったり、とかね。


「何度かやってるうちに慣れたわ。最初の頃は目を閉じたりこっちのダンジョンの情報を遮断したりしてたけど、今じゃあ他の事しながらだって操作できるわよ。操化身アバターと自分でじゃんけんだって出来るんじゃないかな」


セカン凄っ。それとも精霊はみんな凄いのかな・・・


「へえ、それは凄いねえ。っていうか、僕もやってみたいんだけど、カルア君、今度僕が動かせる操化身アバターも作ってみてよ」

「あっはい、いいですよ」

「やった! あ、オートカ、データ採れた?」


話が飛びまくるモリスさん。

相変わらずだなあ。


「ええ。後は念の為普通の魔法を使った際の魔力波形を採れば完了です」

「りょうかーい。て事でセカン君、何でもいいから魔法を発動させてくれるかい? 小さいのでいいからさ」


「いいわよ。じゃあ・・・あまり得意じゃないけど『灯火』」

ちっちゃい火がセカンの手のひらの上にポッと。

「うん、いいね。オートカ、データ採れた?」

「ええ。もういいですよ」

「りょーかい。じゃあセカン君、もう消してくれて構わないよ。ところで『あまり得意じゃない』って言ってたけど、精霊もやっぱり得意な属性が個人個人で違ったりとかするのかい?」

「うーん、例えば火の精霊とかは火の属性だし、水の精霊は水の属性よね。こんな感じで司る対象の属性に特化した精霊を特化型の精霊って言うの。その一方で属性にかたよらないものを司る精霊なんかは、一応一通りの属性は使えるのよ」


ああ、物語でも火の精霊とか水の精霊、それに光の精霊や風の精霊とかが有名だよね。そういう精霊って特化型っていうのかあ。


「そういう特化型じゃない精霊ってね、物質や事象なんかの根幹に近い属性、その抽象的で幅広い概念に寄せられちゃうみたいで、それ以外の属性はしょぼいのよ。一通り使えるのはいいんだけどね」


物質や事象? そんな属性なんてあったっけ?


「なるほどねえ。じゃあ『精霊は神に近い存在』なんていうのも、満更お伽噺のロマンなんて訳でもないって事かい?」

「まあそんなところね。大昔に精霊と交流があった人間の話が、言い伝えとして今に残っているのかもね。ま、私達はわりと最近生まれた若い精霊だから、そんな昔の事は知らないけど」


そんな感じで計測とかが進んでいって、

「お待たせしました。もうこれ以上『念の為』は無くても大丈夫そうです」

「でしょうね。だって全属性披露したんだから」

「あはははは、ゴメンゴメン。だったほら、精霊の計測とか始めてだったしね。不具合とかあったら君も嫌だろう?」

「まあそうなんだけど、ね」


「じゃあ次は『根幹の魔力』だ。ダンジョンコアを設置しているその台からコアに流れ込む魔力を計測すればいいのかな?」

「ええ、それでいいと思うわ」

「じゃあオートカ、よろしく」

「ええ、分かりました」


そして、

「ほほう、これは興味深いですね」

「お? 面白い結果でも出たのかい?」

「ええ。何というかこれは実にフラットな波形です。全く何の揺らぎも特徴もない・・・」

「なんとまあ・・・一応想定の範囲内だけど、一番厄介なやつだったかぁ。さあて、どうしたものかなあ」


厄介? 難しいのかな。


「それってもしかして難しいって事?」

セカンも気にしてるみたい。

「うーん、特徴がないって事はさ、これが『根幹の魔力』なんだっていう判断が難しいんだ。下手なアルゴリズムを使ったらセキュリティホールになりかねないからね。でもまあ、何とかやってみるよ」


なら大丈夫かな。

モリスさんって何だかんだ言いながらやっちゃう人だから。


「ところでさ、結局そのイメチェンメガネ? キャラ付けメガネ? って一体何の魔道具なの?」

セカンナイス。僕もそれ僕も気になってた。

「ああこれですか。これは魔力を可視化する魔道具です。あとこれ単体で波長の計測も出来るんですよ。これもまた魔石の新しい可能性です」


「って事は、そのレンズの部分が魔石で出来てるんですね。へぇ、凄いや」

「ふふ、でしょう? 帰ったらこちらの計測器のデータと照合して、差異がないかを確認するんです」

「ああ、それで『テスト』なんですね」

「ええ、その通りです」




「さてと、次はセントラル君の魔力を計測して、それから帰って新型結界具の作成に取り掛かるって事でいいかな。よしじゃあ早速移動しようか」

「あ、私も行くわ。もちろん操化身アバターでだけどね」


という事で次はラルの所へ行くんだけど、セカンの指示で、僕が転移で全員連れていく事に。

ラルの部屋は僕の転移だけが通るようになってるからなんだって。



「皆さんようこそいらっしゃいです。セカンお姉ちゃんから話は聞いてたですよ。・・・ひとり心からは歓迎できないひとが混じってるですけどね」

そう言ってラルがちらりとミレアさんに目をやると、

「・・・ひゅーーひゅひゅーーーひゅひゅーー」

斜め上に目を背けるミレアさん。

それってもしかして口笛のつもり?



「はぁ、まあいいです。恐ろしいのはあのヤベエ奴だけです。こいつはただうちの子達をモフり倒してただけ・・・あれ? それだとあいつも同じ括りです!?」


疲れたような表情から一転して愕然とした表情になるラル。

ホント一体何があったんだか・・・


「ピノ・・・確かこいつらはそう呼んでたです。うちの子達に消えないトラウマを植え付けたあいつ・・・奴こそ最悪のインプランターです」


ブツブツ言ってるラル。

うん、全部聞こえてる。

ピノさん、今度ラルと会わせてあげようかって思ってたけど、これじゃあ連れてこない方がいいかなあ・・・



「まあまあ、とりあえずそれは置いといてさ、今日は君の魔力を計測させてもらいに来たんだ。早速始めていいかい?」

「・・・もし次があったら・・・・・・って、ああもちろんいいですよ。ちゃちゃっとやっちゃって下さいです」


って事で計測開始。また色々ラルの魔法を見て、

「よし、じゃあ次は操化身アバターの操作をお願い」

「私、操化身アバター持ってないですよ?」

「おや、そうなのかい?」


ああ、そう言えばいつもセカンのほうがここに来てたから・・・


「「じぃーーーーーーーーーーーーーっ」」

「いやふたりともそれ口で言ってるよね・・・っていうかラルも操化身アバター欲しいの?」

「欲しいです! 私も操化身アバターやってみたいです! カルアお兄ちゃんお願いするです! 可愛い妹のおねだりです! 勢いの力を借りて、今必殺のっ上目遣い!です。おねだりはだいたーんに、です!」


こんな一生懸命お願いされたら・・・お兄ちゃん、もう叶えてあげるしかないじゃないか!

「分かったよラル。すぐに作るからちょっとだけ待っててね」


ボックスから材料を取り出して操化身アバターを作り始めると、モリスさんとミレアさんがもの凄い目つきで見てくる。

もう食い入るように、って感じで。

ふたりとも魔道具の専門職だから、やっぱり興味あるのかな。


大きさは、セカンのよりちょっと小さめに。この操化身アバターで他の姉妹に会うんだったら、きっと大きくなっちゃう前の体をベースにしたほうがいいよね。で、体の大きさとの比率もみんな揃えてっと。

あとはセカンのと同じ要領でちょいちょいちょいっと・・・あっそうだ、折角だからアレとアレも出来るようにして・・・よし、これで完成!


「うわっ、もう完成させちゃったよ。この前セカン君のを作った時より相当早いや。それにこれ、結構複雑な事やってるはずなのに、何だか簡単そうにちゃちゃっと・・・もしかしてカルア君、『なんとなく』で作っちゃってない?」

「はぁ、何だろう・・・真面目に研究して考察して試行錯誤してダメ出し受けて改良して・・・それを繰り返してやっと形になる、そんな私の仕事って・・・どうしよう、急に涙が出てきた・・・ふぇぇぇん、オートカ先ぱぁい!」

「ええ、ええ。大丈夫ですよミレアさん。あなたは間違っていない。それが正しいんです。カルア殿のあれに惑わされてはいけない」


あれえ?

何だか僕って今ヒドい事言われてない?

でもいいんだ。ラルさえ喜んでくれたらそれで。


「お待たせラル。出来たよ」

「うわぁ、カルアお兄ちゃん凄いです! ありがとうです!!」

「多分大丈夫だと思うけど、ちょっと試してみてよ」

「分かったです。どんな感じかはセカンお姉ちゃんから聞いてるから、その要領で・・・あ、繋がったです。そしたらまず視覚から・・・おお、見えたです。じゃあ動かして・・・わわっこれ凄いです。まるで自分の身体を動かしてるみたいに自然です!」


歩いたり走ったり回ったり・・・あ、転んだ。ラル本体が。


「慣れないうちは座って目を閉じて操作するといいわよ。慣れてくれば他の事しながらでも操作出来るようになるから」

「うん、やってみる」


そしてそこら中動き回るラルの操化身アバター

それで走り回るのを止めたと思ったら、今度は空中を飛び回る。


「自由自在ですよコレ。ヤバいです。とんでもない代物です」

「うんうん、最初はすっごく感動するよね。分かるわー」

「カルアお兄ちゃん、本当にありがとうです!」

「喜んでもらえて良かったよ。あ、そうそう、ラルの操化身アバターだけど、転移の機能を付けといたから。転移も試してみてよ」


「てっ転移です!? これだけでも十分凄いのに、更に転移も出来るですか!?」

自分と操化身アバターの両方同時にビックリ顔になるラル。

ふふ、サプライズ大成功!


「ちょっと試してみるです。自分が転移するのと同じ感じでやればいいって事ですよね。ええっと・・・操化身アバターから『遠見』で跳び先を・・・よし、『転移』です!」


シュンッ――

部屋の隅に転移したラルの操化身アバター

「できた・・・です」


呆然とするラル。そして、

「セントラルばっかりズルい! ちょっとカルア、私のも転移出来るようにしてよぉ」

詰め寄ってくるセカン。

まあ予想はしてたけど。

「うん、大丈夫。もちろんそのつもりだよ」

「やった! ありがとうカルア」


「カルアお兄ちゃん、もしかして・・・もしかして、これを使えば私ダンジョンの外にも行けちゃうです?」

「うん、そうだよ。でもそのままだと目立っちゃうからね。トラブルに巻き込まれない為にもうひとつ機能を付けといたんだ」

「もうひとつの機能?」

「うん。『隠蔽』だよ」


「・・・どうしよう、目の前で最大級にヤバい会話が飛び交ってるんだけど」

「飛び交ってるって言うか、弟弟子君から一方的に飛び出してる、じゃない?」

「我々はどうしたらいいんでしょう。モリス、ちょっと後で話し合いましょうか」


ラルが操化身アバターで『隠蔽』を発動すると、その姿も気配も感じられなくなった。うん、成功だ。これなら外に出てもきっと大丈夫だね。


「凄い・・・もちろんこれも付けてくれるんでしょう?」

「もちろんだよセカン。これならアーシュの家にだって遊びに行けると思うよ」

「アーシュ姉さまの家!! それ最高じゃない!!」


そしてセカンには一旦接続を切ってもらって、その間にセカンの操化身アバターを改良して。

完了したのをアーシュから伝えてもらって、セカンが再接続してきて。

『転移』と『隠蔽』を試して、また驚いて。


「ねえアーシュ姉さま、今日帰りに家までついて行っていい?」

「いいわよセカン。一緒に帰りましょ」

「やったぁ!」

迷わず即答するアーシュ。相変わらずの漢前っぷり。


「セカンお姉ちゃんいいなあ・・・ねえカルアお兄ちゃん、私もお兄ちゃんの家について行っていいです?」

「うん、いいよ。じゃあラルも一緒に帰ろうか」

「やったあ! です」

まあ僕も断らないんだけどね・・・



「ええっと・・・取り敢えずオートカ、計測は出来たって事でいいんだよね」

「ええ、それは大丈夫です。しかし、まさかこの場であのような爆弾が・・・」

「うん。あの操化身アバター・・・多分人間でも使えるよね。そこまでだったらまだしも、それに『転移』と『隠蔽』まで・・・万が一悪用とか軍事転用とかされちゃったりしたら・・・」


「わっ私はどうしたら・・・」

「ああっ、ミレア君が仕事と良識の板挟みに!」

「ミレアさん落ち着いて。取り敢えず帰ったらみんなで相談しましょう」

「そっそうよね。ししょーにも相談しなきゃ」



何だかみんな困ったような顔をしてるけど・・・?

「カルア君・・・久々ですがこれ、『軍事的脅威レベル』ですからね」

ああ、やっちゃったって事かあ・・・

って校長先生、ここに来てからの最初の言葉がこれですか・・・




▽▽▽▽▽▽

カップ麺を作ろうとしたんです。

で、取り出したかやくの袋をあけて中身をゴミ箱に投入、そしてその空袋を麺に投入・・・

自分の行動にびっくりです。

はぁ、疲れてるのかな。

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