第5話 宝箱vs人間1
「<転移>」
恭一はそう呟くと、静かに女性の
「<
続けて光魔法を詠唱すると、部屋の中を
「うぉっ! 目が……っ!?」
「ちくしょう、何も見えねぇぞ!」
突然の出来事に驚いた男たちは、目を
「ぎゃあっ!」
「ぐああっ!」
足を斬られた男はバランスを崩して転ぶと、痛みのあまり地面をのたうち回る。残るはリーダー格の男であるダミルと仲間が三人だ。しかし、彼らはようやく光に目が慣れてきたのか、徐々に視力を取り戻していく。
「てめぇ……何者だ!」
仲間の男が恭一の姿を見て驚きの声を上げた。まぁ、当然の反応だろう。目の前に鉄の剣を持った宝箱が現れたのだから。
「ちっ、こいつは宝箱に
ダミルは苦々しげな顔で言うと、
「お、おう、わかった!」
「くそっ、仲間の仇だ!」
男は我に返ると慌てて杖を振りかざし、魔法の詠唱を始めた。他の男たちも各々武器を手に取り、身構える。
「くたばりやがれ! <
どうやら、男の一人は魔法使いらしい。詠唱が終わると、杖の先から野球ボールほどの火の球が飛んでくる。
(ちょっと熱いな!)
火の球がぶつかる瞬間、宝箱の体が熱くなるのを感じて少しヒヤッとしたが、<自動修復>のスキルで瞬時に修復される。鉄の宝箱にランクアップしている恭一の体は、この程度の魔法なら
(木の宝箱だったらヤバかったかもな。念のために防御魔法もかけておこう)
そんなことを考えている間にも男の放った<
「くそっ、なんて硬さだ! あの野郎、全然ダメージが入ってねぇぞ!」
男は驚きながらも、まだ攻撃をやめようとしない。それどころか、より威力の高い魔法を使おうとする素振りすら見せており、さすがに無傷とはいかないだろう。
(転移すれば問題ないけど、俺が逃げたら彼女に魔法が当たるし……)
恭一は真後ろの女性に視線を向けながら、鉄の盾を持って男の魔法攻撃を防ぎ続ける。その間にも、ダミルや他の男たちは攻撃の機会を狙っており、いつ襲いかかってきてもおかしくはない。
(うーん、さすがに厳しいかもなぁ)
このままではいずれ押し切られると判断した恭一は背後で座り込んでいる女性に小声で話しかけてみた。
「あの、俺の声って聞こえてますか?」
「えっ!? あ、ああ、聞こえているが……」
彼女は一瞬戸惑いを見せた後、恭一を警戒しながらも、そう返事をした。突然、宝箱が話しかけてきたのだから驚くのも無理はない。恭一は女性を安心させるように丁寧な言葉遣いを意識して話を続ける。
「それでしたらよかったです。このままだとジリ貧っぽいので、俺と一緒に戦ってくれませんか? あっちのリーダー格の男は手練れなので俺が相手をします」
「私としても奴らを倒したいところだが……見ての通りあまり動けなくてな。すまない……」
女性は力なく言うと、再び悔しげに顔を歪める。
男たちに手酷くやられたせいなのか彼女の全身は傷だらけで、とてもではないが戦えるような状態ではなかった。
(まずいな。かなり弱っているみたいだし、先に回復しておくか)
「大丈夫です。俺に任せてください」
恭一はそう言って安心させると、<
その様子を見ていたダミルが目を丸くして叫ぶ。
「魔物が回復魔法を使うだとっ!?」
どうやら魔物が回復魔法を使うのは珍しいようで、信じられないと言わんばかりに驚愕していた。
(よし、これでもう大丈夫そうだな)
宝箱としてのランクが低いために完治とまではいかないが、それでもある程度は回復することができた。これならば多少は動けるはずだ。
「すみません、あまり回復できなくて……立てますか?」
「……あぁ、ありがとう。何とか立てると思う」
彼女は自分の体を確認すると、よろめきながらも立ち上がった。そこで、改めて男たちに向き直ると、鋭い目つきで睨みつける。その表情には激しい怒りの色が浮かんでいた。
「よくも私を騙してくれたな……。貴様らはここで絶対に倒す! 生きてこの迷宮から出られると思わないことだ!」
彼女はそう言うと、恭一が手渡した鉄の剣を構えた。鉄の盾も渡そうとしたが、速度重視の戦闘スタイルらしいので剣だけで戦うことにしたようだ。
「魔法使いの方はお願いします」
「承知した!」
彼女の返事を聞くと同時に、恭一もまた二本の鉄の剣を構えて戦闘態勢に入る。これでようやく二対四の戦いになるわけだ。とはいえ、女性の怪我はまだ完治しておらず、剣を振るうのもやっとという状態だろう。そのため、実質的には一人で四人を相手にするようなものだ。
(だけど、まあ、やってみるか!)
このまま座していても魔物と知られた以上、間違いなく殺されるだけである。それなら、最後まで
「てめぇ……ただの魔物じゃねぇな? 何者だ!」
ダミルは忌々しげに舌打ちをして、そう尋ねてくる。
「俺は……宝箱の魔物だよ!」
言い終わると同時に<
(速いっ!?)
恭一の反応が追いつかない速度で攻撃を仕掛けられ、危うく直撃を受けるところだったが二本の剣を交差させると、そのまま弾き返す。だが、ダミルは勢いを殺すことなくさらに一歩踏み込み、短剣を水平に振り回してきた。
(くそっ! これは避けられない! <
咄嗟に防御魔法を唱えた瞬間、甲高い金属音が鳴り響き、宝箱の左側が大きく切り裂かれた。
(なっ!? まさか、斬られた!?)
防御魔法のおかげで大ダメージは受けなかったものの、まさか防御力を強化した鉄の宝箱がこうも簡単に斬られてしまうとは思ってもいなかった。
慌てて確認すると、宝箱の蓋部分にも切り裂かれた跡があり、左側面には大きな亀裂が走っている。<自動修復>ですぐに修復されるが、これでは時間稼ぎにしかならないだろう。
「ほう、さすがに硬いな。だが、いつまで耐えられるか楽しみだぜ」
ダミルは不敵な笑みを浮かべながら、さらに加速して次々と攻撃を放ってくる。しかも左右だけではなく、頭上からも襲いかかる斬撃は凄まじく、次第に防戦一方になってしまう。
「宝箱殿、大丈夫なのかっ!?」
「な、なんとか、平気です!」
女性の声に恭一は強がりを見せるものの、状況は悪くなる一方で徐々に追い詰められていく。このまま攻撃を受け続ければ、そのうち修復不可能なほどの傷を負うのは明白だった。
(くそっ! <自動修復>が間に合わない……!)
何とか時間を稼ごうと聖属性魔法や鉄製の武器を使ってダミルの攻撃を凌いでいるが、<自動修復>の効果範囲を超えてしまい、ついには左腕が完全に使い物にならなくなってしまう。それでも恭一は右手一本でも戦おうと覚悟を決めるが、ここで予期せぬ出来事が起きた。
『恭一、大丈夫かい?』
『ミディア様!? あ、はい、どうにか生きてます。でも、今はギリギリの状態でして……』
『うーん、そっかぁ。どうしようかな……』
いきなり脳内に聞こえてきたミディア様の声に驚きながらも、何とか返事をする。どうやら、彼女は恭一に伝えたいことがあるらしい。
(だけど、今は話せる余裕がないんだよな)
恭一は右腕だけでダミルの攻撃を防ぐので精一杯であり、とても会話ができる状態ではない。それでも、あの日に恭一を助けてくれたミディア様を
そんな恭一の心を読み取ったのか、ミディア様は呟くように言葉を続ける。
『……ありがとう、恭一。本当に助けてもらったのはこちらの方だよ……。とにかくボクはね、ずっと前からキミを見ていたんだ……』
『す、すみません、ミディア様! 今は戦闘中で声が聞きとれなくて……』
恭一が思わず聞き返すと、彼女はクスッと笑うような気配が伝わってくる。
『今はまだ内緒にしておいてあげるよ。それでボクの用事なんだけど、キミにプレゼントがあるんだ!』
プレゼントという言葉を聞いた瞬間、何かが体の奥底から溢れ出るような感覚に襲われる。そして次の瞬間、全身を包み込むような温かい魔力を感じた。
――ピコン! <守護者・聖>を修得しました。
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