22.なかなか起きられない人っているよね

 ジリリリリリリッ!

 非常ベルのようなけたたましい音で目覚めた。動物たちも何事かと跳び起きたようだった。

 ああ目覚ましか、と思ったけど、かけた主はうるさいとばかりに布団に潜り込んだ。ら、フェンに布団をはぎ取られていた。

 非常ベルのような音がうるさい。


「うう~、うるさい~……」

「……止めろって……」


 俺は苦笑した。昨日までは遅く起きてもそこは自己責任だったから和人も目覚ましはかけていなかったのだ。だが今日からは学校が朝からある。

 ブーブーブー。ウサギたちが抗議の声を上げた。ミラとモルルンが和人の顔の上にのしっと乗った。


「ちょっ……ミラ、モルルン、それは近藤君が……」


 起こすどころか永眠しかねないと慌てて跳び起きたが、和人は二匹を顔ごと抱きしめていた。


「ふがふが……んー、きもち、いい……いいにおい~……」

「おーい、近藤くーん!」


 くんかくんかと、ミラとモルルンを嗅いでいたらしい。大物だなと思った。でも目覚ましの音がうるさいと怒っている二匹は和人の顔の上で足踏みみたいなことをしたようだった。


「んー、かわいいけど痛い……」


 やっと和人は手を伸ばして目覚ましを止めた。


「っはー……死ぬかと思ったー……」


 そうじゃないだろ。


「山倉君ごめんねー。なかなか起きられないからさー……」

「うん、朝飯食べに行こう」


 寝ぼけ眼の和人を促して顔を洗ったり着替えをさせたりして、どうにか朝飯を食べに食堂へ向かった。


「……うわぁ……」


 食堂にいる生徒の数を見てか、和人はやっと目が覚めたらしかった。

 言っちゃ悪いけどどっからこの数出てきたんだろう。


「いっぱいだな……って登校は同じ時間なんだからこんなもんか」


 そう言いつつ列に並んで思い思いに食べ物を取り、適当に空いた席に腰掛けて朝飯を食べた。昨日までの優雅さどこいった。なんか、食べてる物は変わらないし時間にも余裕はあるはずなんだけど気忙しい。

 食べ終わったトレーをワゴンに片付けて部屋に戻る。

 窓の鍵は開けておいたのでみんな思い思いに朝食を取りに行ったようだった。なんつーか、食べ物も用意しなくていいんだから楽だよなと思った。

 急いで支度をして学校へ向かう。みんな向かう場所は一緒だからまさにぞろぞろというかんじだった。ちょうど人が多い時間にあたってしまったのかもしれない。


「……食堂でも思ったけどさ、こんなにいたんだねー」

「全部で何人だったっけ? 一年だけで132名って聞いたけど……」


 そんなことを話しながら畑に差し掛かる。藤木先輩がにこにこしながら動物たちに餌をあげていた。うちのウサギたちやモルルンもいたようである。


「おはようございます、ありがとうございます!」


 藤木先輩に手を振って礼を言うと、「気にしないでくれたまえ!」と返ってきた。ところであの先輩はいつ登校するんだろうか。麦わら帽子と首にかかっている手ぬぐいが眩しいなと思った。


「じゃあまた~」

「今日は昼までだよね~」


 今日はオリエンテーションだけだが給食が出るらしい。給食を食べてから下校だと聞いた。

 クラスに向かうと、もう半分ぐらいの生徒が席に着いていた。皆特にやることもないんだろう。


「お、おはよう、山倉君……」

「ああ、おはよう。河野さん」


 河野さんが赤い顔をして声をかけてきたので挨拶を返した。他に動物と暮らしている女子生徒が軽く手を上げる。気のせいかもしれないと思ったがこちらも手を上げておいた。


「おはよう、山倉君」


 その女子生徒が俺の席のそばまで来た。


「おはよう、木戸さん」

「動物ってウサギだっけ?」

「うん。木戸さんはキツネザルだったっけ」

「そうなの~。とってもかわいいのよ。今度顔合わせしない?」


 木戸さんは長い茶色っぽい髪をポニーテールにしている女の子だった。


「いいけど……うちのウサギたち嫉妬深いからどうかな」

「ええ~、かわいいねー。普段どうやって過ごしてるのー?」

「うーん? 普通?」


 どういった生活が普通なのかわからないが、とりあえずそう答えてみた。


「フツーって面白ーい!」


 テンションの高い子だったみたいだ。俺の周りにはいなかったタイプだな。って、中学では男子同士でつるんでいるのが普通だったからこんなに女子と話す機会なんてついぞなかった。昨日はしかも混浴だったし。ここに来てから戸惑いっぱなしである。

 ふと視線を感じてそちらを見やると、他の生徒たちに凝視されていた。注目は浴びたくないものだ。

 困ったなと思っていたらチャイムが鳴り、助かった。


「じゃあまた後でねー」


 と木戸さんは笑顔で手を振り、席に戻ってくれた。女子が嫌なわけではないが、慣れない経験ばかりを短期間でしているかんじで頭がパンクしそうだ。

 支度、といってせいぜい筆記用具を出すぐらいである。教科書は今日はいらないと言われていたから少し手持無沙汰だ。

 次のチャイムが鳴った時、担任の稲荷田先生がやってきた。


「おはよう。赤羽君、日直よろしく。きりーつ、礼、ってよろしくなー」


 出席番号一番の生徒がさっそく犠牲になり、挨拶をした。先生は教壇から教室内を見回した。


「よし、今日は欠席者はなしだな。もしも登校前に気分が優れなかったらルームメイトに頼んで寮監に言うように。それから、まだ大丈夫だとは思うがどうしても家に帰りたくなった奴は俺か寮監に言え。ヘリは週二回行き来するから、それに乗って帰ることは可能だ」


 赤羽君がそっと手を上げた。


「はい、赤羽君」

「あの……それって退学するって、ことですか……?」

「退学するかもしれんし戻ってくるかもしれん。一年間は留年させてやるが、それ以上の留年は教育費、食費もろもろも負担してもらうことになる。それを決めるのは君たちだ」


 そっか、そういうこともあるよな。シビアなようだけどなんか納得した。

 HRの後、俺たちは校舎内を巡ることとなった。

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