「ていうかそもそもさ、追いつけてたとしてもおれはなにができたんだ? もちろんこのときのおれは考えてないけどさ、こんなこと。こんなこと思いつきもしなくて、ずっと怒ってて、ただくやしくて、何回目かわからないけどふざけんなって思って。


 で、自転車とめて、っていうか横倒しで。

 一旦おりて、へたりこんで。

 めちゃくちゃに息が切れてて。

 もうなんかよくわかんなくなって。

 で、ちょっとして急に思いついたんだ。


 もしかして、あのトラックにお前、乗ってないんじゃないか? って。


 もちろん今のおれはそのトラックにお前が乗ってないって知ってる。


 ていうか、引っ越しのトラックにはもともと住んでた人は乗せちゃいけないんだって、そういう決まりがちゃんとあるんだって、母さんにあとから教えてもらった。なんでこういうこと教えてくれないんだ? 学校とかでさ、ほら、社会科とかで。引っ越したことなんてないしさ、知らなかったよおれ。


 それであのときのおれだ。あのときのおれはそんなことは知らなかったから、理由があってそう思ったわけじゃなかった。そうだったらいいって、それだけだった。今からでもまだ間に合うとしたら、お前に会えるとしたらそれしかないなってだけだった。


 で、じゃあどうしようかって。今のおれだったら引き返せばいいって考えられる気がするけど、あのときのおれはお前がもう家にはいないって思ってたから、思い込んでたから、それは無理でさ。


 それで駅に向かうことを思いついた。お前の家、車はなかったはずだって思い出したから。だってうちの車に乗って、キャンプ行ったりとか、花火行ったりとか、海行ったりとか、したよなって。そういうの思い出して。だからお前がおれに黙ってここからどこかに行っちゃうなら、ぜったい電車を使うはずだって。


 思いついたから、すぐ自転車に乗り直して。

 走り出した。

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