21.部屋でごはんを食べさせるのもたいへんだった
その後はクラス分けの話とかいろいろ雑談をした。ウサギのごはんを持って帰る約束をしていたので適当なところで切り上げて戻ることにした。
動物の餌(一部)が必要な方はここで声をかけてください、と張り紙がしてあるところから声をかけたらおばさんが出てきた。なんというか、愛嬌があって見たかんじタヌキっぽいなと思った。失礼だろうか。
「はいはい、なんの動物かしら?」
「ウサギです。手のひらサイズの子が三匹と、あとモルモットが一匹、それからオオカミが一頭です」
和人と確認しながら答えたらおばさんがびっくりしたような顔をした。
「あらあら、二人で五匹もお世話してるの? たいへんねぇ。なにかあったら声かけてね。どこの部屋? 明日にでも見に行くわ」
「あ、はい……ええと、明日は学校があるんですけど……」
なんで見に来るんだろうと思った。食事量のチェックだろうか。
「夕飯の後にちょっと確認するだけよ。明日は夕飯の後に声をかけてちょうだい。一緒に行くから」
「わかりました。山倉といいます。こっちが近藤です」
「私は田貫(たぬき)というの。よろしくね~」
まんま名前がタヌキさんだったらしい。覚えやすくていいなと思った。
「よろしくお願いします」
と頭を下げて、動物たちの餌を載せたワゴンを渡された。
「洗わなくていいからね~。終ったら部屋の前に出しておいて。あ、でも部屋が汚れたらそれは自分たちで掃除してね」
「はーい、ありがとうございます」
お礼を言って部屋に戻った。ウサギたちは待っていたらしく、帰ったら飛びつかれた。
「うわあっ!!」
手のひらサイズの黄金色っぽい毛並みのアルと、牛柄っぽい毛の色をしたラージが服にしがみつく。衝撃はあったけど……なんだこれ、かわいいな。二匹をくっつけたまま部屋に入った。
「え? 何? どうしたの~? うわわあっ!?」
後ろからワゴンを押して入ってきた和人にもウサギとモルモットの洗礼があった。けっこう待たせてしまったようで、和人と苦笑しつつ反省した。でも飛びついたら危ないとは伝えておいた。フェンがなんとなく呆れたような顔をしているように見えた。(フェンはさすがに和人に飛びついたりはしなかった)
ウサギやモルモットなら部屋の中で食べてもよさそうだったけど、フェンのごはんは生肉だったのでそれだけ外に出して食べてもらった。ウサギとモルモットのごはんは主に野菜だったが、ウサギの方の皿にはなにか肉のようなものも入っているように見えた。
「近藤君、なんかウサギのエサにさ、肉っぽいもの入ってないか?」
「ああ、野生のウサギは雑食らしいよ~」
「マジか」
そんなこと初めて知った。モルモットとわざわざ付箋がつけられた方には入っていなかったから、きちんと動物の餌は考えられているのだなと思った。モルモットは草食らしい。それにしても、小さいからしょうがないんだがボウルの中に入って食べるのはやめてほしい。まりまり食べてる姿はとてもかわいいんだけどな。
「……近藤君」
「……またお風呂かな~……」
しょうがない。物を知らない飼主の責任だ。俺たちは苦笑しながら、今度は動物たちを連れて露天風呂に向かった。
「あれー? 山倉君と近藤君?」
さっそく部屋の中でくつろいでいた原口先輩に見つかった。そういえば部屋から直接露天風呂に入るようなこと言ってたじゃないか。それだけでなく河野さんと沢井さんも真っ赤になりながら出てきてしまい、みんな水着姿とはいえまんま混浴になってしまった。
わかった。露天風呂は夜は危険だ。
改めてワニのハイと、黄色い子どもの蛇、グリーンを紹介してもらった。
グリーンには最初警戒されてしまったが、挨拶をしたら腕にしゅるりと巻き付いてきた。アルが怒って噛みつこうとしたので止めるのがたいへんだった。
「山倉君も、近藤君も丁寧、だね……」
沢井さんは湯の熱さのせいか頬を赤くしてそう呟いた。
「家族だって、山倉君が言ってたからさ~。ここで一緒に暮らすんだから家族だよね~」
和人が目を反らしながら言う。メガネを外しているからよくは見えないらしいんだけど、必死で女子から目を反らそうとしているのがちょっと面白かった。ちなみに俺は常に和人に視線を向けるようにしている。水着姿とはいえ付き合っているわけでもない女子の身体を見るのはいけないと思う。
「もー、山倉君も近藤君も初心ね~」
「……原口先輩、勘弁してください……」
動物たちを洗って、俺たちはほうほうの体で部屋に戻った。もう勉強どころじゃない。
部屋の前に置いたワゴンは片付けられていた。田貫さんの仕事は早い。
「疲れた……」
「疲れたね~」
もう何もする気になれなかったので、まだ少し早いとは思ったけど寝ることにした。部屋の掃除を改めてしてから電気を消す。ウサギたちがいそいそと俺の顔の近くに寄ってくる。たいへんだけど、このもこふわがすっごくかわいいからやっていけそうだと思った。
あ、でも角は危ないからこっちへ向けるなよ~。
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