第72話 訓練と大事件でバーベキューです
「そういえばアーシュ、この間ベルベルさんのお店に行ったんだけど、アーシュ達いなかったよね?」
ふと思い出して、昼休みに聞いてみたんだけど。
「えっと、昨日と一昨日だったら基礎魔法研究所と応用魔法研究所の見学に行ってたわよ?」
「え? なにそれ羨ましい」
「ふっふーーん、いいでしょう? ミレアさんとオートカさんに最新の研究とかを見せてもらってたの。まあミレアさんの方は機密が多いからって、一般の見学コースだけだったんだけどね」
えーー、いーなぁー。
「それって、どんなのが見れたの?」
「ええっと、一日目は基礎魔法研究所だったわね。最初一般の見学コースを見たんだけど、エントランスから通路にかけて魔法とか魔力の基礎知識や研究の歴史なんかの資料が並んでてね、内容は授業で習ったのと同じなんだけど、その裏付けとか歴史との対比とかもあって新しい発見も多かったわ。それから展示室に・・・」
うわぁ、見学コースだけでもすっごく面白そう。
「で、見学コースの後は研究棟とかを見せてもらって、ああでも個別の研究室とかは流石に見れなかったけど、でも共同スペースとかでは研究者の人達と仲良くなって色々教えてもらったりとか・・・そうそう、あそこってこの学校の関連施設だから、ほとんどの人がここの出身なのよね。それで最近の学校の話とかしたり・・・」
楽しそう! その場にいられなかったのが残念!
「それでピノさんの事を知ってる人も多くって、昔話に花を咲かせてたりとか・・・」
昔のピノさんの話!?
「そうそう、『加熱』とか『冷却』ももう研究対象になってたわよ? 開発されたばっかりの魔法は色々と研究とか改良の余地があるとかで。それで何だかワルツの『加熱』と『冷却』を見せる流れになってね、そしたらそれを見た人達が物凄く興奮しだしたのよ。それで計測機器か何かよく分からない機材を色々並べ出して、そこでもう一度・・・」
うわぁ、何だか「研究者集団」って感じ。
「それで終わったかと思ったら、今度は私とノルトの魔法も見たいって事になって、私が色々見せたらそれがまた大騒ぎになって、ノルトに交代したあたりでオートカさんが慌てて止めに入って・・・」
まあ、ふたりの天才っぷりだったらそれも不思議じゃないか。
「何だか『3人とも是非うちに入ってくれ』なんて、かなり激しく迫って来たのよ。まあ将来の事とかまだ決めてないし、家の事とかもあるからどうなるか分からないって言ったら、とりあえずその場は収まったんだけどね。そしたら『あとは謎のエルフ少女カルアちゃんが入ってくれたら』なんて言ってたわ。あんたと同じ名前だけど、何か知ってる?」
「ははは・・・」
良かった・・・その場にいられなくって本当に良かった!
「基礎魔法研究所の方はそんな感じね。次の日が応用魔法研究所だったけど、こっちはやっぱり軍事用って感じだったわ。一般の見学コースでも展示品は武器ばっかり。属性特化型の杖とか、適正がなくても簡単な属性攻撃が出来る魔道具とか。まあでもあんたの作る魔道具の方がヤバさは上だったと思うわよ? 一般公開されていない方は分からないけどね」
はは・・・そんな危険なの作ったかな・・・
「こっちは『目立たせる事で、逆に目をつけられないようにする』って言って、ベルマリア家の名前を全面に出して行ったから、職員とか研究者とかは一切近寄らせずに『所長接待』みたいな雰囲気で終始したのよ。だからまあ、特に面白い事とかは無かったわね。強いて言えば、最後にちょっとだけ見せてもらったミレアさんの部屋かしら。最新の魔石の研究中とかで、黒みがかった魔石がたくさん並んでたっけ」
ああ、そう言えば前に会った時に効率化の研究をしてるって言ってたっけ。
抜いた魔石は研究所で研究、透明な魔石はベルベルさんとお店で研究してるんだよね。
「その魔石で作ったオートカさんの全身像とかが机に並べてあったのよ。あまりじっくりは見れなかったけど、あれは間違いなくオートカさんだったわ」
ばっ、バカップル!?
ベルベルさんが見たら「技術の無駄遣いだよっ!」とか言うんじゃないかな。
「はあ、あんな一途な恋って素敵よねえ」
ええっ!? あれ? もしかしてそれが普通の反応、なの・・・?
そして放課後。
今日も僕とネッガーは「ピノさん便」でヒトツメに。
そしてギルマスと3人でフィラストダンジョンに移動、今日ももちろん魔物部屋へ直行。
まずは昨日と同じように、間引きとお掃除をしてっと。
「カルア君、今日はランニングバットとラビットバットを残してくれ。ネッガー君、数は昨日の2倍で動きは少し複雑になるが、やる事は同じだ。君ならばすぐに慣れると思う」
「分かりました。やってみます」
そして僕たちは部屋の隅に。ネッガーは足元のバット達を避けながら中央に行き、殲滅を始める。
「ではカルア君、我々は『気配察知』の訓練を始めるぞ。君はまず『アクティブ型』から始めるのがいいだろう。こちらのほうが簡単だからな」
「え? 『アクティブ型』のほうが簡単なんですか?」
「ああ。こちらは自分の魔力を周囲に広げて反応を感知する仕組みだからな。感覚さえ掴めれば魔力の広がる範囲だったら感知できるようになる。ただし、感知されている事を相手に察知されやすいから、使える相手は限られるな」
「なるほど・・・」
確かに、魔力の変化とか違和感を感じることがあるからなぁ。
転移の前兆とかで。
「まずは周囲に自分の魔力を薄く広げる。できるだけ薄く弱くするのが望ましい。魔力の節約になるし、何より相手に察知されにくくなるからな」
「はい、じゃあやってみます」
魔力を薄く・・・薄く?
うーん、まずは何かに注ぐような感じからやってみようか・・・
うん、すぐ目の前の足元にいるラビットバットに魔力を・・・
あれ? 物凄い勢いで向こうに行っちゃった。
「うむ、カルア君、今のは相手に魔力を察知されたのだ。あのラビットバットにとって君の魔力は相当の脅威だったのだろう」
そうか、あれは強すぎると・・・
じゃあもっと少ない量で・・・あれ? これってすっごく難しくない?
「あの、少しだけの魔力ってどうしたらいいんでしょう?」
「む・・・ああ、もしかして・・・」
「何か分かりました?」
「確か君は普段魔力循環をしていないんだったな。通常、自分の周りに魔力を広げるのは、循環の範囲を広げるようなイメージで行うんだ。一度循環させて感覚を掴んでみるのはどうだろう」
ああ! なるほど!
「やってみます」
魔力循環、開始。
ズザザザザザーーーーーッ!!
「あれ?」
部屋中のバット達が反対側の壁に貼り付いて固まった?
ってネッガー!?
「む、いかん!」
ギルマスが結界から飛び出して、崩れ落ちたネッガーを抱き抱えて戻って・・・
あ、結界を解除しなきゃ!
ふたりが戻ったところで、もう一度張り直し。
「ネッガーは大丈夫なんですか?」
「ああ、君の魔力に当てられたんだろう。あのバット達と同じだ」
そう言って壁のバットに軽く視線を向けるギルマス。
あ、あの時の校長先生と同じかあ。時間操作を教えてもらってた時の。
「うう・・・む?」
ああよかった、気づいたみたい。
「大丈夫かネッガー君。すまない、今のは私のミスだ。カルア君への指導で魔力循環を始めさせたのだ」
「魔力、循環? ああそうか、これがカルアの・・・」
「どうしようか、一度止めた方がいい?」
もしかして負担になっちゃってるとか?
「いや、さっきのは慣れない察知の最中で驚いただけだ。今はもう問題ない」
「そっか、よかったぁ」
「しかしこれは・・・途轍もないな」
「うむ、まったくな。・・・うーむ、バット達も全く動かんな。どうやら怯えきっているようだ。む? 何匹かはショック死しているか。」
言われてみればそんな感じ? あ、一匹転がり落ちた。
「あれはもう使えんな。今回は殲滅して続きは次回にしよう。ネッガー君は魔力の乱れが落ち着くまで休憩だ。カルア君はせっかくだから、今のうちに魔力を広げる練習をするぞ」
「はいっ」
循環の範囲を広げて、薄く、薄ーーく・・・
あ、確かにこれなら出来るな。そうか、循環なのか・・・
「ふむ、広げるところは出来たようだな。では暫く続けてその感覚を覚えるんだ。循環しない状態でも再現できるようにな」
「はい」
うすーく、うすーーく、うすーーーーく・・・
うーん、どうにかしてもっと薄くならないかな。
・・・ああ、そう言えばクーラ先生の段階型強化! あんな感じで循環を制御できればって思ってネッガーが教わってるところを見てたのに、そのままになっちゃってたなあ。
あの時は
ゆっくり、ゆーっくり、ゆーーっくり、ゆーーーーっくり・・・
あ・・・何だか出来てきてるみたいな気がする。
じゃあ、このまま循環が止まるぎりぎりまでゆっくりにして・・・
おっ、今これいい感じじゃないかな?
よし、じゃあこのまま魔力も、うっすーーーーーーく・・・
「うぉ、カルアが小さく、いや薄く?」
「魔力が小さく? いや、十分大きいな。さっきまでがあまりに大きかったからそう感じるだけだろう。これは・・・ふむ、循環を止めたのか?」
魔力に触れたものを感じ取る・・・
うん、だんだん視えて来た・・・
すぐ側にネッガーとギルマス。輪郭と魔力の感じ・・・
そして壁沿いに固まってるバットの群れも・・・
ああ、床とか壁も何となく分かる。でもこれは時空間魔法のほうがくっきり分かるよ。
そうか、だから空間の状況を「時空間魔法」で魔力の流れを「気配察知」なのか・・・
「ギルマス、見えました!」
「そうか、おめでとう。それが『アクティブ型』の『気配察知』だ。じゃあ次はより高度な『パッシブ型』だな。ネッガー君も挑戦しているこの『パッシブ型』だが、こちらは『アクティブ型』とは逆で、魔力循環の範囲は体内に留める事になる。そしてそれを感覚器のように使用し、魔物の動く僅かな空気の振動や魔力などの気配を感じ取るのだ。更に五感を司る感覚器も魔力集中によってで強化し、そちらの感度も高める」
なるほど、じゃあ次はそっちに挑戦!
「だがまあ、この様子だったらネッガー君の訓練と平行して練習しても大丈夫だろう。まずはカルア君、残りのバットを殲滅してくれ。一度入り直して新鮮な魔物で訓練を再開しよう」
それから何回か入り直して今日の訓練は終了。
途中からネッガーの訓練相手は飛ぶバットになって、複雑な動きにまた苦労してたみたい。
僕のほうは『パッシブ型』がまだ全然出来なかった。
よくネッガーはこんな難しい事出来るな。やっぱり身体強化系だから要領を掴みやすいのかなぁ。
あ、でも「超ゆっくり循環」のお陰で視覚強化とかは出来るようになったんだよね。
今夜は味覚を強化して、ピノさんの晩御飯をじっくり味わってみよっと。
超楽しみ!!
そしてギルドに戻ると・・・そこでは大変な事件が起きていた。
「一体どうするんだ! これじゃあ俺たち・・・」
「ああ! しかも下手をしたら今日だけじゃないかもしれん」
「まずい、これはまずいよ」
「おい、誰か何とか出来ないのか?」
「くっ・・・おやっさん、まさかこんな事になるなんて・・・」
何だろう、みんな物凄く深刻な顔して・・・それにパーティしてた様子もないし。
「む。みんな、どうしたのだ」
「「「「「ぎっ、ギルマスぅ!!」」」」」
縋るような目がギルマスに集中して、そんな中パルムさんが、
「実はギルマス、食堂の親父さんが奥さんと喧嘩して、実家に帰っちゃった奥さんを追いかけて・・・飛び出して行っちゃったんです」
「ふむ・・・そうか、それは確かに大変だな。だがあいつならばきっと大丈夫だろう。かつて不可能と呼ばれたミッションを何度となく成功させてきた男だからな。・・・それでお前達は何を騒いでいるんだ?」
「飯が・・・俺たちの飯が!!」
「ああ、他の飯なんてとても食えやしない(高くて)」
「そうさ、俺たちはおやっさんの飯じゃなきゃダメなんだ(高くて)」
「ああ、ここの飯とここの酒じゃなきゃ喉なんて通りゃしないよ(高くて)」
「ふむ、そういう事か・・・」
顎に手を当てて考えるギルマス。
この食料危機に、果たして彼はどのような答えを導き出すのか!? なんてね。
「よし、カルア君」
「はい?」
「ちょっと森に行ってフォレストブルの良さそうなところを狩ってきてくれ。ああ、出来ればボアも頼む」
「ええっと、はい」
「解体班は解体の準備だ。そしてお前達、横の広場に屋外コンロを設置。できるだけ大きく」
「「「「「おうっ!!」」」」」
「ピノ君は『焼肉のたれ』作成だ。甘口、中辛、辛口すべてだ。余っても構わんから多めに用意してくれ」
「はいっ」
「よし、じゃあ全員作業開始! 今日は冒険者ギルド『バーベキュー大会』だっ!!」
「「「「「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」」」」」
さて、じゃあ森に転移して・・・
ええっと、ブルは・・・あ、川辺に2頭いる! よし、2頭ともゲット!
次はボア・・・あっちに1頭、向こうに3頭か・・・よし、全部ゲット!
「ただいまーーっ!」
「おおカルア、こっちだ。解体台の上に出してくれ」
「はいっ」
とりあえずフォレストブルをどーーん。
「残りはこっちでいいですか?」
「おお、そこに頼む」
「はいっ」
床にもう1頭のブルとボア3頭。
「おお、結構あるな・・・ってこの一瞬でこんだけ狩ってきたのか!?」
「ええまあ。あっそうだ、せっかくだから金属バットも出しますか? 前に狩ってきたやつですけど」
「ふむ・・・そうだな。こっそり混ぜとくか」
「ふふふ、分かりました」
そしてギルマスのところに。
「行ってきました。ブル2頭とボア4頭です。あと僕からおまけで金属バットを出しときましたので、皆さんで食べてください」
「はははっ、ありがとう。みんな喜ぶだろう」
ああ、どうせなら。
「あのギルマス、チームとかパーティのみんなも呼んでいいですか?」
「ふむ、そうだな。それは大丈夫だ。もし文句を言ってくる奴がいたら、参加費として金属バットを受け取ったと言っておこう。まあそんな奴はいないだろうがな」
「ははっ、そうですね。じゃあちょっと行ってきます」
ベルベルさんの店に転移すると・・・よかった、今日はまだ終わってなかった。
アーシュ達3人、それにベルベルさんとミレアさんにオートカさん。
「あれ? カルアじゃない。どうしたのよ急に」
「うん、それが実はさ、ヒトツメのギルドで急に今からバーベキュー大会が始まる事になって、それでギルマスがみんなも呼んでいいって言ったから」
「へえ、いいわね! お祖母様、行ってもいいでしょう?」
「ああいいよ、行っといで」
「それがチームの人達も一緒にって話なんです」
「おや、じゃああたしもかい。なら、せっかくのお誘いだからお邪魔しようかねえ」
そしてモリスさんに連絡して。
「おっけー。じゃあ僕はロベリー君とラーバル君を連れて直接行くよ。ああそうだ、ミッチェル君の兄弟達も誘っていいかい?」
「はい、もちろんです!」
「りょーかーい。ああ、ついでにミッチェル君も僕が拾って行くよ」
そしてみんなでヒトツメギルドに戻ると、もう焼き始める準備ができていた。
「よし! いいか、焼く係は15分交代だ。ただしやりたい奴は焼き続けても構わん。それからカルア君から金属バットの差し入れがあった。みんな感謝して食べるように」
「「「「おおっすげーーーっ、ありがとうなカルア!!!」」」」
「酒はここに出してあるだけだ。いいか、店から勝手に持ち出すんじゃないぞ」
「「「「ぉぉー・・・」」」」
「あとカルア君の仲間達も参加するから仲良くするように」
「「「「「おおーーーーっ、よく来たなぁ!!!!」」」」」
「よし、ではバーベキュー大会の始まりだっ!!!!」
「「「「「おおーーーーーーっ!!!」」」」」
こうして突然始まったバーベキュー大会。
みんなあふれる笑顔で。
そして弾ける笑い声が。
それより何より、みんな肉を食べる食べる・・・
あれおかしいな、ブルは2頭分あったはずなんだけど・・・
それにボアももう無くなりそう?
「さあ、ここでいよいよ金属バットの登場だぁ!!」
「「「「「待ってましたーーーー!!」」」」」
はは、そうか・・・締めが金属バットだったのか・・・
「「「「「うおぉぉぉ!?
よかった、みんなすっごく美味しそうに食べてる。
そしてお腹も膨れて、場が落ち着いてきて、冒険者のみんなはお酒も進んで・・・
「ううぅ、ありがとうな。カルアと仲良くしてくれて本当にありがとうな」
「ああ、あいつは本当に頑張る奴なんだ。これからもよろしくな」
「あの子に友達が出来たって聞いた時は、そりゃあもう本当に嬉しくってさ」
「さあほら、もっと食え、もっと飲め」
「おいこら、子供に酒を勧めんじゃないよ!」
「おっといかん、こいつはうっかり。こっちがジュースだ。・・・カルアを、頼む!」
ああいけない、急に煙が目にしみて・・・
こうして突然始まったバーベキュー大会は、とっても楽しくって、とってもあたたかくて、それにとっても嬉しくって。
そして味覚強化したお肉は、控えめに言って超美味しかったんだ!
でもこれ、やっぱり味覚強化したからって訳じゃ・・・ないよねっ。
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