第15話 順子(1)夫は浮気している?
私は
ときどき、宿泊しているホテルに帰ったころを見計らって携帯に連絡を入れるが、切られているか電波の届かないところとの返答がかえってくることが多かった。
翌日のお昼ごろに電話してそのことを聞くと、懇親会の2次会で飲んでいたとか、カラオケで歌っていたとか、言い訳をする。でも確たる証拠はないし、疑いたくはないけど、心配している。
◆ ◆ ◆
夫の秋谷幸雄とは同期の女子が企画してくれた合コンで知り合った。
私はそのころは男の人に負けないように一生懸命に働いていた。まあ、キャリアウーマンといわれているような女子だった。それまで何人かの人と付き合ったことはあったし、男女の関係にもなったこともあった。
幸雄とは初めて会ったときから意気投合した。馬が合うというか、話が合って、話をしていてとても楽しかった。彼は地方の大学を卒業していたが、その時はすっかり洗練されたいわゆる敏腕サラリーマンだった。技術系の営業職で友人にも一目置かれており、評判も悪くなかった。
私たちが男女の関係になるのにそう時間はかからなかった。私たちはHの相性も抜群だった。彼にはそういう才能があると思うくらい上手だった。それで1年後には結婚していた。
私にはすでに何人かの男性との経験があったが、私にぴったりの男性と初めて出会ったと思えたからだった。彼は私のどこが気に入ったとははっきりいわなかったが、私のHのときの感じ方が好きだと言っていた。でも彼は私に過去の男性経験については一切聞かなかった。それは彼には自分に自信があったからだと思っている。
私は一度だけ彼に「どうしてそんなに上手なの?」と聞いたことがあった。その時彼は「若いころ風俗で修業したから」とか言っていたが、結構いろいろな娘と関係があったと思えた。ただ、私もそのことについて一切聞いたりしなかった。私にも彼には私が一番ピッタリだというプライドがあった。
娘の留美は5歳になる。留美を妊娠してから、今に至るまで大変だった。産休で休んだが、その後はすぐに復職して働いている。仕事は止めたくないし、私の生きがいでもある。
夫も育児をできるだけ手伝ってくれるが、男手の限界はある。今は5歳になって次第に手がかからなくなっているが、保育所に預けたり、迎えに行ったり、仕事の制約はかなりある。
娘の世話でお互いに疲労困憊していることもあり、夫婦の営みも疎遠になっている。彼が求めたときに疲れていて応えられないことも多々あった。でも私が求めたときに彼は拒絶したことは一度もなかった。だから安心はしているが、心配ではある。私は彼が好きだ。
◆ ◆ ◆
昨日、昼過ぎに保育所から留美が発熱したから引き取りに来てほしいとの連絡が入った。それで急遽午後休暇を申請して、娘を迎えに行って、小児科で診察を受けて帰ってきた。
先生には喉が腫れているから、しばらく発熱が続くかもしれないと言われた。それで心配になって夫に早く帰って来てほしいと何度も連絡を入れたが電話がつながらなかった。
彼は夜遅くなって帰ってきたので、連絡がつかなかった理由を聞いたら、親友の吉田さんと居酒屋で飲んでいて気づかなかったと言っていた。でも不審に思った。
それで夫には内緒で吉田さんに電話して本当に一緒だったか、確かめようと思った。吉田さん夫妻は結婚式や自宅に招待したりされたりで旧知の仲だった。
土曜日、朝食を終えた9時半ごろに吉田さんの家へ電話をかけた。
「もしもし、吉田です」
「秋谷順子です。ご無沙汰いたしております。秋谷のことでご主人とお話したいのですが?」
「秋谷さんの奥さんから、あなたに出てほしいって」
「吉田です。ご主人にはいつもお世話になっております。ご主人に何かあったのですか?」
「すみません。お休みの日の早朝に」
「いえ、何か?」
「主人が昨晩は吉田さんとご一緒したというので、本当かどうかを内々に確認させていただきたくて、お電話しました」
「それなら、昨晩はご主人と居酒屋で飲んでいました。話が弾んでずいぶん遅くまで付き合わせてしまいました。申し訳ありませんでした」
「そうですか。ありがとうございます。安心いたしました。奥さまにご挨拶したいので、もう一度代っていただけませんか?」
「順子さんが君に挨拶したいそうだ」
「すみません。実は昨日、娘が急に熱を出したので主人に早く帰ってきてほしいと電話しましたが、電話がつながらなくて困りました。それで遅く帰ってきたので、問いただしたら、吉田さんと居酒屋で飲んでいて、周りがうるさかったので気付かなかったと謝っていました。以前にもこういうことがあったので、心配になって、秋谷には内緒で今ご主人に確かめてみました。廸さんにも確認したいのですが、昨晩、ご主人はどうされていましたか、何時ごろおかえりでしたでしょうか?」
「ええ、昨晩の主人ですか?」
「主人は昨晩、秋谷さんと居酒屋で飲んできたといって夜遅く帰りました」
「そうですか。やはり主人と一緒でしたか。分かりました」
「ええ、ずいぶん楽しかったみたいです」
「朝早くから、電話してすみません。ご主人によろしくお伝え願います」
「いいえ、お気になさらないで下さい。今後ともよろしくお願いいたします」
私は電話をおいてほっとした。彼の言っていたことは間違いなさそうだった。
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