第16話 時空間魔法師ってすごい人でした
「それでブラック殿、ここからの我々の調査ですが」
「ええ」
「まずは先ほどの仮説に基づいて進めることとなります」
さっきの仮説・・・時空間魔法の適性者に反応して転移魔法を乗っ取るっていう?
「現時点でトラップが発動したのはカルア殿のみです。仮説を証明するには、少なくともあと数名は時空間魔法の適性者、それも高い適性を持つ者で確認を行う必要があります」
「なるほど。確かにそうですな」
「そして我々が行っているのはダンジョンに関する新しい発見の調査。つまり、高位の時空間魔法師に対し、高いプライオリティで召喚依頼することができるのです」
「!!・・・そういうことですか」
「そう、カルア君には彼らとの出会いが必要です。そして、調査の合間にたまたま時空間魔法の
凄い! 二人とも凄い!! 凄い悪い顔してる!!
『そうだな。お前さんは確かによくやってるよ。随分強くなった。夢だった騎士にだってなれるくらいにな。だがな、強いやつがみんな騎士になれる訳じゃあない。頑張るだけじゃあ駄目なんだ。いいか、目の前にチャンスが来たら迷わず掴め。しがみつけ。もし来なけりゃあ、自分から呼び寄せろ。チャンスってやつは気まぐれだからな』
そうか、これが騎士志望の少年に
チャンスは悪い顔して呼び寄せなきゃダメなんだ!!
「僕、時空間魔法師の人にいろいろ教えてもらいたいです」
「ええ。きっとカルア殿はそう言うと思っていましたよ。実は私、口が堅い高位の時空間魔法師に心当たりがあるんです」
「ほう、それはすばらしい。実は私もギルドの時空間魔法師に声をかけてはいるのだが、なかなか難しくてな」
「・・・その心当たりとは、冒険者ギルドのインフラ技術室長、モリス氏です」
「なんだと! ギルドの時空間魔法師のトップではないか。彼を呼べるというのか!?」
「実は私、モリスとは学生時代の同期で、今でもよく一緒に飲みに行ってるんです。ここの調査に来る前も彼と飲んでいたんですが、『何か面白い話があったらすぐに呼んでくれ。そうでもないと外に出る機会が無いんだ。僕に大義名分をくれー!!』なんてボヤいてまして」
「う、うむ。そうか。うちの上の者もなかなか大変なのだな」
「まあ、そんな感じだったので、私から正規の手続きで呼べばすぐ来ると思いますよ」
「そうか、それはありがたい。それでは早速手続きを頼む」
「ええ。こちらの進捗もそれ次第となりますからね。すぐに申請します。『ギルド間通信』をお借りしますよ」
そう言って、オートカさんはピノさんに連れられて奥の部屋へ。
「すまないな。できればカルア君にも見せてあげたいところなんだが、規則で関係者以外の立ち入りは禁止となっているのだ」
「ありがとうございます。大丈夫です。すっごく興味はありますけど」
「うむ。それでは私も少々席を外すが、カルア君はどうする? それほど時間はかからんからここで待っていてくれて構わん。それとも一度外に出るか?」
「いえ、ここで待ちます。調査団の方々もいますし」
「うむ、分かった。用があればピノ君かパルム君を呼んでくれたまえ。このベルを渡しておこう」
「はい。ありがとうございます」
さてと、調査団の人たちはなんだかみんなで難しそうな話をしてるし、僕はどうしようかなあ。
ホントは魔力トレーニングとかしたいところだけど、今日これからダンジョンに行くかもしれないし、魔力は使えないよなあ。
椅子に座ってぼんやりしていると、ピノさんとオートカさんが戻ってきた。
「ブラック殿はいないようですね」
「少し席を外すって言って、さっき部屋を出ましたよ。すぐ戻るそうです」
「そうですか。ありがとうございます。じゃあ我々も少し待ちますか」
「私、お茶のお代わりを持ってきますね。今あるカップは一旦下げます」
そう言ってピノさんはまた部屋を出る。
なんだかちょっと残念。
そしてまたぼんやりと。
お茶をもってきたピノさんがそれぞれにお茶を出している最中、ギルマスが戻ってきた。
「お待たせした。仕事がいろいろと溜まっていてな。隙間隙間に少しずつでも片づけていかないと追いつかないのだ」
「いえいえ、私もほんの少し前に戻ったところです。申請は無事に受理されました」
「おお、それは何より。それでモリス氏はいつごろ来られると?」
「もうそろそろ来るかと思います」
「もうそろそろ本部を出られるということかな」
「いいえ。もうそろそろ到着する頃かと」
そこにパルムさんが登場。
「ギルドマスター、インフラ技術室のモリス室長がお越しになりました」
「なんだと・・・、すぐにお通し・・・いや私が向かう。どこだ?」
「受付の所にいらっしゃいます。ここで待つとおっしゃって」
「私も行きましょう。私が呼んだのですからね」
申請したのがさっきで到着が今?
これもギルドの謎技術なのかな? でもそれにしてはギルマス驚いてたし・・・
なんて考えていたら、受付のあるほうからにぎやかな声が徐々に近づいてきて、
「こちらへどうぞ」
「いやー、すまないね。うれしくって大急ぎで支度してさ、もうそのままの勢いで転移してきたんだよ。一応ここに来ることは技術室には伝わってるから、まあ大丈夫だと思うけどね」
部屋は一気に賑やかになった。
「おや? 君が時空間魔法の子かな? なんだかそれっぽい気配がするね」
「はい、僕カルアと言います。よろしくお願いします」
「これはご丁寧に。僕はモリスだよ。それで君、いきなり魔物部屋に転送されたんだって? いやー災難だったねえ。まあ無事に帰って来れて何よりだったね。まあそれはともかく、時空間魔法の適性が高いらしいじゃないか。後で僕にも見せてくれるかい?」
「は、はい。もちろんです」
「うんうん、楽しみにしてるよ。それでオートカ、ダンジョンへはいつ行くんだい? 僕はもう今すぐでも行きたいんだけどさ」
なんだろうこの人。ものすごくよくしゃべる。
絶好調の時のご近所の奥様たちに匹敵するくらい。
「ダンジョンは今日この後行きますよ。メンバーは私とあなた、カルア君、それにうちのメンバーのラキ、タチョ、ウサダンです」
「ふむふむ、そうすると馬車は2台必要だね。君たちは調査団の馬車を使うんだろう? じゃあ僕とカルア君はこのギルドの馬車で行くとしよう。ブラック君、今日は馬車出せるよね?」
「ええ、大丈夫です」
あれ? ギルマス、どことなく緊張してる?
「よかったよかった。じゃあカルア君には道中色々と訊いちゃうから、包み隠さず教えてくれよ。オートカってば君についてはなんだか秘密が色々ありそうな口ぶりだったけど、ちゃんと秘密にするし悪いようにはしないから安心してね。こう見えてギルドの中じゃあちょっとしたものだからね、僕は」
チラッとオートカさんとギルマスの顔を見ると。
オートカさんはにこやかに頷く。
ギルマスは若干硬い表情で頷く。
表情は対照的だけど、きっとモリスさんのことは信用しても大丈夫ってことだよね。
「分かりました。全てお教えします」
「うん、よかった。さあ、それじゃあオートカ、まずは君の所見から聞きたいな。君のことだから色々な状況と情報からある程度の推測は出来てるんだろう? すべて僕に教えてもらえるかい。なんたって情報の共有は基本だからね。君のほうの準備は他のメンバーに任せられるんだろう? ブラック君ももちろん同席するよね? 君からもぜひ話を聞きたいなあ」
モリスさん圧倒的。ギルマスもなんだかやり辛そうだ。
僕なんか頷くしかできないんだけどさ。
「じゃあまずはカルア君の大冒険とそれに対する君の考えを教えてもらおうかな、オートカ」
「分かりました。じゃあ私の聞いた範囲での話をしましょう。詳細は後程当事者であるカルア殿から聞いてください」
「オーケー分かったよ。じゃあオートカ節のスタートだ」
そうして、オートカさんは僕がダンジョンで転送トラップに引っかかった時の話をモリスさんに伝えた。検証結果とそこから導き出した仮定も添えて。
「ふーむ、なるほどなるほど。いやあ、しかし聞けば聞くほど綱渡りだったんだねえ、カルア君! いやホント、よく生きて帰って来れたね君。もの凄い幸運なことだよこれは。なんというか、そうあれだ、『自分が生かされてるって感じることがないか?』ってやつ。なんだっけ、結構有名な物語でそんなセリフあったよね」
きっとアレだ。
『自分が生かされてるって感じることがないか? 俺はこれまで何度かあったぜ。そう、これ絶対死ぬだろうって局面で何故か生き残った時だ。生き残れるはずはないんだよ、あの状況じゃあな。で、そんなことが何度かあると、つい考えちまうんだ。自分には何かやらなきゃならないことがあって、それをやるまであの世が俺を拒絶してるんじゃあないか? ちゃんとやる事やってから出直してこい! ってことなんじゃあないか、ってな』
なんだか、いつもの自信満々な態度と違うちょっとヘコんだ
さて、どうやら調査団の皆さんは出発の準備が整ったみたいだ。
僕も持ち物チェック。あ、そうだ。
「ギルマス、鞄の貸し出しをお願いします」
「承知した」
「ああ、そういえばここのギルドの発案だったよね、魔法の鞄の貸し出し。なかなか好評みたいじゃない。これから需要がグンと伸びそうだね。僕たちもがんばって増産しなきゃね」
「え? あの鞄ってモリスさんのことろで作ってるんですか?」
「そうだよ。あれも時空間魔法によるものだからね。『収納』ってやつ。あ、でもその名前はあまり知られてないか。『収納』って魔法は使えるようになるとそのままスキルに変化するからね。『ボックス』スキルって言えば分かるかな? ほら、あの魔法って常時発動型でしょ? 寝てる時も使えてないと、朝起きたら部屋中魔物の死骸だらけなんてことになっちゃうよね」
おお、確かに。
「たぶん、だからスキルに変化するんだと思うよ。魔法がスキルに変化するその仕組み自体は分かってないんだけどね。まあそれはそれとして、『収納』を魔法として使うのは魔法の鞄に付与するときくらいだろうね」
「そうか、それだ!」
「うん? どうしたんだい、ブラック君?」
「カルア君の『スティール』は、彼の身を守るために秘密にしたいのです。そのためにはどう隠蔽や偽装したらいいのか、それをずっと考えていたのですが」
「ああなるほど。つまりカルア君に『ボックス』スキルを覚えさせて、それを彼の持つ唯一のスキルだと公表したいわけだね」
なるほど! それなら不自然じゃない!
「モリス殿、お願いがあります」
「カルア君に『収納』魔法を教えて欲しいってことだね。うん、いいよ。確かにこの状態じゃあカルア君が秘密を守り切るのは難しそうだ。ここは僕が時空間魔法師の
「ありがとうございます。これで一安心です。よかったな、カルア君」
「はい。ありがとうございますモリスさん。それにギルマスもありがとうございます」
なんと、時空間魔法師のトップに教えてもらえることになっちゃったよ!
僕、チャンスを掴んだよ、
「さあ、みんな早く馬車に乗って出発するよ! なんたってダンジョンが僕を呼んでるからね。ふっふっふ、魔物部屋も僕のことを廊下を長くして待ってるよ。廊下ないけどね。あ、カルア君、今日は君の出番は2回目からだからね。最初は馬車で待機ね」
「え? そうなんですか?」
「それはそうさ。なんたって、僕が入って発動するかの確認なんだからね。そこに君がいたら、トラップが僕で発動したのかが分からなくなっちゃうだろう?」
「あ、そうか」
「まあ安心してくれよ。地下への階段は君が合流した2回目に降りるからさ。最初はそのまま帰ってくるよ」
そうして、僕たちは馬車でフィラストダンジョンに向かった。
その車内では、モリスさんによる時空間魔法講座。なんて楽しい道中!
「いいかいカルア君、まずは時空間魔法の基礎からだ。時空間魔法で一番の初級魔法は『
ふむふむ、なるほど。
「まずはダンジョンに着くまでに魔法の概要と練習方法の説明だよ。そのあとはカルア君、僕が魔物部屋を堪能している間にひたすら反復練習、できれば僕たちが戻ってくるまでにある程度習得しておいてくれ」
「はい、頑張ります」
「じゃあ早速説明だ。『俯瞰』っていうのは、名前の通り自分の周りを上から見下ろすように把握する魔法だ。鳥の目線とか、高台から見下ろした景色を想像してくれればいい。人によっては真上からだったり
「なんだか想像できません」
「たぶん君が戸惑っているのは、
ん? それ知ってる。
「あのモリスさん。僕それやったことあります、光魔法の適性を調べようとして。真っ暗な部屋でやったんですけど、目では見えないのに頭の中に部屋の様子が浮かんで、どこに何があるか全部把握できたんです」
「なんと、それはすごい。カルア君、君もう空間把握の初歩ができかかっているよ。それが出来るのなら、あとはその拡張と応用だ。まずはその見える範囲を広げ、それができたら視点を上げる練習。いいね」
「はい、やってみます」
「その次は探知。最初は把握した空間の中にいる動物や魔物のことを探してごらん。それができたら、次は空間を把握せずに探す。探知というのは、自分の定めた方角や範囲のなかで自分の指定したもの、魔物や動物、植物やアイテムなんかもだね、それらを見つけ出す魔法なんだ」
こうして他にも色々教えてもらっているうちに、馬車はフィラストダンジョンに到着。
「さあ、カルア君はこれからひたすら反復練習だ。がんばってね」
「はい、がんばります」
「よし。おーい、オートカ! オートカァー!!」
「聞こえていますよ」
「さあ、早く行こう。ダンジョンが僕を手招きしているようじゃないか!!」
モリスさん、色んな意味ですごい人だ。
さあ、それじゃあ練習やるぞぉ!!
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