第58話 僕たちの冒険の準備が整いました

3連休の最終日、僕がやって来たのはマイケルさんの工房。

「こんにちはマイケルさん、お久しぶりです」

「おお、カルデシか。よう来たな」

「カルデシじゃなくってカルアですよ。マイケルさん」


やっぱりミッチェルさんからその呼び名が伝わってたか。

これは早めに対処しなくちゃ。


「がっはっは、すまんすまん。ミッチェルの奴があんまり繰り返すのでな、ついうつってもうた。それでカルア、今日はどうしたんじゃ?」

軽く頭を掻きながら笑うマイケルさん。

よかった、どうやら修正は間に合ったみたいだ。


「実は学校のみんなとパーティを組んで冒険者登録するんです。でもみんなあんまりお金が無いみたいだし、せっかくだから僕が錬成しようかと思って」

「ほほう、つまり錬成は出来るようになったっちゅう事じゃな。なら前に錬成すると言っちょった剣も、もう出来上がっとるんじゃろう? どれ、持っとるんなら見せてみい」

「はい。見て下さい、これが僕が作った剣です」


実はここに来る前に、ベルベルさんとミッチェルさんに相談して来たんだ。

マイケルさんに剣の相談をするんだけど、どこまで話していいのかな、って。

「おぬしが作った『魔剣』、あれは見せて構わんじゃろう。マイケル兄貴は、付与の力で剣を強くする事には、大して興味を持たんじゃろうからな。それになカルアよ、一流の職人って奴は皆口が固い。秘密と言われて漏らす馬鹿などおらんのじゃよ」

そう答えたミッチェルさんにベルベルさんが同意して、魔剣については伝えて大丈夫という事になった。


「む、こいつは・・・」

剣を手に取り、眼光鋭く様々な角度から見るマイケルさん。

そして上段中段と軽く振り、

「うむ、使い手の振ろうとする意志を邪魔せん、良い出来栄えの剣じゃな。初めてでこれを打てるんなら、相当筋がええ。どうじゃ? ミッチェルの所じゃなくうちで・・・」

「いや、ミッチェルさんに弟子入りするつもりだって無いですからね? 僕は冒険者をやるって決めてるんですから」


ホント、見た目も中身もよく似た兄弟だよ!


「むむぅ、実に惜しい・・・が、まあそれはええ。それより今はこの剣じゃ。この輝き、質感、それに重さ。あの時のインゴッドだけじゃあこうはならん。この剣、一体何が入っちょる?」

やっぱり見れば分かっちゃうよね、一流の鍛冶師なんだから。って言うか、はっきり気づくくらい重さも違うのか。


「はい、実は魔石を『混合』して魔法を付与してあるんです」

「魔石・・・ああ、最近流行っちょるあれか。ううむ、中途半端な出来でそんな事しちょったら今すぐにでも追い出すところじゃが、ここまでキッチリ仕上げてあるんじゃったら文句のひとつも付けられん。まあこれもまた、ひとつの剣の形じゃろうて」


そう言うマイケルさんの顔は、少し寂しげに見える。

やっぱり、自分の目指す剣とは少し違うこの剣には色々と思うところがある、って事なのかなあ。


「それでカルアよ、おぬしは今回どんな剣を考えちょるんじゃ?」

「はい。・・・マイケルさん、僕が考えているのは『折れない剣』、です」


そう。初めて魔物部屋に転送された時、僕の剣は途中で折れてしまった。

もしあの時スティールが進化しなかったら、きっと僕は死んでいただろう。

だからみんなの剣は、最後までみんなを守る、そんな剣であって欲しいんだ。


「うむ、そうか・・・。そうするとやっぱり、ただ打っただけの剣っちゅう訳にはいかんじゃろうな。おぬし、一体どうやって折れなくするつもりなんじゃ?」

「いろいろと考えたんですけど、時空間魔法の『固定』を付与して剣の時間を止めちゃえったら、折れなくなるんじゃないかなって」

「ぶっ! ぶわっはっはあっ! 剣の時間を止めちまえば折れる事も無い、っちゅう事か!? 何とも面白い事を考える奴じゃ! ・・・よし試すぞ! 今すぐ一本作って見せてみい」


そう言って僕を店の奥の作業場に引っ張って行くマイケルさん。

着いた作業場は、鍛冶場と錬成場が一緒になったみたいな感じかな。そう言えば、店にある剣は鍛冶と錬成が半々くらいだって言ってたっけ。


マイケルさんからインゴッドを受け取った僕は、ボックスから取り出した透明な魔石も一緒に作業台に並べて、早速錬成を始める。

「まずは両方とも『融解』と。魔石の比率は前と同じでいいのかな? ちょっと試して・・・うん、前と同じ2割くらいが一番いい感じ。ならそれで全体を『混合』。・・・今回は試作だから、形は前と同じでいいか・・・よし、『凝固』」


出来上がったブレードと柄を渡すと、マイケルさんの手であっという間に剣の形に。

「まあ仮じゃったらこんなもんでええじゃろ。さて、次は付与じゃな?」

マイケルさんから手渡された剣を握って・・・これで「仮」なの!?

これ、ふつうに売られてる剣と変わらないよね!? ホント凄いな!


そして次は付与の時間。

「いいかい、君は魔力を受け取ると時間が止まるよ。つまり君は、その強さ・その姿を永遠に留める、そんな魔剣として生まれ変われるんだ。さあ、僕の魔力を受け取った時から、君はその力を得る事ができるよ。どうだい、永遠が欲しいかい? なら僕の魔力を受け入れて『魔剣』になってよ」


そして新たな魔剣の誕生。

うーん、今日の付与は何だかちょっとダークな感じ?

でもまあ、たまにはこんな感じもいいかな。だって魔剣っぽいし。



「うむ、これで出来上がったっちゅう事じゃな? なら早速試してみるか」

そう言ってマイケルさんは手にした魔剣を振り上げた。

「カルアよ、この剣に魔力を流すだけでええんか?」

「はい、それで大丈夫です」

「なら行くぞ!」


振りかぶったその剣を勢い良く振り下ろすマイケルさん。その征く先にあるものは、剣になる日を待ち望み鈍く輝くインゴッド。

って試し斬りの相手がまさかのインゴッドだと!!


ガギィィン!

金属同士がぶつかり合う激しい音が鳴り響き、衝撃でインゴッドは軽く跳ね上がった。

そのインゴッドを尻目にゆっくりと剣を引き、その状況を確認するマイケルさんだけど・・・

大丈夫? 手、痺れてない?


「ふーーむ、確かに刃こぼれも歪みも無いようじゃ。で、インゴッドこっちの方は・・・」

そう言って次はインゴッドを持ち上げて確認。

「指2本分くらい切れちょる、いやめり込んじょると言ったほうが正しいか。まあいずれにせよ、これは『成功』って事じゃな」

そうして何やら考え込むマイケルさん。



「それでカルアよ、剣は全部で何本必要なんじゃ?」

「僕を入れて5人パーティだから、5本欲しいんです」

「ふむ、そうか・・・。なら5人それぞれの剣、今ここで作る事は出来るか?」

「みんなそれぞれ練習に使っている剣に使い慣れてるみたいなので、その剣の型を魔法で写し取って来たんです。だから今からでも作れます」


前に魔剣と作った時と同じ。

時空間魔法の把握で全員分の剣の形そのままを写し取ってあるから。


「なら今からそれで5本作っていくんじゃ。材料はそこのインゴッドを使ったらええ。そうしたら、後はわしのほうで鞘も合わせて完璧に仕上げといちゃる。日数はまあ3日ってところじゃろ。で、代金は・・・」

そう言ってにやりと笑うマイケルさん。

「こっちのインゴッドにさっきの魔石を混合したもんを置いてってくれりゃあそれでええ。魔剣なんぞ打つつもりは無いが、素材としては研究の余地ありじゃ。こいつを使ってどれ程の剣が打てるか、実に楽しみじゃわい!」



それから3日後、マイケル工房に行った僕の前には、マイケルさんが言っていた通り、完成した5本の剣が並んでいた。

そして何と、剣にはどれもマイケルさんの銘が!?

「マイケルさん! これって・・・」


驚く僕にマイケルさんはニヤリと笑って、

「例のインゴッド、色々試して特性なんかも把握できたからの。おぬしが置いてった剣、その特性に合うようきっちり調整して連成し直しといたわい。それにこの剣は刃こぼれの心配が無いっちゅう事じゃからな、普通ならあり得んくらい刃先を鋭くしといたぞ。後は柄やら鞘なんかじゃが、これもあのインゴッドから作っちょる。これじゃったら、そっちにも何か役に立つ付与が出来るんじゃないかの?」


まままっ、マイケルプローーーーーーっ!!!!



「さあ、仕上げの付与をして持っていくがええ」

「ありがとうございますっ! インゴッドの残り減っちゃいましたよね? もっと作っていきます!」

「構わん構わん。もう残っちゃおらんが、これからあれで何か打つ事も無いじゃろ。十分楽しめたし特性も分かった。それで代金分じゃ」


うっ、うおおおおっ! マイケルプローーーーーーっ!!!!



こうして僕たちパーティは最高の武器職人による最高の剣を手に入れた。

ちなみに僕がその後鞘に付与したのは、鞘自身と中の剣を『記憶した新品の状態と違っていたら自動復元』と『魔力の自動充填』するようにって。これで魔力を流してない時に破損しちゃっても安心だね。




そして剣を受け取った翌日。

放課後の戦闘訓練の授業でみんなにそれを伝えた。

「前に言ったパーティ全員の剣、昨日出来上がって受け取ってきたよ」


「うおおおおっ! 剣! 新しい剣っ! 早く見せてくれ!!」

真っ先に反応したのはネッガー。まあ物理の人だからね。

「あたしもっ! 早く! もったいつけないで早く見せなさいよ!!」

そしてアーシュ。

ノルトとワルツも期待に満ちた眼差し。で、その横のクーラ先生も。

あのクーラ先生? そんな眼で見ても、先生の剣はありませんよ?


そして取り出した5本の剣。

ひとりずつ手渡していくと、みんな自分の剣を手にすっごく嬉しそう!

ネッガーのは体格に見合った長い両手剣。鉄の塊!ってほどじゃないけど、ボックスが無かったら持って来れなかったかも?

あ、周囲を把握して5本の剣を錬成で浮かべ・・・いや、やらないよ?


魔法が主体のアーシュとノルトとワルツは、スラッと細身で短めの剣。

ノルトは杖を持つしアーシュとワルツは女の子だから、3人とも軽くて取り回し重視で。

だから極限まで切れ味を高めてくれたのには本当に感謝!

さすがプロの気配り、だよね。



「私にも見せてくれるかしら?」

そう僕に声を掛けてきたクーラ先生。もう見るからに興味津々!って感じ。

「ええと、どうぞ」

手元に残っているのはもちろん僕の剣だけ。

それをクーラ先生に渡すと、まず鞘ごと眺めて「ほぉ」とか「へぇ」とか。

次に鞘から出して眺め・・・「はぁ?」・・・停止?


「ふぅ・・・カルア君ちょっといいかしら? この銘って・・・」

「ああ! それ、マイケルさんが入れてくれた銘なんです」

「や、やっぱりこれ・・・マイケル工房・・・」


「「「マイケル工房っ!?」」」

「えっと、まいけるこうぼう?、って何?」



「ちょっとカルア!? あんた『タダみたいに安く手に入る伝手つてがあるからお金は気にしないで』って言ってたわよね? それで持ってきたのが『マイケル工房』!? しかも銘入りって、本気で打ったフルオーダーメイドって事よね!?」


「あのって・・・」

マイケルさんって凄い職人だとは思ってたけど、もしかして超有名人!?


「マイケルさんのお店は、ピノさんが『品質とお値段がいい感じでおすすめ』って連れて行ってくれたんだ。そうしたら実はマイケルさんって僕に錬成を教えてくれたミッチェルさんのお兄さんだって分かって、それで仲良くなったんだ」


それでインゴッドをくれて、それで初めて剣を錬成して。


「だからみんなの剣は、マイケルさんに材料だけ譲って貰って、あとは僕が作るつもりだったんだよ。そうしたら鞘も一緒に全部マイケルさんが仕上げくれるって事になって、それで僕が錬成した剣を置いてったんだけど、受け取りに行ったらマイケルさんが調整と再錬成をしてくれてあったんだ。銘もその時に入れてくれたんだって」


ビックリだよね。見た目は変わらないのに性能は別物とか。


「剣の代金は、その剣にも使われてるちょっと珍しい魔石だったんだけど、すごく簡単に手に入れる方法を知ってるから、本当にお金は全然掛かってないんだよ?」


何だか渋い表情のアーシュ。別におかしな事は言ってないよ? 普通普通。

「はあぁ、あんたがカルアなのって魔法だけじゃなかったのね。まさかこんなところもカルアだったなんて」

えっと、それどういう感想? 僕は隅から隅までカルアだよ? だってカルアだし。



「あっそうだ、その剣って普通の剣よりもかなり切れ味が鋭くなってるから、みんな取り扱いにはすっごく気を付けてね。ああでも『魔力を流している間は絶対に壊れない』から、そこは安心して」

「「「「「・・・・・・」」」」」


「ええっと、どこに安心したらいいのか悩むわね・・・。あのカルア君、今すっごく不穏な事が聞こえたんだけど、『絶対に壊れない』ってどういう事かな?」

訝しげな表情のクーラ先生。ああそうか、これだけじゃあ説明が足りないよね。


みんなに安心してもらうには、もっとちゃんと説明しなくっちゃ。


「その剣には、時空間魔法の『固定』が付与されてるんだ。剣の時間が止まってるから、何があっても剣は折れないし刃こぼれもしない。もちろん汚れも付かないよ。マイケルさんの工房で実験した時には、金属の塊に斬りつけても刃こぼれとかしなかったしね」


流れる時間の中で停止した時間の剣を使ったら何か変な事が起きないか、ちょっとだけ心配だったけどね。


「魔力は自動充填してるから1時間くらいは持つと思うけど、一応使う時はいつも流すように心掛けてね。と言っても大した量は必要無くって、体の一部みたいに循環するだけで十分だから。あと万が一折れちゃっても大丈夫。折れた先とかと一緒に鞘に納めればすぐ直るから心配要らないよ。だからみんな、安心して使ってね」

「「「「「・・・・・・」」」」」


「ちょ、ちょっと何よそのとんでもない機能! そんな凄い剣を安心して持ち歩くとか、出来る訳ないじゃない!!」

「?? あっそうか、盗まれちゃったしたら大変だもんね。じゃあそうだなあ、あ、自分の魔力を登録して他の人には使えないようにすればいいかな? それとも念じれば手元に帰ってくるような『転移』を付与するとか・・・」


「何で話が通じないのよ!? 大体剣に付与って何よ! それってなんて魔剣!? それとも聖剣だとか言うの!?」

「何言ってるのさアーシュ、お伽噺とかじゃないんだから聖剣なわけ無いじゃないか。ちょっと頑丈なだけの、ただの魔剣だよ」

「まっ!? ・・・もう無理。クーラ先生、助けて・・・」

「こっ、ここで私に!? ええっ一体どうしたら・・・。ね、ねえカルア君、どうして君はみんなに剣をプレゼントしようって思ったの?」


「ええっと、もしかしたら知ってるかも知れないけど、僕は前にトラップで魔物部屋に転送された事があるんです。そこで必死に剣を振り続けたんですけど、途中で剣が折れちゃって、もうちょっとで死ぬところだったんです。だからみんなには、『絶対に折れない剣』を持って欲しくって。でも初心者が良い剣を買う事なんて出来ないから、だからせめて僕が作ろうって思ったんです。冒険者にとって何より大切なのは命と安全だから」


「「「「「・・・・・・」」」」」



「はあぁぁぁ・・・。みんな、これはもう受け取るしか無いみたいね。彼の気持ちを汲んで、大切に使わせてもらいなさい。それとカルア君、みんなの剣には盗難対策を付けてあげて頂戴。して持ち歩けるようにね」

「はっはい! 分かりました」

「みんなもいいわね? あと、この剣の事は絶対に他の人に言っちゃ駄目よ?」


「うん・・・よし、分かったわカルア。この剣、大切に使わせてもらうわ」

「ああ、俺もだ。ありがとうなカルア!」

「もちろん僕もだ。それに秘密は絶対に守るよ。ありがとう」

「カル師、大切に使う。一時いっときも離す事無く」

「よかった・・・。みんな、ありがとう!」



「ああ、でもカルア、お祖母様にだけは報告しておくから。後できっちり叱られなさい」

「ええっ!?」


はあぁ、最後はやっぱりそうなるのか・・・

でも、ベルベルさんには最初に相談したから、きっと大丈夫! だよね?



そのあとみんなで小物や消耗品を買うために道具屋へ。

これも放課後授業の一環って事で、引率はクーラ先生。

必要となる色々なアイテムの説明とか、便利な使い方なんかも教えてくれて、すっごく為になった。3年間冒険者をやってたけど、まだまだ知らない事だらけだってよく分かったよ。

あ、ベルベルさんの店には行ってないよ。

別に叱られるのが嫌だったって訳じゃなくって、あそこはほら、魔道具屋さんだから。



みんな防具は持ってたから買う必要なし。2ヶ月くらい前まで剣術の実技授業で使ってたから、サイズの調整とかも要らなかったみたい。

よかった、防具も結構高いからね。


とまあそんな感じで、全部の準備が完了。

明日はいよいよ冒険者登録の日だ!





3連休最終日のギルド本部インフラ技術室室長室にて。

キュピーーーン☆

「おっと来たか。ラーバル君がんばってね」



3連休最終日の某王都在住エルフ宅にて。

キュピーーーン☆

「これが例の音か。だが今日は休校日、モリス氏の出番だな」

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