♡第8話♡ アロマリベンジ!!
みなさんは覚えていますでしょうか。
今年の新入生に、コペニュの他に飛び級入学した子がいることを。
コペニュと同様に生意気な、金髪のチビ。入学したての魔法披露で、コペニュにボッコボコにされた女の子、その名を……アロマ。
「はい、アロマちゃん、大正解で〜す」
ある日の座学の授業中、教壇に立つメロ〜ンの問に、アロマはズバッと答えてみせました。
やや小難しい問題でしたが、飛び級入学の天才には簡単だったようです。
「これくらいヨユーよ」
ふふんと誇らしげに周囲を見渡しました。
せっかく天才の実力を見せつけたのに、誰一人としてアロマに注目していません。
天才が問題を解いたのに。天才様が発言したっていうのに。
悔しくてしょうがないアロマですが、それよりも苛立つのは……。
「こらコペニュちゃん、授業中にぃ、寝ちゃダメですよぉ」
「んえ? ……メロ〜ン先生、おはよー」
「おはよーじゃありません。この問題わかりますか?」
「わかりませ〜ん。でも天才なので誰にも負けませ〜ん」
「まったくもう。先生、ぷんぷんですよ!」
自分より一個下の憎きライバル、コペニュが寝ていることでした。
一見ただの不良生徒。手に負えない問題児。なのに、クラスメートたちはみ〜んなコペニュに視線をやって、コショコショ話をはじめます。
「さすが天才、ふてぶてしさも様になる」
「あれで召喚魔法の使い手だから本当に凄いよね」
などなど。どいつもこいつも、コペニュを褒めまくっています。
メロ〜ンにしたって、
「先生は今日も可愛いね」
「え〜? コペニュちゃんは褒め上手ねぇ♡ もう寝ちゃダメよぉ」
「は〜い。……ぐ〜ぐ〜」
コペニュに対し甘々すぎなのでした。
幼稚園でももっと厳しい授業をしますわ。
あんた本当に教員免許持ってんのか?
アロマの額に青筋が浮かびます。
同じ天才のはずなのにこっちは誰からも注目されず、不真面目なコペニュだけが目立っているのですから、納得いかないのでしょう。
これもすべて、あの日コペニュに敗北したせい。あの戦い以降、クラスのなかで明確にアロマはコペニュの下にランクダウンしちゃったのです。
あ、もともと下か(笑)。
「うぎぎ……コペニュのやつ……私より年下のくせに……」
こうして、アロマは学年のドンになるために、妥当コペニュを決意するのでした。
なんか語りが無気力ですって? そりゃあまあ、正直、どうでもいいなって。
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それからアロマは、徹底的にコペニュを研究しはじめました。
勝負とは情報戦。相手の弱点を的確に突くことが最重要だからです。
常にコペニュを監視し、癖や傾向を分析。おまけに彼女が召喚する召喚獣すら一匹一匹観察して、対抗策を練りまくりました。
さらに使える魔法を増やすため、2年生や3年生の教科書を読み漁り、図書室にも籠もる毎日。
長らく眺めていた私も、段々と応援したくなるほど、アロマは努力に努力を重ねました。
すべては、コペニュに勝つため! 真の天才として、みんなから注目されるため!!
「キャーアロマちゃんかっこいい!!」その一言を聞きたいがため!!!!
そしてついに、そのときがきたのです。
「コペニュ!! 私と戦いなさい!!」
ある日のお昼休み。学校の食堂にて、アロマは高らかに宣戦布告しました。
さあ見せてやりなさいアロマ、あなたの努力の結晶をッ!!
「えー、いまからご飯なんですけど〜」
「ちょうどいいわ。あんた、辛いのが好きなんですって?」
「うん。辛いラーメン大好き」
「どっちの方が辛いもの食べれるのか、勝負よ!!」
なんでだよ。
なんでそうなるんだよ。
これまでの努力はなんだったんだよ。なんのために勉強してきたんだよ。コペニュが辛いもの好きだって知るためにこの数日を費やしたのかよ。
「へえ、面白そうじゃん。言っとくけど、ピリ辛なんてレベルじゃないわよ、私が食べるのは」
「望むところよっ! あんたが得意なジャンルで圧勝してこそ、あのときの屈辱を晴らせるってもんだわっっ!!」
え、ごめんなさい、アロマちゃんはおバカなのかな?
『バカ』じゃないですよ、『おバカ』ですよ。
普通に決闘すればいいじゃないですか。
もしかしてクスリでもキメてきた?
なにはともあれ、2人のもとに花椒と唐辛子たっぷりのラーメンが運ばれてきました。
コペニュは一口食べ、満足そうに笑みを浮かべます。
一方アロマは、
「うぅ……ぐすっ、ぐすっ」
泣いてました。ママに怒られたんかってくらい泣いてました。
こいつまさか、辛いの苦手なのか? それなのに挑んだの? 嘘でしょ? マジなんかアロマ!!
「あ、諦めないわ……」
コペニュのテンポに負けないよう、アロマは無理してモグモグ激辛ラーメンを食していきます。
止まらない鼻水、ときどきむせて咳払い。私はいったい、なにを見せられているのでしょう。
「やるじゃない、アロマ」
「ふん、まだまだ」
気づけば、2人の周りにギャラリーが集まっていました。
飛び級天才少女同士による、激辛ラーメン対決。
まあほとんどの人が、「なんでこいつらラーメンで競い合ってんの?」と疑問を浮かべているでしょうが。
「見ている、みんな……私を……。お、おばちゃん! タバスコ追加して!!」
「むっ! おばちゃん、私も!」
さらに辛さをパワーアップさせ、勝負再開。この学校のタバスコは市販のものより辛いことで有名で、一口舐めただけで半日は舌が痺れるレベルなんですが、大丈夫なんでしょうか。
コペニュの箸が止まりました。
「むむ、これはちょっと厳しいわね」
これを勝機と捉えたのか、アロマが一気に麺をかきこみました。
「ぶわあああああ!!!!」
あぁもう、泣きすぎて顔面ぐちゃぐちゃですよ。
口からよだれも垂れて、目の前で家族が殺される拷問にかけられてんのかって感じです。
しかしアロマ、それでも吐かない。戻さない。気合で胃に収めていきます。
ギャラリーから応援の声が聞こえてきました。
「すげーぞアロマ!」
「アロマちゃん負けないでー!」
その声援が、アロマのプライドに、勝負心に、承認欲求に火をつけます。
みんなが自分を見ている。目立っている。いま、私は学校のスターなのよ!
「うおおおおお!!!! おばちゃん、超激辛ハバネロ追加してええええ!!!!」
死ぬぞ!! 死んでしまうぞアロマ!!
こんなんで学校の死者数増やすんじゃない!!
食堂のおばちゃんが刻んだハバネロを投入します。
魔法で育てられた、最強のハバネロ。調味料ではなく、兵器として運用されている殺人植物です。
「い、いややきあああああッッッ!!!!」
なんて?
あのコペニュすら若干引いている横で、ついにアロマは、ラーメンを完食しました。
スープまで残さず、きっちりと。
歓声と拍手が食堂内に響き渡ります。
「ふっ、あんたの勝ちよ、アロマ」
あのコペニュが負けを認めました。
入学してはじめての敗北です。
そして、コペニュに土をつけた当の本人は、
「あ……う……」
白目をむいて気絶していました。
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数日後。
「いけ! ファースラー!!」
模擬戦闘の授業で、アロマはコペニュの召喚獣にぶっ飛ばされました。
「私の勝ちね。さすが私、パーニアス!!」
クラスメートたちがコペニュを尊敬の眼差しで見つめます。
「うぅ〜、ぐやじ〜!」
ちなみに、クラス内格差においてアロマはコペニュの上にランクアップすることなく、お笑いキャラとして落ち着きましたとさ。
完全に方向性を見失っているアロマちゃんの明日はどっちだ?
めでたしめでたし。
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