14話 先への準備
「お母さん、私、話があるの」
昨夜、私はスタジオ内でお母さんに今の私ができる演奏を聴いてもらった。
そしてとても厳しい言葉ももらった。
お母さんはその気持ちがあるなら今すぐにダイビングセンターをやめるべきだと言った。
「私はケジメだけはつけたい。大丈夫だよ。私、わかったんだ。お父さんはあの岩の上に居続けようと思っていたんじゃない。あの岩からさらに先の世界に行こうと思っていたんだって。だからどうか春まで待ってほしい」
「わかったわ、蒔絵。じゃ、それまでにお母さんはできる限りのことをサポートする。もちろん、おじいちゃんにも人肌脱いでもらうから。でも覚悟はしておきなさい。厳しいわよ」
「はい」
その日から昼はダイビングセンターで働き、夜は母から厳しいバイオリンのレッスンを受けることとなった。
****
秋になると着々と『
私はガイドロープやダイビングエリアを知らせるブイの取り付けなど手伝いながら「荻浦」の海を存分に潜らせてもらった。
施設内では受付や他の仕事の合間に水中マップの作り方をオーナーに教えてもらったり、生物に関しては佑斗さんにアドバイスをもらった。
うれしい事は、特徴ある岩や洞窟の名称を私が付けてもいいということだ。
私が付けた名前が後々まで残っていくのだ。
やはりインパクトあるのはゴロタを降りたところから大きく切り立つ岩壁とその真ん中に空いた洞窟だ。
そのゴツゴツした岩肌とハングした上の部分が顎のようなことから、わかりやすく『ゴジラ岩』と名付けることにした。
そしてその壁に空く穴の名は間違いなく『ゴジラの胃袋』だ。
その穴にクエがいたなら、『ゴジラの胃袋にクエが収まっているぞ! 』という事になるのだろう。
冬になると『荻浦』のエントリー・エキジット口はコンクリートで舗装され、海の中にはガイドロープが張り巡らされた。
同時に
私の水中マップはオーナーからのお墨付きをいただいてついに完成。
マップの左下には、おこがましながらも私の名前を入れさせてもらった。
海中は12月を過ぎると週ごとに水温が下がっていき、今では浅場にいる華やかな魚たちの数も減り、岩陰に隠れるフウライチョウチョウウオも凍えているように見える。
ダイビングのゲストも少なくなり、ヘルプスタッフである佑斗さんの出番はほぼなくなってしまった。
私はというと、進むべき道へ戻る準備として、母からの数々の厳しい課題をこなしている。
その為、ダイビングセンターへの出勤日も週2~3と減らすこととなった。
佑斗さんとは、すれ違いで会えない日が多くなってしまった。
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