第1章
入学式。僕はこの名前がすごく嫌いだ。なんと言ってもなぜこの式を執り行う必要があるのかが分からない。ただひたすらに顔も名前も知らない人の隣に座り、校長や来賓の長い長い話を聞かされる。こんな行事が必要である意味がわからない。
嫌々ながらも朝はしっかりと起きた。まだ5時だ。空は薄曇りで、間も無く雨が降りそうな様子であった。気持ちも乗らず布団の上で妄想を始める。
朝、学校に着き、クラス分けの表を見る。当然のことながら、知っている名前はない。自分の名前を見つけ、教室へ向かう。廊下では明らかに同中出身の2人組や、今さっき話しかけたらしき気まずそうな空気を放つ人がいた。僕はそれを全て無視して教室へ向かう。
教室のドアを開ける。少し古い校舎らしく、ドアはスライドさせるにつれ、ギシギシと音を立てる。早く学校に着いた割には、中に人がいる空気を感じた。恐る恐るその方向を見る。
あっと声が漏れた。そこには綺麗な長い黒髪の生徒がいた。ただ1人静かに本に目を落とし、読んでいた。
その本のタイトルは「あの夏の日に」であった。
僕はそんな彼女に目を奪われていた-
はっと目が覚めた。僕はパジャマのまま布団の上で横になっていた。彼女は一体誰だったのだろうか。僕の頭の中にはそれだけが残った。
僕はそれが気になりすぎて、いてもたってもいられなくなった。その衝動に駆られた勢いでベットを飛び出し、リビングへと向かう。朝ご飯の食パンを食べながらも、新調された制服を着ながらも、そのことばかり考えていた。
そのまま家を飛び出し、学校へと向かう。初めての電車通学。昨日の夜まではずっと電車で学校に行くと言う行為そのものが不安で仕方なかったが、今の僕はそれどころではない。とにかく急いで学校へ行かなければならない。そして彼女を見つけなければならない。
校門をくぐり抜け、桜並木の坂道を駆け上がる。そして僕はエントランスへ向かった。そこにはやはりホワイトボードに貼り出された組分け表があった。ざっと500人分はあると言ったところだ。自分の名前を探し出す。
「芦」だから、出席番号はとても早い。小学校と中学校ではいつでも出席番号は1番だった。表の1番最初を見る。
愛川、藍田、相葉……
衝撃を受けた。自分より前にこんなにたくさんもいると。しかも3人も「あい」が続くとは思ってもみなかった。あまりの世界の広さに驚く気持ちを抑え、自分の名前を探した。
ようやく見つけ、クラスを確認する。14組だった。
自分のクラスが判明した頃、僕は不意に彼女を思い出した。次のときには、教室に向かって駆け出していた。
教室についてギシギシと鳴るドアをあければそこにはあの黒髪の女の子が−
いなかった。教室には窓から吹き抜ける風に揺られるカーテンだけが、静かに佇んでいた。ほのかな日差しが差し込む。
僕は出席番号通り、前から2番目の席に座り、そっと目を閉じた。
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