小松菜なんて④

「別に『自分の顔が大好きだから写真もいっぱい欲しい!』とかじゃないんですけど、でもさっき話したアカウントのアイコン選ぶ時とかは、なんかちょっと嫌な気持ちになっちゃうんですよね…」

 一見すると、楽しそうな中学生である。だけど、あんまり考えていることは、ちょっとナーバスな中学生と変わりが無さそうだ。まぁ、昔の私がほぼそんな感じなのだけど。


「じゃ『私の写真撮って』って言えばいいじゃない、あ、でもそれは変だわ」

 自分の結論を自分で先回りしてツッコミを入れていく。基本的に、そういう人生だ。


「そうですよね、そんなのおかしいですよね…やっぱり面白いですね、店員さん」

 心底天然に見えるけれど、ポップなネガティブを抱えている。もちろん、こうやって話している時は普通に聴けるけれど、本当は本人の中ではもっと深刻な問題なのかもしれない。


 仮に問題が軽かろうが深かろうが、特に私が介入すべきことではない。

そうだ、赤の他人なのだ。だから、何をしても、どう思われようとも、正直どうでもいい。


「スマホ貸してよ」


「えっ…?あ、はい、いいですよ、ちょっと待ってください」

 カロリーゼロで出来ることがある。というか、カロリーゼロだからやるのだけど。

「はい、写真撮るよ、はい」

「えぇ!ここでですか!?」


 街中を歩いていると、マジでダーツバーの看板前みたいな超どうでもいいところで自撮りをしている女性コンビを見かける時がある。全然映えないスポットなのに、どうしてこんなところで撮るんだろう?と、いつも思う。


「何でもいいんでしょう?写真。だからここで良いじゃん。一枚撮ってあげるよ」

「あぁ…はい、あっ、ありがとうございます…!」


 あぁいう女性コンビに対して1つ思う仮説としては、彼女たちは生き急いでいるのだろう。例えば別れ際、「そういえば写真撮ってないね!」とか。きちんとした写真が欲しければ、最初からそういったスポットを訪れて日中に済ませておくべきだ。というか、そもそも論として、本当に仲が良かったら、写真なんか撮る必要なんかないだろう。だから、その狭間で、中途半端なところで、彼女たちは写真を撮っていたのだろう。生き急いでいるのだ。


「はい、えーはい、チーズ」

 私たちがやっていることは、おそらく彼女たちと変わらない。こんなのっぺりナーバスガールズの私たちでも、私たちなりに生き急いでいるのだろう。


「あ…ありがとうございます」

「ごめんね、超変な場所だけど、国道眩しいし…」

 当たり前だけど、信号は青になるから、車の動きも戻り、辺りはまた騒々しい。というかそもそも夜だから、写真としては大変お粗末なものだろう。

 だけど、必要だと思った。誰のためとか、誰にという訳ではないけど。それは、そこまで深くつっこみを入れられたくない時にする、カロリーゼロの話題と同値だ。


「いや、でも嬉しかったです。嬉しいです。きちんと保存しておきます」


 この妹は、こういう顔をしているなと思った。凄くニコニコしている訳でもないし、視線が凄く真っすぐという訳でもないけど、口をしっかり閉じて、期待をしいてるような。こういう顔が、この妹の自然な顔なんだと思った。他者に向ける顔に、何だかんだ本姓が現れるような。気がしている。


 ちなみに、「私の写真は撮ってくれないんだね」みたいなことを私は言わない。事態が面倒になるからだ。


「あの、」

 事態が面倒になるからだ。


「あの日の缶蹴りのことについて、少しお話しをしてもいいですか?」


 ほらぁ。


◆◆◆作者よりお礼とお願い◆◆◆

ここまで読んで戴きありがとうございました。まだまだ続きますが、これでちょっとした一区切りになります。

引き続き盛り上げるべく、是非とも!★評価とフォローをお願いします。

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