幼馴染みが、おっぱーいーつを始めた

みゃあ

むね


 「――やっぱさ、胸って大きい方がいいとオレは思うんだ」


 拳をぐっと握りしめながらそんなことをのたまっているのは、俺――手塚てづか和己かずきにとっての友人にあたるやつだ。

 三度の飯よりもおっぱいが好きな、いわゆるおっぱいバカ。

 その中でも大きな胸には目がないという、生粋の巨乳派だった。


 「和己もさ、そう思うだろ?」

 「さぁ、どうだろうな……」

 「ハッ照れんなよ! どうせ人類みな巨乳が好きなんだ! でっかいおっぱいサイコー!」

 

 声でけーよコイツ。

 おそるおそる周りをチラ見してみると、女子たちが蔑みの眼差しを送ってきている。それもそうだろうが。

 で、肝心のアイツは……どうやらいないようだ。


 「ん、どうした。品定めでもしてるのか?」

 「違げーよ。お前と一緒にすんな」

 「ちなみに言っとくが、このクラスに大した物量はないぞ。オレのオススメは隣のクラスの大山おおやまさんだ。推定でG……いや、Hに迫るような大きさだ」

 「そうか」

 「あれはきっと持ち上げるのも一苦労だろうな。ぜひともお手伝いさせていただきたい」

 「なら告白してこい。そしてフラれろ」

 「ねぇ、二人してなんの話してるの?」

 「……っ!」


 ふいに割り込んできた声は、俺を動揺させるのに充分だった。

 ゆっくり後ろを振り返ると、そこにいたのは長い黒髪をなびかせる一人の女子。

 幼馴染みの板野いたの愛奈まなが立っていた。


 「おぉ、板野さん! 実は――モゴッ」

 「た、大した話じゃねーから、気にすんな!」

 「えーなにそれ気になるんだけど~?」


 よし、良かった! さっきのやり取りは聞かれてないらしい。

 内心でホッと息をつき、あえて邪険に扱う。


 「ほら、だからどっか行けよ。恋愛相談の邪魔だ」

 「恋愛相談……? あんたたちが?」

 「あ、いや、その……いまのナシ!」

 「はいはいっ! オレは巨乳の女の子が好きでーす!」

 

 バカこの野郎っ! しゃべるな!

 脳内ピンク色の友人の息の根を止めようとしてると、ボソッと愛奈が呟いた。


 「巨乳……」

 「…………」


 バレないよう、チラとだけ振り返る。 

 あまり失礼なことは言いたくないんだが、その、愛奈の胸は控えめだ。制服の上からでも分かるくらい、いや、分からないぐらいペッタンコなのである。

 本人もそのことを気にしてるのか、胸のある辺り? を両手で押さえていた。

 

 「あ、板野さんのおっぱいはちっぱいだけど、めちゃくちゃ美人だからオレ」

 「死ねっ――!」

 「ぐふっ……!?」


 な、なんで俺が殴られるんだ……。

 遠のく意識の中で見たのは、目尻に涙を浮かべている、幼馴染みの姿だった。

 



 「くそっ、まだ痛ぇ……」


 ぶたれた頬をさすりながら、ソファに転がる。

 俺はいま自宅のリビングにいた。壁際にかかった時計を見やると、午後六時を少し過ぎている。

 余計な体力を使ったからか、腹が音を立てた。


 「腹減ったし、飯でも作るか……」


 誰にともなく呟く。

 ウチの両親はいつも帰りが遅いので、ご飯の準備は自分でしなきゃならない。

 面倒だなと思うことはあれど、文句を言ってもしょうがないので動くことにしよう。

 

 「ん?」


 ソファから腰を持ち上げた瞬間、玄関のチャイムが鳴った。

 こんな時間の来客とは珍しいな……いったい誰だろう?


 ゆっくりした足取りで向かい、ドアを開けると、俺は目を疑うことになった。


 「こんばんは~! おっぱーいーつです!」


 は? と思ったのもムリはない。

 玄関先に立っていたのは、愛奈だった。

 いやひとまずそれは置いといて、なに言ってんだコイツ?


 「どうした? どっかで頭でも打ったか?」

 「し、失礼ねっ! こっちは大真面目よ」

 

 ふんと鼻を鳴らす彼女の頬は、かなり赤い。

 言ってて恥ずかしかったのだろうが、だったら言わなきゃいいのにと思う。

 

 「それで、なにか用でも」

 「これ」

 「ん?」


 腕を差し出され、そちらを見ると、お盆に乗せられた丼物があった。

 ホカホカ湯気を立てているのをみるに、出来立てのよう。


 状況が理解できないでいる俺に対し、愛奈は明後日の方を向きながら、説明をしだした。


 「私ね、最近……料理、始めたんだけどさ、いつも作り過ぎちゃうって言うか……それで、食べてくれる人探しててね。そういえば、和己がいたなぁって」

 「いや、おばさんたちがいるだろ」

 「お、お母さんとか遠慮してくるから、食べてもらえなくて」

 「はぁ」

 「で? あんたは食べてくれるの?」

 「まぁ、貰うけど……」


 いまから作るっていう手間を省けるし、腹ペコだし。

 それに、愛奈の手料理だって言うなら、拒もうって気にもならないしな。


 出されたお盆を受け取り、そういえばと口を開く。


 「それで、お代の方なんだが、俺あんまり手持ちがないので」

 「お金はいらない。その代わり――む、胸を揉んでもらうから!」

 「は?」

 「い、言ったでしょ! おっぱーいーつだって」

 「冗談、だよな……?」

 「本気ですけど!」


 鬼気迫る表情で、愛奈が迫ってくる。

 ふざけた発言だろうに、本人はというとふざけてないらしかった。


 「いいのか? こっちはタダ飯もらう上に、その、胸を触らせてもらえるとか」

 「私がいいって言ってるんだからいいの! ほら! ガバッと一思いに!!」

 「いやそもそも揉むような面積が――痛って! 蹴んなよ!?」

 「うるさいっ! あんたが失礼なこと言うから」

 「悪かった! 俺が悪かったから、蹴るのやめろ!」

 「まったく、もう……」


 肩で息をしながら、不貞腐れたような顔をする愛奈。

 愛想をつかされてもいいような反応だったってのに、それでも帰ろうとしない。

 それだけ、胸を揉まれたがっている、ということなのだろうか?

 揉んでいいって話なら、こっちは遠慮なくいかせてもらうけど。


 改めて愛奈を見やる。すると、かすかに肩が震えているのが分かった。

 

 「お前やっぱ、ムリしてないか。バカな提案しちゃったなぁとか」

 「してない! 武者震いよ!」

 「なら、揉むぞ」

 「ん!」


 覚悟の決まったような顔で、愛奈が身体をつき出してくる。

 持っていたお盆を置き、俺は彼女の胸を見た。じーっと、穴が開くぐらいガン見してみる。

 上体をどんなに逸らしても胸の凹凸とかが分からないが、呼吸をするたびに肺は膨らむし、だいたいこの辺にあるだろうって察しはつく。


 おおよその位置を特定した俺は、手を伸ばし、おそるおそる……愛奈のおっぱいに触れた。


 「っ!」


 服越しではあったものの、膨らみがたしかにそこに息づいていた。愛奈ちゃんのまな板とか、絶壁とか言ってたやつらに謝罪させたいぐらいだ。

 女子の胸を触るのは生まれて初めてだったが、こんなに柔らかいとは思わなかった。

 いくら小さいとはいえ、感触はちゃんとある。てかこれ、ちゃんとブラつけてるよな?


 さらに手のひらを押し付けていくと、ドクンドクンと心臓の鼓動まで伝わってくる。心なしか、かなり早い。


 「んっ……」


 切なそうな吐息が、愛奈の唇から漏れる。なんか、エロいな。

 必死で耐え忍んでいるさまが、俺の情欲をより刺激してきて、困るんだが。

 

 「揉まないの……?」

 「え、」

 「おっぱい、揉んでよ。触ってるだけじゃ、お金取るんだからね」


 言われるまでもない。ここでお預けされたらこっちが困る。

 俺は手のひらに力を加え、膨らみのあるところを持ち上げたりしてみる。あんまり力を入れすぎると痛いっていう場合もあるらしいので、最初は優しくだ。


 「はっ……ぁ……っ」

 「おい、ヘンな声出すなよ。気が散るだろ」

 「そんなこと、いわれ、てもっ、勝手に……っ」


 なおも揉み揉みしていくたびに、愛奈は身体を震わせ、グッと噛んだ唇と同じぐらい、肌が色づいていく。

 そろそろ、やめとくか? これ以上は俺が我慢できそうにない。

 だいたい、なんで急に胸を揉めだなんて話になんか……。


 前かがみになりながら、ひとり悶々としていると、


 「ねぇ」

 「ん、ど、どした?」

 「こ、これで、私っ、の、おっぱい、大きくなるよね……?」


 愛奈はそういって、笑ってみせる。

 けれど、目尻に浮かんだ涙が、俺を動揺させるのには充分すぎるもので。


 「お、おい……」

 「揉まれたら、大きくなるんでしょ? 私もこれで、巨乳になれるんでしょ」

 「まさか……お前もしかして、今日のこと気にしてたのか?」

 「……っ」

 「やっぱり。バカかよお前は……あんな胸のことばっか考えてるアホの話なんて聞くだけ損なのに」

 「あんたは」

 「ん?」

 「あんたは、大きいのと小さいの、どっちが好き?」

 「別に、どっちでも」

 「ウソよ! 男はみんな大きいのが好きなんでしょ! 大きいのを持ち上げたり、挟んだり、飛び込んだりしたいとか思ってるのよ!!」


 なんだ急に、叫び出したりして。やめろ、近所迷惑だぞ。

 うろたえる俺に、愛奈がずいっと迫ってくる。


 「だからもっと揉んで! 私のおっぱいを、和己が大きくしてよ! ほら、早く!」

 「……貧乳はステータスだ」

 「は?」

 「希少価値だ。っていう、ことわざがある。必ずしも大きければいいってもんでもない。それを、お前にも分かってほしくて」

 「……私のために言ってくれてるの?」

 「まぁ、な。だから、サイズなんか気にすんなよ」

 「――でも、私は大きくしたい」

 「いや、なんでそこまで頑ななんだよ……」

 「だってあんたの……挟んであげられるようになりたいから」

 

 愛奈の視線がやたらと下の方へと向いている気がする。

 同じように視線を下腹部へ下げていき、俺はひとつの解を得た。


 「あ! いや、これはだな……朝勃ちならぬ夕立というかなんというか……ん? 挟む??」

 

 なんで急にプレイを所望されるのだ?

 キョトンとする俺に、なにを思ったのか愛奈が飛び込んできた。

 視線を下げると、彼女の頭部が目に入る。顔を埋めているせいか、表情が分からない。


 「……なさいよ」

 「え? 悪い、もう一度」

 「いい加減っ、気づきなさいよ……! あんたのことが好きだからに決まってんじゃない!!」

 「――っ!」

 

 俺は息を呑んだ。呼吸もきっと忘れてたと思う。

 突然のことに頭がフリーズしてて、目の前の出来事についていけそうにない。

 そんなだから、愛奈が必死になっているのだろう。


 「好きでもないやつにおっぱいなんか触らせないし! ご飯だってあんたと繋がるために頑張っただけだし! 魅力的だって思ってほしいけど、ないものはないから! そういうのも全部ひっくるめて、和己に喜んでもらえるように考えたの! 分かったか、このニブチン!!」

 「……なんか、悪かった」


 涙目で力説する愛奈に、俺は謝ることしかできない。

 勢いに押され気味だったけれど。これ俺が悪いのか? とも思ったけれど。俺は頭を下げた。

 そんなことがどうでもよくなるぐらいの言葉を、受け取ったからな。

 

 「お前、俺のこと……好きだったんだな」

 「もう最悪……痴女まがいのことして、自分勝手なこといって、こんなんじゃお嫁にいけない……」

 「――じゃあ、俺がもらってもいいか?」

 「え……?」

 

 涙をぼろぼろと零しながら、愛奈が顔を上げた。


 「先に言われちまったけど、俺も愛奈のこと好きだから。貰い手がつかないってんなら」

 「ウソよ! ぬか喜びさせてどうするつもり!?」

 「お前可愛いし、表情豊かだし、スタイル良いし、いい匂いするし、頭いいし」

 「うぅぅ~~~~っ! なんで私を気持ちよくするのよ~っ!」


 いや、ただ褒めただけなんだが。喜んでもらえたようでなによりだけど。


 泣きじゃくる愛奈の背中をさすってやる。

 しばらくの間そうしてると、急に押しのけられた。


 「ど、どうした?」

 「――あとで、ちゃ、ちゃんと私の料理を食べてよ! で、明日の夜も、作りに来るから、か、覚悟しときなさい!!」

 「お、おい……」


 そんな捨てゼリフを吐いて、愛奈は去っていく。

 嵐のような出来事だったけど、とりあえずは恋人になれたってことでいいんだよな?

 

 俺はそう勝手に納得して、すでに冷めてしまった丼物を持って、家に戻ることにした。

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