まるで蝶、いや確かに蝶
inu.
第1話 プロローグ
その日は……
空が今にも泣き出しそうなほどに暗く濁っていた。病室の窓に寄りかかり、大学2年生である
「あぁ、お前も何か悩みでも抱えてんの?」
今にも涙がこぼれ落ちてきそうだったのでそう問いかけてやった。本当なら、自分にそう聞いて欲しいくらいだ。大切なものを失い、消失感を感じている今、哀れみをかけられることなく気軽に語れる相手はこの大理石のように重たい空くらいだろう。望めるのなら晴天の君と話したかったんだけど。まぁ、今の俺にはこんな暗い天気がぴったりなのかもしれない。
「なぁ、お前は失う物ある?」
答えが帰ってくるはずもない。ただ気になっただけだった。
「俺さ、大切なものを失ったんだよ。最愛の人が記憶喪失になってさ。もちろん死んでないから"本当に大切なもの"は失ってないけど。でも…大切な思い出を失ったんだ。もちろん俺の中では思い出が存在するけど、彼女が覚えていなきゃ、それは無いも同然だろ?思い出は2人のものなんだから。」
ひたすらに空に向かって語り続けた。そんな時、突然パラパラと雨が降り出した。
「何だよ、泣いてんの?お前も同情してくれんのか。」
ただの思い込みだ。天気というのは人間で言えばただの自己中心的な奴だ。好きな時に笑って好きな時に泣く。たまに、もうやめてくれよと思うくらい怒り狂うときだってある。今だって自分に寄り添って泣いてくれたわけでもなければ、同情してくれた訳でも無い。ただ天気が我が道を行って選択した迄だ。
「俺さ、悲しいはずなのになんだか心底悲しめないんだよ。だって彼女は死んだわけじゃないしさ。なにより…」
「俺はチャンスだと思うんだよ。」
これは神様が俺に与えた試練なのかもしれない。いや、もしかして…神様は俺に同情してくれた?そんな訳が無い事は分かっている。
「こうすることで…俺も彼女も幸せになれると思うんだ。」
あぁ、やっぱり俺って最低だ。
お前も雨なんか降らす余裕があるなら、ついでに俺の邪心も洗い流してくれよ___
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます