いじめられっ子が理不尽にも悪役令嬢に転生してしまったようです

華創使梨

第1話

春の麗らかな風は彼女を美しく見せるためになびき、桜、梅、桃、薄紅の花は彼女の赤に踏みつけにされ、美しさを奪われ、地面に咲く花は彼女のために咲くことしか許されない。犬も侍女も村人も彼女の母でさえ彼女を引き立てるためにあり、彼女の赤く鋭い瞳から出る視線に恐れおののき、ひれ伏す。これが魔法が使えない彼女の最大の魔法。

深紅のドレスに純白に輝くダイヤ。それ以上に美しく思えるのは細く柔らかい黒髪から覗くどのガーネットよりも紅く、冷徹なつり上がった瞳。

その瞳はいつだって人を見下し、イタズラしては人を苦しめる真っ赤な唇はいつも小さく笑っている。

ほら、完璧な悪役の出来上がり。

これは私を表す乙女ゲームの文章だ。彼女はここで一番語られる。

鏡に映る乙女ゲームの悪役令嬢、エリサに溜息をつき、三面鏡の前でうなだれる。

(うっそーーー)

ここは確実にファンタジーをモチーフにした乙女ゲームの世界だ。そして私は享年16の悲しき乙女ならぬオタク。

(最近はやりの異世界転生がまさかのゲーム転生??しかもバットエンドの悪役令嬢、8時間のゲームを100時間やりこんだ私の最も嫌いなキャラに、転生??マジで?うっそーん。)

とまあ、かれこれ一年間やっている自己嫌悪と顔作りをやった後、次女が来るのを待つ。

一年前、私はエリサとなった。自覚した頃にはもう全て遅くてバッドエンド回避ができない。全てが悪い方向にしかならない舞台の上でエリサを演じ、踊ることしか出来なくなっていた。私ごときが何をしたって無駄だと嘲笑われているようで、もう、何も出来なかった。

(大体設定時期からおかしいんだよ。なんで入学式初日からスタートなんだよ。あークソ。なんでいじめで自殺したらいじめっ子になってんだよ。そもそも私なんか転生させてなんの得があるんだっての)

ふかふかのベッドに寝転んで自傷痕のない細くてしなやかな手を見てため息をつく。

(私(いじめっ子)なんかになりたくないって思って生きてきたのに、役割がこれじゃあ苦しいのは変わらないじゃない。)

考えただけで目に涙が出てきてしまう。

「グズ」

「にゃー」

足に包帯を巻いた黒猫が私の顔を舐める。頭を撫でると、嬉しそうに首を振る。

「心配してくれてるの?」

「にゃー」

「ありがとう。これで頑張れるよ」

トントン、「失礼します」問答無用に開かれたドアに背を向けて隠れて涙を拭う。

「あの、エリサさん。おはようございます。」

聞き覚えのある声に私は慌てて振り向く。

そこに居たのはノアだった。

金髪のボブヘヤーにぱっちりと開かれた水色の優しい瞳、可愛らしくひょっこり出てるアホ毛が揺れて彼女の愛らしさがより出ている。ピンクのカーディガン、薄茶色のプリーツスカートに膝上まである黒靴下姿は明らかに一般用の制服。彼女はこのゲームの正当なヒロインであり、この学校の異例の入学者。

(何故ここに?本来彼女が私のところに来るはずはない、私と彼女は険悪な仲を保って居たはず、、)

照れくさそうに優しい笑顔で私に教科書を差し出してくる。

「あの、ありがとうございました。」

(ふおおおお!可愛いっ!この笑顔が私の癒しっ!!)

抱きしめたい気持ちを必死に抑えて長いまつ毛を揺らして見下すように

「あなたが何故ここに?まさか下民風情が私と関係を持とうなどとバカを考えているのかしら?」

「あ、えっと、この教科書を、私の机の中に入れてくださったの、エリサさんですよね?」

(あ、これやったらバレるんだ。)

「さぁ?なんのことかしら?あなたと居ると下民の土臭い匂いが移るから早く出ていって欲しいのだけど」

どこまでもしらを切る私に、頬を小さく膨らませる

(やっば、ノアちゃんかわ)

大体、彼女の教科書を使えなくした張本人は私であり、教科書を借りて一夜ですべて写したノートに墨汁をかけて使えなくしたのは私の取り巻き達だ。

そんな人間に話しかけ、お礼を言ってくるノアの寛大心私は驚きを隠せない。

ノアは私の手を掴んで顔を近づけた。

「私は、エリサさんが本当はすごく優しい人だと思います。何故、私にいじわるをするのか、分かりませんが、でも、エリサさんはいつも裏で助けてくださいます!その理由が分かるまでエリサさんが嫌と言っても理由がわかるまで離れませんからね!」

「えっ結婚しよ」

「え?」

「ヴっうん!!」

(あまりの可愛さについ心のこえが。)

「まさか貴方、私と仲良くなる為だけに朝からここに来たの?ふ、飛んだバカね。一時の優しさに絆されて本当になにも考えてない。視界に入るだけで腹立たしいからさっさと出て言ってくれないかしら?下民」

そう言ってノアの顔に当たるように手を振り払って教科書を押し付ける。

「...絶対に諦めませんからね!」

涙目になっているノアは足速に部屋を出て行った。

(...なんか、変なことになり始めてる??)


昼、食堂で学食のカレーを食べている生徒を横目に取り巻き達とお上品なコース料理を食べていた。

「学校でコース料理かよ」「やめなよ、聞こえたら退学させられちゃうよ」「でも、、、」「関わらない方が吉だよ」「チッ」

(学食いいなぁ。カレー食べたい。)

エリサはこの学校の校長の娘で、そうと甘やかされ、だいぶ歪んだ正確に育った、、、らしい。実際はようわからん。正直、自分はこんなコース料理なんて食べたくは無いし、出来れば普通の大鍋で作られるようなご飯が食べたい。それを言っても今の状況じゃ嫌味でしかないから、腹立たしい。エリサが執拗以上にノアちゃんに執着しているのは、、、

「エリサ、ちょっといいかい?」

取り巻き達の黄色い悲鳴と共に振り返れば二人の人物がたっていた。

攻略キャラの王子様系イケメン、ヨシュアと、不良系イケメン、エース

ヨシュアのサラサラの金髪に黄色い目。通った鼻筋に綺麗な形の唇。少し太い眉は彼の顔を耽美に、凛々しくする。制服も一般のものではなく、紋章の入った物だ。ヨシュアの青年らしい顔立と成績トップの主席入学という事はが学校中がわかっている。それなのに何処かふわふわしていて誰からも好かれる人物だ。そして彼はエリサの許嫁だ。

これでよくポテチつまみ食いしてるところ見つかるのか、、、可愛い

エースも、頭のは良く、浅黒いの肌にキリッとした蜂蜜色の目。ヨシュアのように通った鼻筋はワイルドの中に気品を感じさせるが、気崩された制服と周りを睨みつける眼光で誰も関わらない、それで白髪。この見た目で得意なのがヴァイオリンというギャップ。最高。

ヴ、ヴン!ゴホゴホん。

エリサがノアに執着しているのはこの二人が攻略対象であり、ノアとどっちかがくっつけばエリサの華族立ち位置が危ぶまれる危機感から。

ぶっちゃけ、華族云々より、魔法がろくに使えないエリサより、なんかすんごい魔法使うノアちゃんの方がいいと思いますけどね?!

口の中に入れたレアステーキを飲み込んでできるだけ上品に立ち、

「ヨシュア様、エース様、如何致しましたか?」

「はい。二日後、とある貴族のパーティーに誘われているんです。」

「あら、素敵でございますわね。」

「それで、貴方に来ていただきたいのです。」

「なんですって?」

優しい笑みでヨシュアは私を見る。

「急な話で申し訳ありません。どうか聞きいれていただけませんか?」

取り巻き達が私に「さすがエリサ様ですわ!」「お綺麗ですもの、当然よ!」と言葉をかける。私も同様しつつ応じる。

「え、ええ、喜んで!」

「ありがとうございます。」

(おかしい。ヨシュアは私をだいぶ嫌っているはず。何より、この時来るのはエリサでは無く、ノア。ここは誰を選んでも変わらないのに、、、)

「どう致しましたか?続かしい顔をして。」

「いやおかしいなぁって。」

「え?」

「ん?あっ!!!いや、、ヴッウン!!なんでもございませんわ!では二日後楽しみしていますわ。ヨシュア様。」

「ええ、お願いします。」

「はい。それでは。」

小さくお辞儀してそのまま取り巻き達と立ち去る。横でずっと「凄いですわ!」「さすがエリサ様!」「ずっとおそばにいさせてくださいな!」と擦り寄りながら喚き散らす。

(こいつら後半裏切るんだよな〜早く切りてぇ〜)

微笑んで「ええ、ありがとう」と返しながら周りを見ると、ノアが取り巻き達に踏みつけられた大切に育てていた花を持って厨房の方に入って行くのが見えた。

(花の種、購買にあったけ)


二日後。

豪華な赤い衣装を着せられ、貴族が開くというパーティーに向かうため、学園の校門前に行くとヨシュア、エース、ノア、の三人が馬車の前で立っていた。ノア?!?!

「おはようございます!エリサさん!」

人懐っこい笑顔で私に手を振り近寄ってくる。

「な、何故あなたが?」

「貴方を誘ったのはノアですよ。」

ヨシュアが作り笑顔を私に向けている。

(あーなるほど。イベントの主旨自体は変わってないのね。そりゃそうか。)

「そういう事でしたか。」

「はい!」

「なぜ誘ったの?馬鹿なの?」

「私はあなたと仲良くなりたいだけです!」

「はぁ、めげないわね。」

「はい!」

いい笑顔で返事をする。視線を外して後ろを見ると、イケメン二人がものすごく不機嫌そう。私は頭を抱えた。

「褒めてないわ」

馬車に乗り込んで出発した。当たり前だが馬車内は地獄みたいな空気だ。ノアが私の隣に座るのも相まって目の前の二人がものすごく不機嫌。隣のノアはものすごく楽しそうで尚更不機嫌になる二人。

(怖っ)

目を合わさないようにずっと窓の外を見る。見ると、白鳥の群れが湖のほとりに休んでいた。

「白鳥、、、」

太陽の光でぼんやりと光る翼は天使の羽のようで日本にいたら絶対に見れない景色だ

「お好きなんですか?白鳥。」

ノアが私に質問してくる。ぐいっと顔を寄せてたせいで凄く近い。

「初めて見るだけなの。少し離れましょう?ノアさん。」

「あ、すみません」

ずっと黙っていたエースが口を開いた。

「なぁノア、こいつを連れてどうすんだ?ノアには悪いが、俺には全くこいつの実用性を感じない。どころかお前もヨシュアも俺も目障りにでしかないだろ。」

(全くもってその通りさすが我が推し。鋭いところをつくね〜!)

「そんな!事、、、」

「あるだろ。俺もヨシュアもコイツがノアにしてることは分かってる。正直俺は今こいつの透かした面を殴りたくてたまらない。それでも一発殴らしてくれたりするのかクソ女。あ?」

エースが拳を震えさせる。

(殴れや、止めろや、アホ。拳が来ないのは私の立場をわかってるからなのか、それとも、ノアちゃんの前で暴力はやりたくないからかな?それだったらちょっとほっこりすんだけど!!!キャ!)

「ふふ」

「何がおかしい。ここで見栄を張ってもバカで出るだ、、、」

それ以上エースが言葉を続けることが出来なかった。渡したの乗っていた馬車が大きな音と共に横転し始めた。

瞬時にヨシュアに引き上げられて馬車から脱出する。横転する豪華な馬車の周りを囲うのはこの辺りを縄張りにする盗賊達

「これは困りましたね。」

ヨシュアが苛立ちの瞳で周りを見渡している。

槍を私達に向けて、動けないようにしている。だが、そんなことはお構い無しにエースは飛んで数人の男の顔面を殴る。

(ぶ、物理〜、魔法使えよ魔法)

そのままアクロバットな動きで周りにいる盗賊を蹴り飛ばしていく。

(うぉぉ!どんどん倒れていく!)

エースを押さえようと盾で迫ってくる奴らに拳を当てると、盾がお鍋のように凹み持っていた人間は吹き飛んだ。

「精霊よ我の名のもとに風を起こせ」

ヨシュアが呪文を唱えると、強い風邪が起こり、投げられた槍を跳ね返す。

(すごい!!!風魔法の応用!!!)

「おいおい、この程度で俺たちに喧嘩売ったのかぁ?!」

エースが盗賊を煽り、裏で魔法を駆使してとどめを刺すヨシュア。二人の息の合い具合に私は圧倒的されてしまった。

(これが二人の実力なんだ!凄い!!)

「おい!こいつがどうなってもいいのかぁ?!」

賊長がノアを踏みつけ、槍を当てがえていた。

「いいか、魔法使うんじゃねぇーぞ!」

エースとヨシュアは体勢を戻して睨みつける。武器を取り戻した盗賊達はまた私達を囲い、一気に集中している。

(ヤバイ、どうしよ)

「チッ、クソッタレ。」

今動けはノアに危害が行くため二人は苛立ちながらじっとしている。踏みつけられるノアを見て、過去の自分が重なる。

(バカバカ、今はそんなことを考えてる暇はない。)

頭を振って考えを取り払う。その姿を見てヨシュアが

「策が思いつきましたか?」

「いいえ全く!」

そう答えればエースに罵られた。

「チッ使えねぇな、クソ女」

(ホントにね!!)

「ぐあう」と唸り声をあげるノアを笑う盗賊。そしてまた、重なる。踏みつけにされて助けを求めてもクラスメイト笑うばかり、油性ペンで書かれた暴言だって、どんなに消しても消えなかった。泣いたってものを投げられて終わりだった。先生だって、何もせずにただ見てた。

「エリサさん、、、」

小さく私の名前を呼ぶノアに、私はどんな顔をしていいのかわからない。

『私、エリサさんと仲良くなりたいです!』

いじめてる張本人にそんなことを言えてしまう、馬鹿な子。その優しさと愚かしさが他人の心を治す優しい子。でも、もし、この言葉が、エリサではなく、私に言っていたのだとしたら?

ノアが私と目を合わせてしっかりと言った。

「助けて下さい。」


瞬間、大量の白鳥が空へ舞った。


あの時、私が絶対に言えなかった、言っても無駄だった言葉。なら、今、彼女が見てるのがエリサでない、私なら、、、私が無下にしちゃだめでしょ

(痛みを知ってる私が、無視しちゃだめでしょ!)

ヨシュアとエースを後ろに引いて私が、前に出る。

「おい」

「ちょっと」

二人がなにか言おうとするが、私がそれを遮っる

「ふふ、盗賊さん、この私にそんな口を聞いていいのかしら?」

「なんだと?!」

「私は令嬢よ?この私が乗る馬車に土を着け、ドレスを汚した罪は重いわ。」

顎を引いて相手を見据え、ゆっくりと近づいていく。相手が少したじろいだところをしっかり確認して、

「その上、私の許嫁と番犬に槍を向け、友人を足引きに使うなど言語道断。」

エースが小さく「誰だ番犬だ」と、毒づくが後ろで二人がいつでも攻撃できる体制に入っている姿は待てをされた番犬だ。

「私がまだ本気で怒っていない間に逃げてしまいなさいな。」

ノアを踏みつけている賊長にできるだけ体を密着させ、ノアから足を退けさせる。

賊長は私の髪を鷲掴みにし、持っていた小さいナイフを私の首に押さえつけ血を滴らせる。

「なめやがって、このままかき切るぞ」

私は、おおきく鼻で笑って

「やってみなさいよ。出来るのなら。」

「っ!」

怯んだ。

「ヨシュア!!」

「っ、はい!」

賊長を蹴ってノアに覆い被さる。髪の後ろを風魔法が通り、賊長が情けない声を上げながら吹き飛ばされて言った。賊たちは賊長を追うようにそのまま退散していく。

(お、終わった??)

「はぁー、疲れた。」

「エリサさん、そろそろ、、、」

「え?」

下を見ると、ノアの水色の瞳と目が合った。私がノアを押し倒している形になっていた。

(・・・っ)

「うきゃぁぁぁあああ!」

盛大に悲鳴をあげて、飛び退くと、花の香りが遠ざかった。

「あの、エリサさん?」

「なっ!なに?!お嫁には貰えないわよ!!」

「何を言ってるんですか?エリサ」

「うっさいヨシュア!ア゙ア゙、もう!ともかく!少しほっといて!」

「エリサ?」

(いい匂いだった、産毛わかった、胸デカ!てかさっきエースとヨシュア私の事守ろうとした?!ぇぇぇぇ!尊い!やば!)

「エリサさん」

「何!!」

ノアが私の隣に膝をついて、

「ありがとうございました。友人って言ってくれて嬉しかったです。もう一度、改めて言わせてください。」

いつもの柔らかい笑顔で私の手を握る。

「私とお友達になってください。」

「でも、私は、、、貴方を、、、」

いじめている。言葉が出なくて、うつむいてしまう。

(私は悪役なのに、余計な事をしてしまった。)

「エリサさん!」

「っ、」

「私は、私はエリサさんがいいんです!ずっと苦しそうに笑っていた、エリサさんに、本当に笑顔になって欲しいんです!」

ポロポロ自分の目から涙が出てくるのがわかった。

「わ、私でいいの?」

「はい」

優しい声にどんどん心が解放されていく。

「くっ、、、ぐず、よろしく、お願いします。」

ノアは優しい笑みから嬉しそうに目を煌めかせて

「はい!!お願いします!」

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